世界を揺るがす――より良い未来のためのモノづくり

ベン・キング

Disruptors

世界の工場で革命が起きている。ロボット、人工知能(AI)、3D印刷がもたらす製造業の革命が、私たちの世界を揺るがしている。

人が何を、どうやって作るか。これによって都市は栄えては廃れ、帝国は興亡する。それだけに、世界の工場が大きく変化すると、世界も大きく変化するのだ。

その日は間違いなくやってくる。今や世界中で工場のデジタル化が進み、より素早く、より柔軟に、より効率的にモノを造るため、新しいセンサーやコンピューターが導入されている。

ロボットは新しい技術や新しい働き方を学習している。3Dプリンターは、デジタル設計図をもとに、何でもどこでも造れるという世界を、以前から約束してきたし、そのビジョンは現実に近づきつつある。

これが進めば、今までよりもっと清潔な工場、もっと低価格でもっと優れた製品、私たち1人1人の必要や欲求に合わせてパーソナライズされた製品ができると期待されている。工場につきものだった不潔で単純な反復が多く危険な作業を、人間はもうしなくて済むようになると言われている。

しかし、製造業の仕事はこれまで常に、実際の仕事の規模をはるかに超える政治的影響力を担ってきた。大学教育を受けていない労働者にとっては、製造業の仕事が多くの場合、最も高収入で社会的地位も高い仕事なのだ。

新技術の到来によって全体の雇用の数が減るかもしれないし、残る仕事の種類は今までと違ったものに、今までより高度な技術を必要とするものになるだろう。機械工の職は減り、プログラマーの雇用が増えるはずだ。そして働く場所も、変わるだろう。

確実なことはひとつ。新しいモノづくりは近く、世界を揺るがす。

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【世界を揺るがす】 ロボットで変わる世界の工場 雇用は

高速3D印刷で金属部品

米マサチューセッツ州はこれまでも、産業の揺らぎを経験してきた。まずは紡績産業が栄えたが、次第に安い労働力を求めて南部へ移動した。しかし今では、新しい産業革命に取り組む企業群が、マサチューセッツを拠点にしている。

そのひとつが、デスクトップ・メタルだ。創業者はヴェネズエラ出身のリック・フロップ氏。若いころに渡米し、無線通信から電池まで、様々なメーカーを立ち上げた。

フロップ氏が起業した一番新しい会社は現在、時価総額15億ドルに達する。デジタル設計図をもとに短時間であらゆる金属部品を造れる、3D印刷技術の確立を目指している。金属の3D印刷技術はもちろん、もう何年も前からあるが、高コストで時間がかかる。これに対してデスクトップ・メタル社は、フライス盤加工や鋳造など既存の製造技術よりも、速く安い3D印刷技術を目指している。

そうやって造られた金属部品は、自動車から洗濯機、航空機に至るまで、現代の重要な機械の基礎となる。

デスクトップ・メタルの最初の大量生産システムはいま、顧客のもとに届けられているところだ。造ることのできる部品の量は年間最大300トンになる。

オフィスのインクジェット・プリンターに似た技術を使い接着剤を印刷し、金属粉の薄い層を作る。これが、製品の原料となる。

薄い層が積みあがり三次元になったものを粉から取り出し、加熱して接着剤を取り除く。出来上がったものは硬い金属で、先端機器の部品として酷使されても耐えられる強度を持つ。

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【世界を揺るがす】 金属部品を3D印刷で大量生産

この製造方法が私たちの生活をいかに変えるか、フロップ氏はピストンヘッドを持ち上げて説明した。ピストンヘッドは自動車のエンジンに不可欠な部品で、フロップ氏の手にあるのも普通のピストンヘッドに見える。直径約10センチの平らな円柱形だ。しかしデスクトップ・メタル製のピストンヘッドは中が違う。この円柱は金属の塊ではなく、内側では繊維質に見えるものが複雑に絡み合っている。自動車の内部というよりは、生き物の体内のようだ。

