日本のコンビニエンス・ストアの独特な文化 生活の一部になった魔法

ローラ・ストゥーダラス、旅行作家

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2016年に芥川賞を受賞した村田沙耶香氏著「コンビニ人間」の真の主役は、日本のコンビニエンス・ストアそのものだ。しかしなぜコンビニは、こんなに魔法のようにきらめいているのだろう?

「コンビニ人間」の主人公・古倉恵子は、コンビニで働く独身の36歳というブルーカラーな立場のため、伝統的な日本社会で居場所を見つけられずにいる。

しかしこの正統派ではないヒロインの物語における、本当の主役は彼女が働くコンビニだ。小さな生態系と呼ばれるコンビニは、顧客に必需品を提供するだけでなく、新しい喜びを吹き込む場所として描かれている。

小説の中で、古倉はコンビニはこのように説明している。

「コンビニはお客様にとって、ただ事務的に必要なものを買う場所ではなく、好きなものを発見する楽しさや喜びがある場所でなくてはいけない」

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私は日本を訪問する前に「コンビニ人間」を読んだが、その時はこの古倉の説明はコンビニを理想化しすぎていると感じていた。コンビニを低品質のファストフード店と同列に見なすという間違いを犯していたのだ。

なのでセブンイレブンやファミリーマート、ローソン(この3社が日本のコンビニ市場でしのぎを削っている)といったコンビニが日本ならではの味覚を紹介しているのを見て驚いてしまった。気が付けば私はイギリスでいつも食べているポテトチップスを素通りし、マヨネーズ味や梅味、しょうゆ味を試そうとしていた。

そのほかにも、できたてのおにぎり、その場で食べられるうどん、ピザ味や小豆、かぼちゃのクリームの入ったパンなどで迷ってしまった。

村田氏が「コンビニ人間」で描いたユートピアとは違うかもしれないが、お釣りを数えるのにも助けが必要な外国人にさえ、この品ぞろえのよさと安い昼ごはんを見つけられる便利さは印象的だった。

スコットランド出身の作家キャレン・ガーディナー氏は、2005年から2年間東京に住んでいた。ガーディナー氏は短期滞在者として、私がこの国のコンビニで感じた喜びを分かち合ってくれた。今はアメリカに住むガーディナー氏だが、東京では家の近所のコンビニが生活の一部になっていたという。

「アメリカでは、本当に必要な時にしかコンビニで食べ物を買おうとは思わない。数週間前、ボルティモアのセブンイレブンに行ったけど、どうしても何か買わなきゃいけなかったのに、結局何も買わなかった。店内の雰囲気が暗くて、商品はもう何年も棚に放置されたままみたいな感じだった。日本からアメリカに来た人は、こういうコンビニに入ったらがっかりするんじゃないかと思う。(中略)日本では外出した時も会社への行き帰りでもコンビニでご飯を買っていた。たまごサンドやおにぎりを、ぱっと食べたいなと思った時にも」

ユーチューバーのコーリー・メイ氏は日本生まれ。最近、20年ぶりに日本に戻ってきたが、アメリカで初めてコンビニに立ち寄った時に感じたことを話してくれた。

「アメリカのセブンイレブンで、スラッシー(かき氷のような飲み物)の機械や、油まみれのホットドッグがぐるぐる回っているのを見るのは変な感じだった。なぜか、とても奇妙な感じがした」

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「コンビニ人間」の英訳を手掛けたジニー・タプリー・タケモリ氏は、小説のプロモーションでアメリカの各地を回った際、自分がコンビニに何を期待しているのか、それがアメリカではどう感じるのかを探ってみた。すると、自分はがっかりするより、混乱したのだという。

「アメリカの読者は、日本のコンビニフードが健康的だと思っていて、それにびっくりした。日本ではそういう見方は一般的ではないので。イベント主催者にニューヨークのコンビニを見せて欲しいと頼んだら、売られていたのは日本のコンビニにあるよりももっとジャンクな食べ物だった。だからかもしれない!」

