【解説】 雇用や売上高……ブレグジットがビジネスに与える影響は?

ダルシニ・デイヴィッド、経済担当編集委員

London commuters Image copyright Getty Images

イギリスが欧州連合(EU)を離脱するまで2カ月を切った今、イギリスの経済や企業はどのような状態なのだろうか?

フィリップ・ハモンド財務相は、「ブレグジット(イギリスのEU離脱)の乱気流の中での粘り強さは特筆に価する」とイギリス経済を評価している。

しかし、前例のない圧力にさらされていると主張する企業もある。

一体何が起こっているのか?

ブレグジットが雇用や生産高や投資にどれくらいの影響を及ぼしているのか、正確な数字を出すことは不可能だ。

2016年の国民投票が違う結果になっていたら、雇用などがその後どうなっていたか、誰にも分からない。

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ビジネス環境にはさらに、中国や欧州の成長鈍化といった要素も影響している。

それでもイギリス企業がどのような状況にあるか、いくつかの証拠から垣間見ることはできる。

人員整理や職の移管は

イギリスの企業は人員整理や職の移管を進めているのだろうか。

表面上の答えは「ノー」だ。

イギリスの就業率は史上最高を記録している。しかし、水面下ではさまざまなことが起こっている。

これまで欧州の金融の中心はロンドンだったが、金融機関はブレグジットの緊急時対応計画の一環として、フランクフルトやパリ、ダブリンなどに代替拠点を設けている。各金融機関はその詳細を明らかにしたがらない。

だが米モルガン・スタンレーやバンク・オブ・アメリカ、英バークレイズがこうした拠点で行っている新規雇用や人員移管は、数千人ではなく数百人規模だという報道がある。

それを鑑みれば、ロンドンの金融街シティーで影響を受ける人数は、国民投票直後の約6万5000人という試算より大幅に小さいとみられる。

シティ・オブ・ロンドンの市長は昨年8月、3月29日までにシティーが喪失する雇用は1万3000人以下との見方を示した。

Image caption ロンドン・シティーから他都市へ人員を移転(赤)、あるいは他都市で新規雇用(青)する金融機関の図。フランクフルトやパリ、ダブリンのほか、アムステルダム、ミラノ、マドリッドへ移る銀行もある

欧州での新規雇用によってイギリス国内の雇用や、今後のEUとの通商関係による雇用が損なわれているのかは分からない。

英ジャガー・ランドローバーや米フォードはイギリスでの人員整理の理由にブレグジットを挙げているものの、ブレグジットは決定要因というよりは一つの要因にすぎない。

自動車メーカーは世界的な需要の減退や過剰供給、ディーゼル車離れといった急激なショックに見舞われているからだ。

3月29日の離脱に先駆け、企業がブレグジットだけを人員整理の理由に挙げるのはまれだ。

著名シェフでレストラン経営者のジェイミー・オリヴァー氏は、国民投票から数カ月後の人員削減はブレグジットのせいだと発言し、国内で嘲笑された。原因はブレグジットよりも、オリヴァー氏のビジネスモデルにあるという批判も出た。

ブレグジットによる不透明感が続く中、企業が採用計画を棚上げすることもあるだろう。特に現状では、合意なしブレグジット対策に投資しなければならないだけに。

ブレグジットが雇用に与える全体的な影響は、もう少ししないと明らかにならないだろう。

ブレグジットは雇用を創出しているか

通商交渉官や企業アドバイザーになるには、今が一番良い時期かもしれない。

2016年6月の国民投票以来、イギリスの就業率は史上最高を更新し続けている。

Image caption 英国家統計局による16~64歳の就業率の推移

2018年、公共部門がブレグジットに絡んでコンサルティング会社と交わした事業契約は9500万ポンド(約135億円)規模に上った。

また、これまで公務員数は減少傾向にあったが、国民投票後には新たに2万人の公務員が新規雇用された。

新たに採用された公務員は、ブレグジットの影響を最も受ける部署に配属されている。

そしてこれは公共部門での話に過ぎない。

民間企業は引き続き、ブレグジット以外の理由で雇用を加速させている。例えば通信大手BT傘下のオープンリーチは、ファイバー・ブロードバンド網の展開に向け、エンジニア1万6000人を追加雇用すると発表している。

