「グリーンブック」の作品賞受賞に異論噴出 米アカデミー賞 

ニール・スミスBBCエンターテインメント記者

Viggo Mortensen and Mahershala Ali in Green Book Image copyright Entertainment One
Image caption 第91回米アカデミー賞作品賞に選ばれた「グリーンブック」より

第91回米アカデミー賞授賞式の締めくくりで、作品賞は「グリーンブック」だと発表された。不快感を示したのは、自分の映画が敗れたスパイク・リー監督だけではなかった。

プレゼンターとしてジュリア・ロバーツが作品賞を読み上げると、「ブラック・クランズマン」で脚色賞を得ていたリー監督は怒りのあまり、席を立って退出しようとしたという報道もある

リー監督は式典後に記者団に、「まるで(マディソン・スクエア)ガーデンのコートサイドにいて、審判が誤審したみたいだった」と話した。リー監督は、NBAバスケットボールのファン。「グリーンブック」について、「好みじゃない」とも認めた。

「まるでジンクスだ」、「誰かが誰かを運転するたびに、僕は負けるんだ」と監督は笑った。

これは1990年に作品賞をとった「ドライビング・ミス・デイジー」に言及したもので、当時リー監督の「ドゥ・ザ・ライト・シング」は脚本賞と作品賞の候補に挙がっていたが、いずれも受賞はかなわなかった。今年の「グリーンブック」は題材的に、「ドライビング・ミス・デイジー」とよく比較されている。

「グリーンブック」では、アフリカ系アメリカ人のクラシック・ピアニストを車に乗せて、イタリア系アメリカ人の運転手が1960年代のアメリカ南部を運転して回る。「ドライビング・ミス・デイジー」では、高齢の南部白人女性が不承不承ながら、アフリカ系アメリカ人を自分の運転手として受け入れる。

「誰がどこに座るかは入れ替えたけど!」とリー監督は続けた。「グリーンブック」は作品賞のほか、脚本賞と、ピアニストを演じるマハーシャラ・アリが助演男優賞を獲得した。

スーパーヒーロー映画として初めて作品賞候補になった「ブラックパンサー」の主演、チャドウィック・ボーズマンも、不満をあらわにした1人だ。「グリーンブック」の作品賞受賞が発表され、ピーター・ファレリー監督をはじめ、ほとんど白人男性ばかりの関係者が登壇すると、ボーズマンはやれやれといった表情を浮かべていた。

「グリーンブック」の作品賞受賞には、ソーシャルメディアでも大勢が反発した。

「ああ、こういうのを『ハリウッド的結末』って言うのね」と書いた女性もいた。

「グリーンブックが作品賞?」と呆れた表情の写真と共にツイートした人もいた。

「スパイクはグリーンブックが勝ったのを見た自分たち全員」と書いた人もいた。

米紙ロサンゼルス・タイムズのジャスティン・チャン記者は、強い調子で今回の作品賞を批判し、「『クラッシュ』以来最悪のオスカー作品賞」と書いた。

ロサンゼルスの人種問題を描いた「クラッシュ」が2006年に作品賞をとった際にも、大勢が強く反発した。

英紙インディペンデントのクラリス・ロウリー記者は、「『グリーンブック』は、もうこれ以上はないというくらい伝統的な選択」で、「相変わらずの相変わらず」だと書いた。

映画のタイトルは、かつて人種隔離政策が敷かれていたアメリカ南部を黒人が移動するために使われていたガイドブックの名称からきている。

では、ファレリー監督の映画になぜこれほど大勢が反発しているのか。まず、差別や不寛容を描くハリウッド映画にあまりに頻出する「白人の救世主」迷信を、ますます広めるものだという批判がある。

アリが演じる実在した音楽家、ドン・シャーリーが物語の要だ。しかし、本当の主人公は、ヴィゴ・モーテンセン演じるボディガードの「リップ」ことトニー・ヴァレロンガで、シャーリーとの友情を通じて自分自身の中にある人種差別意識に気づくようになる。

米ニュースサイト「ヴォックス」の批評家、トッド・ヴァンデアワーフは、「体制的人種差別の押しつぶされそうな重みに、自分たちにどういう責任があるのか。その問いに対してこの映画は、白人のせいではないと、自分たちを許してしまっている」と書いた。

ほかにもこの映画については、アリ演じるシャーリーの描き方が、いわゆる「魔法の黒人」的ステレオタイプだという批判もある。つまり、白人により良い変化をもたらすためだけに登場する、便利な黒人キャラクター扱いだというのだ。

「グリーンブック」は昨年のトロント国際映画祭で一般観客賞に選ばれた。トロントでの成功はオスカーでの成功を計る良い指標だと、広く受け止められている。しかし、映画はその後、宣伝的にかなりの障害に次々と直面した。それだけに、昨晩の作品賞はきわめて意外だったのだ。

まず、モーテンセンが上映後の質疑応答で黒人を意味する放送禁止用語を使った。モーテンセンはその後、全面的に謝罪している。続いて、シャーリーの遺族が映画を「うそっぱちの交響曲」と非難し、シャーリーとヴァレロンガの関係を誇張しすぎだと批判した。

Image copyright AFP
Image caption ニック・ヴァレロンガは父トニーとシャーリーの物語を書いて脚本賞と作品賞を受賞した

今年1月にはファレリー監督が、1990年代後半に同僚たちに自分の性器を露出していたことを認め、謝罪した。監督は自分が「間抜け」だったと認め、今は「深く後悔している」と述べた。

父トニーとシャーリーの物語を書いて脚本賞と作品賞を受賞したニック・ヴァレロンガも、2001年9月11日の米同時多発テロについて、当日に「何万人もの」イスラム系住民がニュージャージーで歓声をあげて小躍りしているのを見たという、ドナルド・トランプ氏の主張は「100%正しい」と2015年にツイートしたことを謝罪した。同時多発テロの日にそのような出来事がなかったことは、広く確認されている。

授賞式当日になっても、批判は続いた。「グリーンブック」を紹介するプレゼンターとして、米公民権運動の闘士だったジョン・ルイス下院議員を登場させるのが適切なのか、疑問視する人も大勢いた。米作家でジャーナリストのラケル・セペダは、「グリーンブックの甘ったるいプロパガンダを売り込む」のはトランプ氏の方が適任だっただろうと書いた。

しかし、「グリーンブック」に支持者がいないなどと言えばうそになる。

「何と言われようとかまわない。『グリーンブック』は本当に素晴らしい映画で、あのオスカーはとことんふさわしい!」と、決然とツイートするファンもいた。

(英語記事 Oscars 2019: Green Book best picture win proves divisive

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