「無罪確定」だと喜ぶトランプ氏の支持基盤 根深いワシントン不信

タラ・マケルヴィー、BBCニュース

Russellville
Image caption アーカンソー州ラッセルヴィルにあるポープ郡の7割が大統領選でトランプ氏に投票した

米アーカンソー州の人たちは、ムラー捜査は「魔女狩り」だと思っていたし、特別検察官の捜査報告書の結論を大いに歓迎している。ドナルド・トランプ米大統領を深く敬愛し、その分だけワシントン政界や特別検察官を深く疑っている。

ジョイス・スミスさんは、定年退職するまで看護師だった。オクラホマ州内を車で移動していた24日、報告書の内容を知った。友人からのテキストメールでニュースを知り、運転していた夫ウォルターさんに伝えた。夫妻はムラー氏の結論に大喜びした。

ワシントンの連邦議会の民主党やリベラル派などからは、捜査継続を求める声が上がるかもしれない。しかしジョイスさんは、アーカンソーに住むほとんどの人が自分たちと同意見だと言う。「飛行機が上空を通過する地方の住人(flyover people)」と、ジョイスさんは自嘲する。「国の中央部にいて何かと飛ばされ、無視される人たち」。トランプ氏に言わせると、「忘れられた人たち」だ。

この人たちこそ、トランプ大統領の揺るぎない支持基盤だ。「トランプは無罪放免だ」とウォルターさんは言った。同じように、この土地の人たちはムラー報告書の結論を大いに歓迎した。

飛行機に通過される地方、フライオーバー・カントリー。アメリカの中心部を知る人たちにはおなじみの風景の中、スミス夫妻は車を走らせた。アメリカの町村や農村部に特徴的な、困窮と我慢強さと愛国心。それはアーカンソー州の西部や中心部でも、あちこちで目に入る。

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スミス夫妻はオハイオヘ向かう前、アーカンソー・ラッセルヴィルの下町に立ち寄った。空きビルが目立ち、巨大な星条旗が風に激しくはためいている。

ムラー特別検察官は、アメリカの民主手続きに介入したロシア当局に、トランプ陣営が共謀したという証拠は見つからなかったと結論した。ここラッセルヴィルに住むスミス夫妻をはじめ2万9000人の人たちは、その判定を大いに満足した。

スミス夫妻にとって、トランプ氏は犯罪者ではない。ロシアのスパイでもない。むしろ、国に経済成長を、アーカンソーに希望をもたらしてくれた指導者なのだ。

ワシントンではトランプ氏を弾劾しろと批判が高まったが、そのワシントンの「沼を干上がらせろ」と既存の政界批判を展開したトランプ氏を、アメリカ各地の町が応援した。ラッセルヴィルもそのひとつだ。

ラッセルヴィルのあるポープ郡は2016年大統領選で、有権者の7割以上がトランプ氏に投票した。住民は今もそのトランプ氏をゆるぎなく応援しているし、近くのプラスキ郡在住だったサラ・ハッカビー・サンダース氏が大統領報道官としてホワイトハウスで働いていることを、誇らしく思っている。

ラッセルヴィルの大勢にとって、大統領に対する熱意は選挙前と変らない。自分たちの経済状態も、選挙前とたいして変らないのだが。この町では世帯収入の中央値は3万5000ドル(約385万円)で、全国平均の5万6000ドルよりかなり低い。

Image caption ジョイス・スミスさんは、ロバート・ムラー氏もその捜査も信用しなかったと話す

製造業で働く高給取りもいる(台所用品・調理器具メーカーのグレイスはここが地元だ)。近くにある鶏肉工場で働く人もいる。それと同時に、バーガーキングなどのファストフード店で働く人も多く、そのほかにはスミス夫妻の息子のようにまともな仕事を探してオハイオやその他の州に引っ越すことになる人もいる。

ラッセルヴィルに暮らす大勢が直面する問題は、トランプ氏が大統領になっても解決していない。しかし少なくとも、立ち上がって共通の敵と戦ってくれたのだから。共通の敵とはすなわち、ワシントンの政府だ。

連邦政府に対するこの深い疑いは、ロシア疑惑捜査によってあらためて浮き彫りになった。しかし、連邦政府への猜疑心(さいぎしん)には長い歴史がある。ここの人たちがワシントンを嫌う気持ちはあまりに深く根ざしているので、大統領が今後どのような苦境(あるいは捜査)に見舞われようと、ここの人たちはおそらく大統領を擁護し続けるだろう。

