カトリック教会の性的虐待スキャンダル、法王はどうする バチカンで会議始まる

マーティン・バシル、宗教編集長

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キリスト教カトリック教会を揺さぶる性的虐待スキャンダルをめぐり、ローマ法王庁(ヴァチカン)で21日からの3日間、特別会議が開かれることになった。

ローマ法王フランシスコは先に、男性聖職者による修道女の性的暴行について、フランスでは「性奴隷」扱いしていたケースもあると認めたばかり。

こうした事態を受け、法王は9人の枢機卿を招集し、特別会議の開催を決めた。

現代のカトリック教会にとって最も喫緊な危機について、法王は指導力を発揮し、実行可能な解決策を見出さなくてはならない。

教会関係者による性的虐待のニュースは世界中で明らかになった。教会は聖職者による犯罪を隠ぺいし、自らの倫理的権威をぼろぼろにしたと糾弾されている。

法王はさらに、虐待の風潮拡大を許した教会の思い込みや姿勢、慣行などにも立ち向かわなくてはならない。取り組むべき問題の規模は、想像を絶するものになるかもしれない。

特別会議ではまた、130以上の国のカトリック司教協議会会長が招集される。しかしこれは、少なくとも1980年代から教会をむしばんできた病理に取り組むための、第一歩にすぎない。

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Image caption ジェイソン・ベリー氏は、最初にカトリック教会内の性的虐待を暴いたジャーナリストの1人だ

発端はアメリカでの調査報道

米ルイジアナ州で地元紙の記者をしていたジェイソン・ベリー氏がギルバート・ゴース神父による虐待について取材を始めたとき、30年以上たった後もなお燃え続ける国際的な一大スキャンダルになるなどとは思っていなかった。

ベリー氏は、1980年代後半までにカトリック教会が被害者から訴えられては和解した数々の民事裁判を調査し、1992年に著書「Lead Us Not Into Temptation(我らを誘惑から守りたまえ)」を発表した。

2002年には米紙ボストン・グローブが新たに調査報道を重ね、聖職者による性的虐待とその隠匿の事実がますます明らかになった。この報道を手掛けた取材チームは、2003年にピューリッツァー賞の公益報道部門を受賞。2015年には「スポットライト 世紀のスクープ」として映画にもなった。

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Image caption (右から)「スポットライト」のアカデミー賞受賞を祝うボストン・グローブのマイケル・レゼンデス氏、ウォルター・ロビンソン氏、サーシャ・プファイファー氏

スキャンダルはその後も、次々と明らかになった。

昨年には米ペンシルヴェニア州の8つのカトリック教区のうち6教区で調査が行われた。同州のジョシュ・シャピロ州司法長官は教区の内部資料50万点を再調査した。何十人もの目撃者が証拠を提出し、一部の聖職者が罪を認めた。

シャピロ長官が昨年12月に発表した報告書は、悲惨なものだった。

報告書によると、「教会内の記録から1000人以上の未成年の被害者」のほか、「300人以上の神父による確実性の高い疑惑」が特定できたという。

1000ページ以上にわたるこの報告書の調査範囲は過去70年間に及び、含まれる事例は恐ろしい内容ばかりだった。

スクラントン教区では、ある神父が少女を強姦し、少女の妊娠が発覚すると中絶させた。

この神父の上司に当たる教区司教は、1通の手紙を書いている。

「あなたの人生において今はとても大変な時期です。私はあなたの混乱を理解し、あなたと共に悲しんでいる」

手紙のあて先は少女ではなく、加害者の神父だった。

別の教区では、神父が扁桃腺切除手術を受けた7歳の少女を見舞いに病院を訪れ、その場で少女を強姦したという。

9歳の少年に性的虐待を加えた後、聖水で少年の口を洗って「清めた」という事件も記されている。

報告書は、加害者の小児性愛者が未成年者を性的に虐待できたのは、教会が加害司祭を別の教区へ移すことで犯罪を隠匿し、警察に届け出なかったからだと結論付けている。

世界中で明らかにされる性的虐待

フランコ・ムラッカル司教は、インド南西部のケララという小さな町でキャリアを重ね、インド北部で司教の座に着いた。

修道女が強姦被害を訴え出たことで、司教は2018年9月に逮捕された。修道女は、司教がたびたび女子修道院を訪れ自分を強姦したと訴えたが、ムラッカル氏は全ての疑惑を否定し、記者団に対してこの疑惑は『根拠がなくでっち上だ」と語っていた。ムラッカル氏は逮捕に伴い、一時的に司教職を解かれている。

