【解説】 トランプ米大統領政権にとって一番良い日 ムラー報告書

ジョン・ソープルBBC北米編集長

Trump departs from Florida Image copyright Reuters

あの映画は何と言ったか。「As Good as It Gets」だったか(訳注・これ以上はないほど最高、の意味。映画の邦題は「恋愛小説家」)。ムラー報告書について司法長官が長さ4ページの要約を公表した今、ドナルド・トランプ氏はそう感じているに違いない。

ムラー報告書と司法長官の手紙の内容は、これ以上はないというほど重要だ。

もしも米野党・民主党がこの大統領をホワイトハウスから追い出したいなら、それは2020年11月の選挙でやるしかない。それ以前はもうあり得ない。

大統領の上に1年10カ月にわたり影を落としていた暗雲は、消えてなくなった。両肩にのしかかっていた重みは、消えてなくなった。

3月24日は紛れもなく、2017年1月の就任式以来、ドナルド・トランプ大統領にとって最高の1日だ。なのでどういうことなのか、詳しく見ていこう。

ロバート・ムラー特別検察官の捜査報告書は2部に別れていた。まずは、トランプ陣営とロシア当局の間に結託があったかどうか。

それについては、完全に無罪が認められた。ムラー氏は、トランプ選対はロシアと共謀も連携もしていないと結論した。この件はこれでもう終わりだ。

一方で、司法妨害の問題については、あいまいな部分がある。

ムラー氏は非常に興味深い一文を書いている。「この報告書は大統領が犯罪を犯したとは結論しないものの、無罪と認定するわけでもない」と。

しかし、その内容を点検したウィリアム・バー司法長官はこう書いた。「ロッド・ローゼンスタイン司法副長官と私は、特別検察官の捜査で得られた証拠は、大統領が司法妨害の罪を犯したと断定するには不十分だと結論しました」と。

つまり司法長官からすると、この点についてもトランプ氏は無罪なのだ。

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あいまいな部分は、民主党がどこに注目するかだ。ここでも2つに分けて考えてみよう。ひとつは法的、ひとつは政治的な側面だ。

法的には、下院司法委員会がムラー報告書の全文提出を要求するはずだ。

なぜムラー特別検察官が、司法妨害について大統領の無罪を認定できなかったのか、司法委は知りたがるだろう。

忘れてならないのは、司法妨害の重大性だ。司法妨害罪は大統領の弾劾に至ることもあり得る、いわゆる「重罪と軽罪」のひとつだからだ。

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これめぐる与野党の攻防は果てしなく続くだろう。そして、召喚状が飛び交い始めたとしても、まったく驚かない。

連邦議会の委員会は、証人や証拠を召喚する権利がある。なので、できる限りその権限を行使するに決まっている。長期戦に持ち込んで、大統領にダメージを与えようとするだろう。

司法妨害の罪で大統領を起訴するには、妨害する意図の証拠が必要だった。そのため、確かに大統領はジェイムズ・コーミー前連邦捜査局(FBI)長官を罷免したし、ツイッターでは常時ムラー捜査を罵倒しまくっていたが、そうした真似の動機が単なる憂さ晴らし、わざと法律を破ろうとしたのでなければ、法的には何も悪いことはしていないことになる。、

これとはほかに、もちろん、トランプ・オーガナイゼーションの色々な部分について様々な犯罪捜査が続いている。トランプ基金について、就任式委員会について。あるいは、トランプ・オーガナイゼーションが保有資産の価値について保険金額を操作したかもしれない可能性について。

一連の捜査はこれからも続き、やがては終わる。しかし、ムラー報告書の結論こそ大統領にとって最大の危機になる可能性をはらんでいたし、それが結局は「無罪」という結論だったのは、トランプ氏にってとてつもない朗報だ。

次は、政治的側面だ。

<ソープル北米編集長の過去記事>

民主党がこうして闘い続けるのは、まったく理解できるし、ある意味でそうしないなら野党による権力放棄を意味することになる。そして、大統領に今まで以上に打撃を与えるかもしれない。しかし、そうすることは民主党にとってチャンスかもしれないが、それよりも何よりもリスクが大きい。

世論は今日のニュース速報を眺めて、ニュースサイトを眺め、22カ月の長きにわたってくたびれ果てるほど続いた一連の経緯について、「そうか、終わりか。じゃあ先へ進もう」と思うだろう。

たとえムラー報告書の全文が公表されたとしても、補足に付録だらけのそのすべてを読破する普通の人(大嫌いな表現だが、申し訳ない)はどれだけいるのか。

おそらく、それほど多くはいないと思う。それに私たちはみな忙しいし、ひとつの事案に注目していられる時間は限られている。

有能な政治家ほど、そのことを承知している。有権者のかなりの部分はただ単に、「やれやれ、終わった。良かった」と思うだけだ。

民主党が直面する危険は、ビル・クリントン氏を弾劾・罷免しようとした共和党が直面した危険と、まったく同じだ。

偽証もしたし、うそもついたが、クリントン氏は2000年に極めて高い支持率で大統領の任期を満了し、退任した。

どうしてそうなった? 景気が絶好調だったというのが、理由の一部だ。それと同時に、民主党支持者たちは共和党が国益よりも党の利益を優先して政治ゲームに興じているとみなして、強い嫌悪感を抱いていたからというのもある。

そして……トランプ氏お気入りの表現を使うなら、当時の共和党は「魔女狩り」を繰り広げているという、そういう感覚があったのだ。

今の連邦議会でも民主党幹部の間には、弾劾を追及する路線への警戒心が常にあった。しかし今となっては、普通の人々の抱える諸問題、医療や仕事や大学の学費や教育や鎮痛剤中毒の広がりなどなど、そういう問題よりも、大統領を引きずり下ろすことに執着していると、そういう印象を民主党が与えていいのかどうか、考える必要がある。

私がこれを書いている今、トランプ氏は大統領専用機でワシントンへの帰路についている。

トランプ氏はまったく酒を飲まない人だが、そうでなければシャンペンを開けているに違いない。もしかしたら、いつもより多く氷を入れたダイエット・コークで祝うのかもしれない。

彼は一貫して、これはでたらめで魔女狩りだと言い続けていた。まさにその通りになったと主張するのも、無理もない。

その論調を変えようと民主党はがんばるだろうが、実現はとてつもなく難しいはずだ。

(英語記事 Mueller report: The best day of Trump's presidency

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