ワシントンの連邦政府への反感がアーカンソーなど南部の州に根強く、連邦政府による事件捜査や特別検察官を毛嫌いするのは、アメリカの南北戦争の後の南部再建の時代にさかのぼるという研究者もいる。

アーカンソー工科大学で歴史学を教えるケリー・ジョーンズ准教授によると、当時のアーカンソーなど南部に住む白人の間には、新しい政治秩序への不満が強かった。連邦政府は腐敗していると批判し、「不信感」を抱いていた。現代のアーカンソーでも、ワシントンやムラー捜査について地元の人たちは同じように「不信感」を口にする。

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連邦政府を憎む歴史上の理由はほかにもある。この土地の人たちは、自分たちの独立精神や生活力に自信を抱いている。

ラッセルヴィルのバーガーキングの前でウォルター・スミスさんは、40年以上前に妻と州内を車で移動している最中に、広大な農地が広がる丘陵の風景が気に入ったのだと話す。

「樫、杉、松」。ジョイスさんが、木の名前を教えてくれる。夫婦でこの地に引っ越そうと決めて以来、ウォルターさんはこれまでに家を建て、スクールバスを運転し、ミルク用にヤギを育ててきた。ワシントンへの深い猜疑心を口にして、「ほどこし」を受ける人たちをも疑った。

Image caption ウォルター・スミスさんは、トランプ氏が見事にワシントンと戦ってきたと評価している

アーカンソーの保守派は何年も前、別の特別検察官をやはり拒絶した。同じように、ワシントンを毛嫌いしながら。

1990年代後半のことだ。ケン・スター特別検察官は、アーカンソー州知事から大統領になった民主党のビル・クリントン氏を捜査した。スター氏はワシントン政界を象徴するような存在となり、民主党からも共和党からも嫌われた。

地元紙ノースウェスト・アーカンソー民主ガゼットの政治記者、ダグ・トンプソン氏によると、「クリントン夫妻が大嫌いでも、同じように特別検察官も大嫌いだという人が、州内に複数いた」のだ。

町の人たちは口々に、同じようにムラー報告書を見下した。「トランプの評判を落とすためのでっちあげ」だと、ジョイスさんは言う。

町の弁護士、サム・イーストマンさんは、ムラー捜査は「人を追い出すためのものだった」と言う。特に、大統領の支持者を追い出すためのものだったと。

「自分は共和党も民主党も大して好きじゃないし、向こうもこちらのことを特に気にかけていないと思う」。イーストマンさんは連邦議会についてこう言った。

Image caption トニ・クライツさんと母メアリー・ダラムさんは、捜査継続を期待している

経営学を学ぶ大学生のティモシー・シュローターさんは、捜査が決着し、国が次に進めるので良かったと話す。24日夜は親類のトニ・クライツさんの家で過ごした。トニさんはラッセルヴィル東部にある養鶏場の近くに住んでいる。

連邦議会の議員は「自分の利害を優先させていると思う」と、ティモシーさんは批判する。「私腹を肥やすだけでなくて、国を良くしようと思ってもらいたいけど」。

捜査報告書の内容はもう公表されたのだから、大統領には本来の仕事に戻ってもらいたいとティモシーさんは言う。しかし、アメリカの歴史のこの部分がこれでおしまいになるのを望まない人もいる。たとえばトニさんは、捜査陣にはもっと証拠を探してもらいたいと話す。

「もっととことん探って、確認してもらいたい。トランプは沼をきれいになんてしていない。むしろ、前より大きい沼を作ってしまった」

Image caption フィリス・ハモンドさんは報告書の全体が見たいという

応接間でトニさんの向かいに座っていた姉妹のフィリス・ハモンドさんは、「報告書の中身はまだほかにもある」と指摘する。

「報告書のすべてを、全員が見るべきだと思う。確実に確認する必要がある」とフィリスさんは話した。

それでもこの町に住むほとんどの人は、スミス夫妻に似ている。大統領を信じて、特別検察官も連邦議会もその他ワシントンの住人はすべて、大統領の邪魔になるだけだと考える、「忘れられた人たち」だ。

ワシントンの連中は、誰が自分たちのボスなのか忘れている」とジョイス・スミスさんは言う。「国民の私たちなのに。私たちに選ばれて、あそこにいるのに」。

(英語記事 'Exonerated': The verdict on Mueller from Trump's heartland

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