【解説】 米中貿易戦争で敗れるのは誰か

ダニエル・トーマス(ビジネス記者、BBCニュース)

US President Donald J. Trump (L) talks with Vice Premier of the People"s Republic of China Liu He (R) during a meeting in the Oval Office of the White House in Washington, DC, USA, 22 January 2019. Image copyright EPA
Image caption 1月22日にホワイトハウスで面会したドナルド・トランプ米大統領(左)と中国の劉鶴副首相(右)

アメリカと中国は互いに報復関税を課すと発表するなど、ここ数日の間で米中貿易戦争は激しさを増している。

トランプ大統領は、対中関税を負担するのは中国だと繰り返し主張してきた。

しかし、大統領の経済顧問を務めるラリー・クドロー米国家経済会議(NEC)委員長は12日、米フォックス・ニュースに対し、中国からの輸入品への関税を負担するのは米企業だと認めた

では、米財務省に何十億ドルもの利益をもたらす貿易戦争はアメリカにとって良いことだと、主張してきたトランプ大統領は間違っていたのだろうか。

そして、貿易をめぐる対立が激化することで、失うものが最も多いのは一体誰なのだろうか。

実際に対中関税を負担するのは誰か

輸出する側の中国企業ではなく、輸入する側のアメリカ企業が、国への税金として対中関税分を負担することになると、米クーリー法律事務所のクリストフ・ボンディ弁護士は言う。

カナダと欧州連合(EU)による自由貿易協定の協議において、カナダ側の上級顧問を務めたボンディ氏によると、これらの追加関税分のコストは、商品の値上げというかたちで消費者が負担させられる可能性がある。

「これら(関税)はサプライチェーンに非常に破壊的な影響を及ぼす」

中国にどんな影響を及ぼしているのか

昨年の対米輸出額が7%増加するなど、中国は依然としてアメリカの最大の貿易相手国だ。しかし2019年の第1四半期では、対米輸出額は9%下落しており、米中貿易戦争の影響が出始めたことを示している。

貿易を専門とする、英ケンブリッジ大学のメレディス・クロウリー博士によると、アメリカ企業に輸入し続けてもらえるよう、中国企業が商品の値下げをしたという証拠はないという。

「代用性が高い製品を輸出する業者は、アメリカ企業が別の国からの輸入を開始したことを受けて、対米取引の市場から離脱している。中国企業の利益は減っており、関税が損害を与えていることは明らかだ。代用が効かない製品を扱う業者は、アメリカ企業があまりにも依存していることから、おそらく製品の値下げはしていないと、私はみている」

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Image caption 米飲料大手のコカ・コーラは昨年、輸入コストの高騰を理由に、国内で販売する商品を値上げした

米国にどんな影響を及ぼしているのか

3月に公表された2つの学術研究によると、昨年アメリカが中国やその他の国に課した関税分のコストのほとんどすべてを、アメリカの企業と消費者が負担した。

ニューヨーク連邦準備銀行とプリンストン大学、コロンビア大学の経済学者は、鉄鋼から洗濯機に至るまでの幅広い輸入品への課税が、アメリカの企業と消費者に1カ月あたり30億ドル(約3290億円)の負担をかけたことを算出した。

また、需要の落ち込みから、14億ドルのさらなる損失が生じたことを確認したという。

世界銀行のチーフエコノミスト、ピネロピ・ゴールドバーグと複数の専門家による学術研究でも、アメリカの消費者と企業は対中関税のコストのほとんどを負担していたことが分かった。

分析によれば、他の国からの報復を考慮すると、トランプ氏の貿易戦争の最大の被害者は、2016年の米大統領選でトランプ氏を支持した地域の農家や肉体労働者だったという。

米企業は他の国から輸入できないのか

トランプ大統領は、中国から製品を輸入するアメリカ企業は、ヴェトナムなどの他の国に目を向けるか、アメリカの製造元から製品を買い付けるべきだと主張しているが、それは簡単なことではないとボンディ氏は指摘する。

「生産性やバリューチェーンを新たな方向に転換させるには長い時間がかかるし、すべて高くつくことになる。昨年のアメリカによる鉄鋼関税をとってみても、アメリカ国内で何百もの新たな工場が突然建設されるというわけではない」

中国もまた、他のライバル国を小さく見せるほどの製造業大国であり、国際的なサプライチェーンにおいて他に代替するのは難しい。

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Image caption 2009年、当時のバラク・オバマ大統領は中国製タイヤに35%課税した

これまでに関税が機能したことはあるのか

それを示すものはほとんどないと、クロウリー氏とボンディ氏は指摘する。

2009年、当時のバラク・オバマ大統領は、輸入の急増により国内の雇用が失われるとの理由から、中国製タイヤに35%課税した。

ところが、2012年のピーターソン国際経済研究所の研究によると、タイヤの値上げによる国内の消費者の負担額は、2011年では約110億ドルだったという。

タイヤ関税により、1200ほどの製造業の雇用は維持されたものの、追加コストを負担することになった消費者の買い控えで消費支出が減少。「間接的に小売業界の雇用が減少した」という。

「さらに、中国が米国産鶏肉に対しダンピング(不当廉売)防止の報復関税を課したことで、鶏肉業界に約10億ドルの損失を生んだ」

関税を擁護する1つの例としては、1983年に当時のロナルド・レーガン大統領が日本のオートバイなど、700cc以上のエンジンを搭載する輸入オートバイに45%課税したことが挙げられる。

この決断は、外国メーカーとの競争が増す中で苦戦を強いられていた米二輪車メーカー、ハーレーダビッドソンを救ったとして評価されている。

一方で、ハーレーダビッドソンの売り上げが回復したのは、工場を最新式に造り替え、エンジンを改良するなどの企業努力によるものだと主張する声もある。

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Image caption 1983年に当時のレーガン大統領が輸入オートバイに課した関税は、米二輪車メーカー、ハーレーダビッドソンを救ったとして評価されている

関税で中国に取引成立を迫れるのか

クロウリー博士は、関税によって中国を交渉のテーブルに引き戻せるかもしれないが、中国が根本的な譲歩を提示してくることは期待できないと話す。

「確かに、中国は経済成長でさらに失速している。そして反対に、中国はアメリカにさらに輸出している。だから中国は貿易戦争でさらに被害を被るだろう」

「一方で、中国は法改正にあまり関心を持っていないし、法改正したところで、それを実際に施行するような法文化が中国にあるだろうか」

ボンディ氏は、トランプ氏による関税措置の目的は、中国というよりは、むしろ自分の有権者基盤を刺激し、大きく報道されることにあると考える。

「知的財産の保護や、公正な市場参入や、労働者や環境の基本的保護などの、共通のルール作りのための交渉のような骨が折れる仕事より、関税を課す方が簡単だ」

(英語記事 Who loses out in the US-China trade war?

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