訴えを起こした修道女が上司に宛てた手紙には、ムラッカル氏による強姦は2014年5月に始まり、2016年9月まで続いたと書かれていた。

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Image caption インド・ケララ州ではレイプ疑惑のあるフランコ・ムラッカル司教の逮捕を求め、修道女がハンガーストライキを行った

今年1月、ムラッカル氏への抗議行動を起こしていた修道女たちに、ケララ州の教会当局が同州を立ち去るよう要求した。これは事態収束のための措置だとみられている。

修道女たちはこれを受けて、ケララ州の高官に介入を求めている。また修道女の居住場所は神父や司教が決めるほか、加害者神父に歯向かえば見捨てられるという恐怖があるため、自分達は搾取されていると訴えている。

西アフリカのマラウイでは、64歳までのHIVウイルス感染率が10%以上になる。こうした中、修道女は「純潔」でHIVウイルスを持っている可能性が低いため、性的虐待の標的になっているとの疑惑がある。

「2度と繰り返さない」

オーストラリア政府は2012年、未成年の虐待に関するさまざまな組織の反応を調査する王立委員会を設置した。未成年の養護施設や教育機関、スポーツやその他のコミュニティー機関、そして教会が対象となった。

調査の結果、委員会はオーストラリア国内のカトリック教会の神父の7%が、1950~2010年に未成年を虐待していた可能性があると結論した。指導者の40%が未成年を虐待していたとされる男性修道会もある。

クリッシー・フォスターさんは、メルボルンで2人の子どもを神父に虐待され、教会上部に訴えた。しかし、教会はフォスターさんの主張を取り合わず、代わりに一家はデマと中傷の対象になった。

BBCの取材でフォスターさんは、「私たちが金目当ての嘘つきだと、教会は噂を広めた」と語った。

「教会が教徒にそう言いふらし、みんながそれを信じた。神父が子どもを強姦するなど、誰が信じる? 神父が子どもたちに性的虐待を与えているという真実より、このうそを信じるほうがよっぽど簡単だった」

オーストラリアのローマ・カトリック教会は2018年8月、王立委員会に対する正式な回答を発表した。

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Image caption クリッシー・フォスターさんの2人の子どもは、豪メルボルンで神父に虐待を受けた

オーストラリア司教協議会の会長を務めるマーク・コールリッジ・ブリスベン管区大司教はその中で、オーストラリアでは「あまりにも多くの」聖職者や世俗の教会関係者が、「全ての人の尊厳を、特に最も弱い立場にある子どもや若者の尊厳を、守り尊重する義務を怠った」と認めた。

「今ここで、オーストラリアの司教と修道会のリーダーは声をひとつにし、『2度と繰り返さない』と誓う」と約束した。

「ぞっとするような虐待」

イギリスの未成年性的虐待に関する独立調査会は昨夏、国内で最も名門として有名なカトリック学校についての報告書を発表した。対象となったのはノース・ヨークシャー州のアンプルフォース・コレッジと、サマーセット州のダウンサイド・スクールだ。

報告書によると、この2校は「子どもの保護よりも修道士と学校の評判を優先」し、「アンプルフォースでは最低7歳、ダウンサイドでは最低11歳の未成年に対し、ぞっとするような虐待が何十年も行われていた」という。

