極右暴力の新しい脅威 ニュージーランドのモスク銃撃

マイク・ウェンドリング、BBCトレンディング

Brenton Tarrant flashed a hand sign as he appeared in court on Saturday charged with murder Image copyright Getty Images
Image caption 殺人容疑で訴追されて初出廷した容疑者は、分かる人には分かる独特の合図を手で送っていた(16日、ニュージーランド・クライストチャーチ)

ニュージーランド・クライストチャーチで15日に2カ所のモスク(イスラム教礼拝所)を襲撃し、約100人を死傷させたとして殺人容疑で訴追された男は、ソーシャルメディアや極右過激主義に特有の用語や画像を多用していた。

勾留決定などの手続きのため事件翌日に初出廷した際、ブレントン・タラント容疑者(28)は人差し指と親指で丸を作る、「OK」のサインにも見える形を手で作った。

これは白人至上主義者の間で流通している合図だという意見もあるが、それよりはむしろいわゆる「ネット荒らし」的な行為と言えるだろう。確かに過激主義者が使うが、そのほかにも保守派も極右も、そして「オルタナ右翼」も使う。オルタナ右翼とは、極端な内容の投稿が中心の掲示板に集まる、まとまりのない活動家たちのことだ。

事件の直前にオンラインに投稿された文書が、容疑者の犯行声明だと広く受け止められている。その内容を読むと、筆者がいかにこのオルタナ右翼の有害な文化にまみれていたかがよく分かる。

インターネット上に表出する白人国粋主義イデオロギーは、皮肉の上にも皮肉を重ねた表現を隠れみのにしがちだ。憎悪にまみれた表現や画像を積極的に拡散しながら、真正面から過激主義だと非難されないように逃げ道を作っている。

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74ページの悪文

容疑者がどういうイデオロギーを持ち何をインスピレーションとしたのか知るには、生中継された犯行ビデオが手がかりになる。ソーシャルメディア各社は、大量に複製・拡散されるこの動画をなかなか削除できなかった。

犯行声明文は銃撃開始の少し前に、過激な書き込みで知られる掲示板「8chan」に投稿された。「マニフェスト」と呼ばれてもいるが、74ページにおよぶダラダラと混乱してまとまりのない独り言や事実誤認のられつをそう呼ぶのは、過大評価が過ぎる。

この文章のなかで筆者は、保守活動家キャンディス・オーウェンズに大きな影響を受けたと書いている。オーウェンズ氏は確かに、欧州における出生率の低下や人口増について精度の怪しい統計をしばしば持ち出すが、容疑者への影響のほどは疑わしい。容疑者は西洋諸国におけるマイノリティーの存在に徹底的に反対しているが、その一方でオーウェンズ氏はアフリカ系アメリカ人だからだ。

この文書にはさらに、インターネットでは有名なジョークが含まれる。「コピーパスタ」と呼ばれる、どこかからコピーされ、あちこちで何度も何度もペーストされた文章のことだ。米海軍特殊部隊の隊員を名乗る何者かが、過激な掲示板「4chan」の「政治的不適切」板に投稿した内容の流用だ。

筆者はさらに、人気ゲームから民族国家主義や暴力を学んだと書きながら、すぐにそんなわけはないと自分で否定している。

こうした内容はいずれも、病んだ「ジョーク」に見える。声を出して笑えるようなジョークではなく、ネット上で広まるミーム(加工画像やテキスト)的な「面白さ」で、真意を分かりにくくぼかしている。

Image copyright Reuters
Image caption 最初の銃撃現場となったアルヌール・モスク前にはたくさんの追悼の花束などが手向けられている(22日、クライストチャーチ)

真意は分かりにくい。しかし、まったく分からないわけではない。

「白人大虐殺」という陰謀論

犯行声明の筆者は終始一貫して、オルタナ右翼的な新種の過激主義の中核にある陰謀論を繰り返す。つまり世界には、移民と異人種同士が子供を作ることで「白人」を消滅させようという一大計画があるのだと。

これはありもしない作り事だが、ハードコアなオルタナ右翼が抱える被害妄想に見事に共鳴する。遺伝的に厳密に定義される人種グループに対する誤った思い込みと、偽の統計、ゆがめられた統計が組み合わさったものだ。20世紀初頭のアメリカで流布した人種差別的な「一滴」理論(異人種の「血」がわずかでも入ればもはや白人ではないという考え方)もそこに含まれる。

遺伝のみをよりどころにした、一枚岩的にまとまった「白人」文化が世界的に攻撃されているという、荒唐無稽な発想こそ、オルタナ右翼の主張の根幹をなす。もっとも、(まとまった組織のない)この運動の中心人物たちは、クライストチャーチ襲撃のような具体的な暴力行為は表向きには非難するだろうが。