企業は事業計画を遅らせているか

企業投資は停滞しており、国民投票以前の政府見通しを10%以上、下回っている。

先行き不透明感が増していることで、企業はブレグジット協定合意による景気回復、いわゆる「deal dividend(合意配当)」を感じておらず、投資を再開しかねているようだ。

Image caption イギリスにおける企業の実質投資(季節調整後)の推移。2016年の国民投票以降、停滞している

投資は2008年の金融危機以降、あまり回復していない。

企業はその代わりに、比較的安価な人件費に資金をつぎ込み続けている。今後もこの戦略は続くだろうし、雇用創出がなお粘り強いことの説明にもなる。

さらに、企業が合意なしブレグジットへの緊急時対応計画を開始している今、投資の目的も多様化する可能性がある。

医薬品大手アストラゼネカは、医薬品の備蓄能力を高めるため、4000万ポンドを投じて試験施設を増設する。

他にも、さまざまな理由から、計画に先駆けて守りに入っている企業がある。

ソニーは関税問題に先手を打つため、電子部門の本社機能をオランダに移管した。

家電大手ダイソンも急成長市場であるアジアを見据え、本社をシンガポールに移す方針を明らかにしている。

一方、高級ブランドのシャネルは、最大市場だという理由からグローバル本社のロンドン移転を発表した。

企業は在庫を増やしているのか

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Image caption 酒販売マジェスティック・ワインは、フランスやスペイン、イタリア産のワイン100万本超を備蓄しているという

ブレグジット後の流通の混乱に備えて在庫を増やしているのは、医薬品メーカーだけではない。

紅茶ブランド「トワイニングス」などを擁する食品大手アソシエイテッド・ブリティッシュ・フードはサプライチェーンの混乱を防ぐため、機械や包装材料を追加購入した。

製菓大手モンデレーズも、原材料や完成製品を備蓄している。

酒販売のマジェスティック・ワインが在庫確保に800万ポンドを投じ、ネスレもコーヒーへの投資を増やしたことを考えれば、イギリス国民がぜいたく品を我慢しなければならないリスクは低いといえる。

もちろん、こうした備蓄は必要ないかもしれない。その場合、在庫の調整や確保のために使われた資金や労力は無駄だったことになる。

しかし現時点では、多くの企業が他に選択肢がないと感じている。

売り上げへの影響は?

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Image caption ファッション業界からもブレグジットによる混乱に懸念の声が挙がっている。写真は左からエスカーダ、シエス・マルジャン、ガブリエラ・ハースト、ボス

イギリスのEU離脱まであと2カ月あるものの、一部の企業は既にその影響を受けている。

商品の発注は通常、数カ月前に行われるものだ。

EUから輸入される醸造向けの大麦は、すでに需要に供給が追いついていない。

大麦はイギリスにとって2番目に多い輸入作物だ。合意なしブレグジットとなれば、現在の市場価格の50%に当たる関税が課せられる可能性がある。

こうした問題は食品だけではない。昨年9月のロンドン・ファッション・ウィークではバイヤーたちが、春物の発注に混乱が生じるのではないかと懸念していた。

不測の事態と不透明感。どちらが理由にせよ、目前に迫ったブレグジットで企業が受ける影響は一時的なものになりそうだ。

経済が受ける全体的な影響は、近く発表される国内総生産(GDP)でもう少し明確になるだろう。

その次にどうなるかは、ウェストミンスター(イギリス連邦議会)の動き次第だ。

ただし、ブレグジット後の影響はどういう内容であれ、今まで見てきた影響よりもはるかに大きいものになるはずだ。

(英語記事 How has business been affected by Brexit?

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