ユーモアと罵倒とイギリスらしさと ロンドンの反トランプ氏デモ
マリー・ジャクソン、BBCニュース

もしドナルド・トランプ米大統領がロンドン中心部を通過中、大統領専用車「ザ・ビースト(猛獣)」の防弾ガラス窓を開けてみようかと思ったとしても、すぐにまた閉めてしまうはずだ。
トランプ氏に対する抗議デモの参加者は、車列から遠く離れた場所に追いやられていた。それでもブーイングの声は大きく、プラカードの内容は露骨で、メッセージの内容は罵倒にあふれていた。
さらに、議事堂前のパーラメント広場では、ウィンストン・チャーチル像の目の前で赤ちゃんトランプの巨大風船が風に揺れていた。実にイギリスらしい皮肉だ。
トランプ大統領のお面を被り、檻(おり)に入れられたゴリラの格好をした人がいた。その隣には、囚人服姿で次期首相候補のボリス・ジョンソン前外相を真似する人がいた。
トランプ大統領の顔が印刷されたトイレットペーバーが、2個入り5ポンド(約700円)で売られていた。
ホワイトホール(官庁街)へ続く道に並ぶ同僚の警官たちに、ハリボーのお菓子を配って歩く警官もいた。
こうした地上の騒ぎを、ビッグ・ベンの修理に当たる作業員が足場から見下ろしている。
なにもかも、あまりにイギリス的だった。

しかし、ロンドンでこの日、抗議デモに参加したのはイギリス人だけではなかった。
この日のロンドン観光を諦めて、代わりに自分達の大統領に物申すことにしたというアメリカ人も複数いた。
ネヴァダ州出身のジェス・レナーさんは19歳の学生。2016年の大統領選では未成年だったため投票できなかった。近くのホテルから、母親と共に抗議デモに参加した。
「抗議に参加してトランプ大統領に中指を立てるのは楽しかった」とレナーさんは話した。
「大統領は弱い者いじめが好きで、みんなを脅して同じことをさせようとしている」
コロラド州出身のロバート・キームさんは、トランプ氏が自分たちの大統領をやっていることは、もう面白くもなんともないと言う。
「恥ずかしいし、末恐ろしいことだ」
トランプ氏に言いたいことは? こう尋ねると、キームさんは辟易(へきえき)とした様子で「何から言えばいいのか」と答えた。
「権威を振りかざすのをやめて、法治主義を尊重して、アメリカの大統領としての規範を守ってほしい」
ベルギーから3日間の日程でロンドンに遊びに来ていたグループも、一言言わずにはいられなかったようだ。
ヘント出身のアネリー・コメインさんは、「トランプ氏はブリュッセルのことを地獄の穴みたいだと言った。なので、私たちもとても反感を抱いている」と話した。
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しかし、意見の違う人たちもいた。
ロンドン西部チズィックから来たロレイン・チャペルさんは、大統領を歓迎するためにやって来た。
チャペルさんは「好き嫌いはともかく、トランプ氏はアメリカの大統領で、エリザベス女王に招かれて来ている」と話し、「ウェルカム」と書かれた自作のプラカードを振った。
また、赤ちゃんトランプの風船は失礼だと述べ、「アメリカがエリザベス女王に対して同じことをしたらと考えて欲しい」と指摘した。
この時だった。チャペルさんの隣にいた女性が強い口調で女性蔑視を支持するのかと詰め寄り、周囲は険悪な雰囲気に包まれた。
同時に2人の後ろでは、トランプ支持者が反トランプ派にからんでいったかと思うと、双方の議論はブレグジット(イギリスの欧州連合離脱)の国内問題へと移っていった。
一連の騒動はやがて、首相官邸のあるダウニング街の外に設けられた簡易ステージからの呼びかけで収まった。
首相官邸ではちょうどトランプ氏が、間もなく退任するテリーザ・メイ首相と会談していた。
雨の降りしきる中、ステージ上からは「大きな声で、はっきりと」と指示が飛ぶ。群衆はそれに応え、傘やフードの下から「ドナルド・トランプはお断り」と叫び返した。
中には「#trumpstinks(トランプは最低)」というマスクを付けた人や、「私もまた、反トランプのいやな女が」というバッジを付けた人もいた。
トランプ氏は訪英直前、サセックス公爵夫人メガン妃が2016年の大統領選でトランプ氏を批判していたことについて「いやな人だ」と発言している。
デモは次第に膨れ上がり、警察がその制御に追われる中、歓声や口笛が吹き荒れた。
筋金入りのデモ参加者やアメリカからの参加者に混じり、ベビーカーに子どもを乗せた母親たちの姿もあった。
メリッサ・ブランズバーグさんはマイアミ出身だが、現在はロンドン近郊グリニッジに住んでいる。ブランズバーグさんの家ではもうずっと前から、トランプ大統領の話題が続いているという。
5歳のアイザックちゃんと3歳のルースちゃんは、いつもなら図工をしたり公園で遊んだりしているが、今日は政治活動の屋外授業のような日だった。
トランプ大統領の訪問を自分たちは歓迎していないと、子どもたちはそれを本人にはっきり伝えたいのだとブランズバーグさんは話した。
アイザックちゃんとルースちゃんは、アメリカの南側国境地帯で収監されている移民の子どもたちのことをとても気にしていた。ブランズバーグさんは2人の年齢に合った言葉で説明しようとしていた。
「子どもたちには自分たちの意見を発することができる、自分たちの同じ意見の人がいる、そういったことを知ってほしい」
アメリカとイギリスの二重国籍を持つフローレンス・アイウェグブーさんは髪にショッキングピンクの羽を着け、頬に赤と白と青のストライプをラメで描いた。
アイウェグブーさんの心配は、イギリスがアメリカと同じ道を歩んでいるのではないかということだ。
「アメリカ式の生活は通用しないというメッセージが、まだ広まっていない」とアイウェグブーさんは指摘する。
「アメリカでは貧しい人、病気の人、肌の色が濃い人は裕福になれない。こうしたことがイギリスでも問題になりつつある。止めなくてはならない」