できるだけ効率の良い形になるよう人工知能(AI)が設計したものだ。固形の部品と同じ強度を持ちつつ遥かに軽く、その分だけ製造費用も安く、エンジンが燃やす燃料も少なくて済む。

3D印刷は、どういうモノを造るかを変革するだけでなく、どこで造るかも変える可能性があると、フロップ氏は考えている。現在では、新しい部品を造るための工作機械を用意するには資金がいる。そのため企業は、少数の大工場を作り、そこで大量に生産し、世界中に輸送する。

フロップ氏によると、3D印刷を使えば、ひとつの工場が航空機から宝飾品まで、日替わりで作れるようになるはずだ。単にコンピューターに違うファイルを入力すればいいだけなので。そのため、実に多種多様な製品が地元で造れるようになる。一カ所から世界中に運ぶ必要はなくなる。

「3D印刷は、身近なモノづくりを助け、地域経済を活性化させるかもしれない」。シンクタンク「世界経済フォーラム(WEF)」で製造業界を研究するエレナ・ローラン氏は、「とても面白いと思う」と期待する。

デスクトップ・メタルは製造業に訪れているイノベーションの波の一端に過ぎない。この変革は「第四の産業革命」という壮大な名前で呼ばれることが多い。最初の産業革命はイギリスの紡績工場で始まり、やがて人間の生活のほとんどあらゆる側面を様変わりさせた。

第二の産業革命は、製鉄業から自動車産業へと発展し、第三の産業革命は私たちにコンピューターをもたらした。そして、3D印刷やロボット工学やあらゆる関連技術が作り出す第四の産業革命は、以前の産業革命と同じくらい重要なものになるはずだと、その応援団に期待されている。

デジタル・ツイン

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【世界を揺るがす】未来の工場を制御する ロボットの活躍

ドイツ中部バート・ノイシュタットにあるシーメンスの工場にも、この産業革命が全面的に到来している。新しいモノづくりの回転音が、場内で規則的に鳴り続ける。

明るく広々とした構内では、ロボットが他のロボット用のモーターを造り、ガラスのケージの中で果てしなくクルクルと回転している。

部品は自動化された倉庫内で仕分けされ、保管される。無人で動くフォークリフトが通路を威勢よく行き来する。完成品のモーターを包装するのも機械だ。

この工場で造るモーターの種類は3万以上。そのため、多種多様な製造工程に柔軟に対応する必要がある。そのためシーメンスは、ここを自動化製造技術のショーケースにしている。未来の工場の電子脳だ。

ここでは工場のほとんど全てを管理するため、「デジタル・ツイン」と呼ばれる仕組みを使っている。部品の設計から製造方法の決定、製造パフォーマンスの監督まで、全てが対象となる。

「双子」のロボットを使うことで、新しい組立工程の作業効率を試すことができる。「双子」のドリルを使ってバーチャル金属の塊を成型すれば、技師は机から離れなくても、求める形の最も効率的な造り方を模索できる。

競争力を維持するには、この工場は費用を抑え、競って注文を獲得しなくてはならない。効率化の新しい方法は、なかなか見つからなくなっていた。

しかし、デジタル・ツイン技術を使うことで、物によっては部品の製造コストを最大2割も削ることができたと、シーメンズのペーター・ゼック氏は言う。工場の生産高も拡大し、労働者の数を増やすことなく、年間生産高は60万ユニットから75万ユニットに増えた。

新しい産業用ロボットへの投資規模は相当なものだ。国際ロボット連盟(IFR)によると、過去5年間で倍以上に増えた。

しかし、ロボットがこなせる作業の種類はまだ限られている。繰り返し作業は得意で、決して飽きたりしない。そのため、同じ型の自動車シャシーを毎日毎日まったく同じように溶接し続ける作業は、圧倒的に人間よりロボットが上手だ。