「イギリスで日本のコンビニに最も近いのは、ガソリンスタンドの売店だと思う。実際には比べようもないくらい別物だが。お菓子といつくかの日用品しか売っていないので」

一方で、日本のコンビニは消費者に、前代未聞なほどたくさんの選択肢を提供する。消費者は週に数回、食べ物や日用品を買うためにコンビニを訪れる。コンビニを一種の「ハブ(拠点)」として使う地元住民にアピールするため、店側は常に新商品を用意する。そしてそのたびに、大きな赤い「新発売」のシールが貼られる。

その数は衝撃的だ。ローソン広報室の持丸憲氏によると、東京圏のローソン1463店舗はそれぞれ3500品目をそろえており、毎月100品目の新製品を取り扱っているという。

さまざまな味で展開しているキットカット(抹茶味のほか、期間限定でさくら味などもある)やポッキーなどは、外国人にも人気だ。ガーディナー氏は日本を離れて以来、バランスアップのクリームチーズ味と蒟蒻畑が恋しくなっていると話した。

しかしコンビニに並ぶのはアイスクリームやビスケット、チョコレートといった世界中で見られる食品よりも、日本の伝統的な味のものが多い。和菓子専門店のとは違い、大量生産されたどら焼きも人気だし、甘いもち粉の入った菓子パンやアイスクリームもある。そして抹茶だ。ビスケットにチョコレート、ケーキまで、日本お気に入りの味を置いていないコンビニはない。

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一方で、実用性もコンビニの根底に流れている。確かに菓子類と新製品が売り上げの大半を占めているのだが、コンビニが目指しているのは全ての日用品がそろうワンストップ店舗だ。持丸氏はその一例として、コンビニ弁当を挙げた。

1970年代にフェミニスト運動が盛り上がる以前、日本の伝統的な家庭では家で作ったご飯が当たり前だった。より多くの女性が働くようになった現在、さらに多くの日本人が手軽に食べられる食事を求めるようになった。私が「中食」というラベルの貼られたコンビニ弁当に目を引かれていると、持丸氏は、私が見ているのは社会の因果関係そのものだと説明してくれた。

「ローソンが中食(家に持ち帰って食べる調理済み食品)に力を入れているのは、共働き世帯が増加しているから。夫婦がどちらも働いていると、料理をする時間が減る。お弁当や出来合いの料理を家に持ち帰るほうが、解決策としては便利だ。食事と片付けの時間を短縮することができる」

食べ物だけではない。日本のコンビニは今や、多くの日本人にとって日常生活の欠かせない一部だ。プラスアルファのサービスを提供している点が、外国のコンビニとは異なる。ガーディナー氏は日本に住んでいたころ、地元のコンビニでコンサートのチケットを買ったという。また、今でも日本を訪れた時には無料WiFiを使うためにコンビニに立ち寄る。

持丸氏は、無料WiFiの提供はローソンが描く大きなビジョンの一環だと説明する。

「ここ数年の顧客のニーズの多様化によって、現在のコンビニは買い物に便利な店というだけではない、それ以上のものになっている。24時間明かりがついている施設として、緊急時や災害時に頼れるコミュニティーのインフラとして、コンビニは日常生活の不可欠な存在になった。求められている役割は、今までにないほど大きく拡大している」

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品ぞろえが多様で、店舗があちこちにある。この両方の特徴ゆえに、コンビニは文化的な重要性を獲得したようだ。現在は小さな村に住み、毎日コンビニに行くこともなくなったというタケモリ氏も、コンビニ文化について温かく語る。

「村田氏は、自分自身が働いたことのあるいくつかのコンビニから理想のコンビニを作り上げたと言っているが、彼女が『コンビニ人間』で何か美化したとは思わない。一度でもコンビニに行ったことがある人なら、小説の冒頭で説明されている音をすぐに理解することができるだろう」

「私の翻訳では日本のコンビニを訪れたことのない読者のために、この部分に原作にない擬音語を加えている。コンビニはいつもとても清潔で、店員はほとんどの場合とても親切だ」

清潔で親切。これが保証されているなら、どんな買い物客もホッとするはずだ。

(英語記事 The unique culture of Japanese convenience stores

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