しかし、運動の末端にいる歩兵たちは遠慮しない。モスク襲撃から間もなく、ほとんど何を書いても許される掲示板の8chanと4chanでは、被害者へのお悔やみの言葉も多少あるにはあったが、ほとんどは銃撃を祝福したり、もっとやれとあおったりするおぞましい罵詈雑言で埋め尽くされた。この攻撃が白人国粋主義の動きに悪影響を与えるのではないかという懸念の声もあった。

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同時に、主要メディアが「マニフェスト」全体を真に受けてしまうはずだと予想する書き込みもたくさんあった。

そうはならなかった。調査報道サイト「ベリングキャット」のロバート・エヴァンズ氏は早い段階で警鐘を鳴らし、犯行声明は報道陣に向けて仕掛けられた罠(わな)だと警告した。

「この文章の中には真実もあるし、銃撃犯がどうやって過激化されたのかについて重要な手がかりもある。しかしそれはいずれも、大量の(ここでエヴァンズ氏は排泄物を意味する単語を使った)の下に埋もれている」

ラジオ・ニュージーランドやニュージーランド・ヘラルドなどの地元メディアは事件直後、犯行声明の詳細を伝えなかった。同時に、米紙ニューヨーク・タイムズ米誌アトランティックなど、国際的主要メディアの記者たちも、文書の筆者が意図した情報かく乱をあっさり見抜いた。

Image copyright 4chan

8chanを取り締まるべきか

事件後には、大勢が同じ疑問を抱いた。なぜ捜査当局は過激派の活動を事前に察知するため、8chanや4chanなどの掲示板をもっと監視しないのかと。

匿名掲示板の利用者を追跡するのは大変だ。それを横においても、こうした掲示板を常時監視したからといって、効果が出るとは限らない。書き込みはあまりに大量で、そのほとんどが暴力的な表現や脅しを含んでいるからだ。

ウェブ統計サイト「アレクサ」によると、8chanはグーグル検索結果に表示されないにもかかわらず、世界でアクセスの多い上位5000サイトに入っている。4chanは上位1000サイトに入る。毎日100万の新規投稿があり、月間ユニークユーザー数は2800万人近いというのが言い分だ。

どちらの掲示板でも、人種差別や暴力と自殺の扇動がよくあるというだけでなく、そういう表現が利用者たちの共通言語になっている。

そこまで極端ではないインターネット文化がテーマの板もたくさんあるが、政治板ではテロ攻撃の被害者はほとんどまったく人間扱いされない。むしろ、誰も人間扱いされない。

「皮肉」の死滅

掲示板の様子を外から眺めている人は、クライストチャーチ攻撃直前の投稿のような本当に危険なものと、一見ショッキングな冷笑的な書き込みを、なかなか区別できないかもしれない。

オルタナ右翼は冷笑や皮肉を、武器としても使うし、自分たちを守る隠れみのとしても使ってきた。自分たちの物言いを額面どおりに受け止めるリベラル勢をからかうためにも使うし、白人国粋主義者のテロや殺人をあおっておきながら、責任を回避するために使う。

たとえば、「OK」サインを白人至上主義者の合図にしようという発想は、2017年初めに浮上したものだ。匿名投稿者は(と言っても、4chanでは誰もが匿名なのだが)、ごく普通で一般的なOKサインを「左派の連中」が非難するように仕向けるため、たくさんの偽アカウントを作ったらどうかと提案した。「左派」が無害な合図にいきり立つ構図を作り、嘲笑されるようにしてやろうと。

ソーシャルメディアでは大勢がこれを鵜呑みにした。そして同時に、極右活動家や保守勢力が「OK」サインを前より頻繁に作るようになった。同様に、過激な白人国粋主義者たちも。

増える死者数

ドナルド・トランプ氏の選挙戦に便乗するように、オルタナ右翼が最初に注目された当時、支持する右派サイトは、警鐘を鳴らす左派活動家や主要メディアは過剰反応をしているという態度だった。

しかしその後、この運動が一部がいかに暴力的なものか、白日の下にさらされた。

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シャーロッツビル衝突 現場記者が見た光景とトランプ氏の発言を比較

米南部貧困法律センターが昨年2月に発表した調査によると、2014年から2018年にかけてオルタナ右翼の関係者に殺害された被害者の数は43人だった。

なかでも特に有名なのが、2017年7月の米ヴァージニア州シャーロッツヴィルでの事件(白人至上主義者の集会に抗議した人たちの中に男が車で突入し、女性1人が死亡)や、2017年5月のオレゴン州ポートランドでの事件(通勤電車で乗客に差別的暴言を浴びせられているイスラム教徒の10代女性2人を助けようとした男性3人が、相手の乗客に刺され、2人が死亡)だ。

そして今回、クライストチャーチの事件によって、オルタナ右翼による死者数は一気に倍増した。

(英語記事 Christchurch shootings: The rising new threat of far-right violence

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