調査会はこれらの学校で性的行為を強いられた人から証言を得た。中には、他の生徒がいる中でこうした行為を強制されたという証言もあった。

報告書では、「多くの加害者が自分の性的関心を、子どもたちに隠さなかった」と結論付けた。

「一連の行為はあまりに露骨で、虐待を認める風潮が校内にあったことを表している」

報告書の発表を受け、アンプルフォース・コレッジは「全ての虐待被害者と生存者に対し、修道会と学校は心からの謝罪を繰り返したい」と声明を出した。

ダウンサイド・スクールも似たような謝罪をしている。

「生徒の保護と安全への懸念に対する措置について深刻な失陥と過ちがあったことを、修道会と学校は十分に理解している」

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Image caption ダウンサイド修道会

カトリック教会は地球上のほぼ全ての国に存在し、その信者は12億人を超える。その注目は今、法王フランシスコに集中している。

2013年3月に選出された際、法王はすでに聖職者による虐待スキャンダルが教会に与える影響を十分に認識していた。

それから1年後の2014年7月には、ドイツとイギリス、アイルランドからそれぞれ2人、計6人の被害者と面会した。

この6人も参列した非公開のミサで、法王ははっきりと謝罪の言葉を述べた。

「あなた方に対する聖職者による性的虐待、その罪と重大犯罪について、私は神とその人々の前で悲しみを表します」

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Image caption ヴァチカンで小児性愛者の神父からの虐待被害者への支援を訴える抗議者(写真は2018年10月のもの)

「そして神の許しを請いたい。教会の指導者として、家族や被害者本人からの虐待の報告に適切な対応をしなかった怠慢の罪について、あなた方にも許しを請いたい」

この直後、法王は傘下の未成年者保護委員会にアフリカとオセアニア、アジア、南米から新たに8人のメンバーを加えた。

しかしこの委員会はたちまち、離反者が相次いだ。聖職者による虐待被害を経験した委員はマリー・コリンズ氏とピーター・サンダース氏の2人だけだったが、その2人が共に辞任したのだ。

コリンズ氏は13歳の時に神父から性的暴行を受けた。書簡の中でコリンズ氏は、法王自身は聖職者による虐待問題を追及したいと考えている一方、ヴァチカンの官僚主義が変化に向けた提案を阻止し続けていると述べた。

例えば、委員会は虐待被害者やサバイバーからの連絡には全て返信するべきだという勧告を発表した。しかしコリンズ氏はその後、誰も返信をもらっていないことを突き止めた。

「虐待で人生を台無しにされた人へのケアについて、教会が深く懸念しているという公的な発表は、信じられないと悟った。ヴァチカンの委員会は、被害者の手紙の存在すら認めようとしない。その様子を見ているのは、無理だ」

「この虐待危機の全てを教会がどう扱ってきたか、このことがよく表している。表向きには殊勝な言葉を使い、扉の向こうでは真逆の行いをしている」と、コリンズ氏は締めくくった。

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Image caption マリー・コリンズ氏は自らも聖職者からの性的虐待サバイバーだが、未成年者保護委員会を離脱した

法王フランシスコはヴァチカンの閉ざされた扉を開き、前例のない会議を招集して問題に対処すると決めた。

その一方で法王は、過度な期待はしないようマスコミに釘を刺している。アラブ首長国連邦(UAE)訪問からの帰りの飛行機の中で法王は、3日間の会議は対話の始まりに過ぎないと語った。

もっと簡単に、法王が勅令を出せばいいという意見もある。しかしさまざまな文化や法制度にまたがって存在するカトリック教会にとって、全世界的なルールを定めることは難しい。

82歳の法王にとって、これ以上の喫緊の課題はない。フランシスコ1世が法王に即位した当初は、威厳や礼式よりも指導者としての親しみやすさを、宗教的権威より謙遜と同情を選ぶその人柄が、幅広く歓迎されていた。

しかし、法王としての在位がどう終るのかは、この虐待という厄災に法王がどう取り組み、どう行動し、どういう決まりを実行に移すか、それによって決まるだろう。

警察庁では性犯罪被害の相談電話窓口として、全国共通番号「#8103」を導入しています。内閣府男女共同参画局でも性暴力被害者に必要な情報を提供しています。また現在、43都道府県に「ワンストップ支援センター」が設置されています。

(英語記事 The Pope's biggest challenge

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