その一方で、ごちゃごちゃと散らかった世界を前にすると、ロボットは呆然として対応できない。おかげで、工場内でロボットができる作業には限りがある。

散らかった部屋を片付けるには

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【世界を揺るがす】 片付けロボットに期待、靴下やおもちゃを選別できるか

東京中心部の地下室では、ITベンチャーがまさにその点を変えようとしている。プリファード・ネットワークス社は「ディープラーニング(深層学習)」と呼ばれるAIを応用し、ロボットが見たことのないもの、形の定まらないものに対応できるよう教育している。

特に目を引くプロジェクトは、2機のロボットが子供の寝室を片付けるシステムだ。

人間の6歳児なら(それなりのやる気が出れば)簡単にできる作業だが、ロボットには難しい。

くしゃくしゃに丸められ、ランダムに散らかったものを全て特定し、どうやって拾い上げるか判断し、ふさわしい箱はゴミ箱に入れなくてはならない。

ロボットの作業は遅々として進まず、何かが分からないとすぐ動けなくなってしまう。たとえば、この記者の靴下を、靴下として認識できなかった。今まで経験してきた靴下よりも大きくて、カラフルだったからだ。

それでもなお、同社の創業者で最高経営責任者の西川徹氏は、5年以内にお掃除ロボットの販売を開始したいと話す。

同社にはファナック社も出資している。ファナックと言えば、世界各地で最先端を行く工場でせっせと働くレモンイエローのロボットアームのメーカーだ。

ファナックとプリファード・ネットワークスは2015年から協業を開始し、ファナックの産業ロボットの性能向上のために深層学習技術を応用してきた。

プリファード・ネットワークスのデモ室では、色々なものが入ったかごをファナックのロボットアームがスキャンし、どれをどのように持ち上げるか考え、別のかごに移す作業を繰り返している。

初めて見るモノも持ち上げることができる。取材するカメラマンのスマートフォンも。

未来の工場では、この技術を使って選別した金属部品を、別のロボットが組み立てたり、小売店のレジで食品を選別して包むこともできるようになるかもしれない。

なんてロボットは色々なことができるのだろうと感心しながら、プリファード・ネットワークスのオフィスを後にする。それと同時に、人間と同じような能力をロボットが持つまでには、なんてまだまだ開発が必要なのだろうと思う。

世界最高レベルで優秀なロボットが、カラフルな靴下でわけが分からなくなってしまうのなら、もしかするとまだ人間にも未来はあるのかもしれない。

電気自動車テスラの工場で製造が遅れに遅れたため、イーロン・マスク最高経営責任者は昨年、過剰な自動化は間違いだったと認め、「人間は過小評価されすぎている」とツイートするに至った。

効率改善とはどうしても、作業人数を減らしても同じ仕事をするという意味になる。しかし、多くの先進国では熟練技術者の不足こそ、工場責任者の悩みの種だ。だからこそ、解決策として自動化やロボットに期待しているのだ。

しかし、WEFのローラン氏は、製造業が急激に変化している今こそ、世界をもっと良い場所にする素晴らしいチャンスだと期待する。

「最大の技術革新と最大の経済成長、最大の良質な雇用がひとつにまとまっている体系こそ、製造業だ。歴史的にそうだった。その製造業が変わっているのは目にも明らかだ。製造業の体系そのものを作りかえる機会が訪れている。もしそれが実現できれば、とてつもなく大きい意味をもつはずだ」

(英語記事 The Disruptors: Making a Better Future

(DXCテクノロジーと共同企画記事)

記者:ベン・キング

シリーズ・プロデューサー:フィリパ・グッドリッチ、ベン・キング

撮影:イアン・カートライト(米)、ハンス・シャウエルテ(独)、秋葉磁郎(日)

製作:キジー・コックス

デザインー:ローラ・フルウェリン

写真:BBC、 Getty

編集:ロブ・スティーヴンソン

編集長:メアリー・ウィルキンソン

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