トランプ氏が大統領選に出馬した4年前のあの日 当時の予想は

ローランド・ヒューズ、ジョシュア・ネヴェット、BBCニュース

Donald Trump makes his entrance via a golden escalator Image copyright Getty Images
Image caption トランプ氏は金色のエレベーターを下りて大統領選出馬を発表した

2015年6月16日、ドナルド・トランプ氏は大統領に立候補すると発表した。黄金のエスカレーターを下りてくるトランプ氏を待ち受けた報道陣は疑心暗鬼で、ほとんど誰も、まさかこの人が勝つとは思っていなかった。

4年前の6月半ばといえば、2016年米大統領選の投票日まであと1年と5カ月弱。今から2020年大統領選の投票日までの期間と、日数的にはほぼ同じだ。4年前のこの時点でトランプ氏は、今度こそ本気で、国のトップの座を目指すと発表した

不動産王でリアリティー番組の司会者だったトランプ氏は、共和党の候補指名を目指す12人目として名乗りを上げた。

ワシントン政界の主流派は、トランプ氏の発表をあまり真剣に受け止めていなかった。トランプ氏が出馬をほのめかすのは初めてではなく、かつてはほのめかすだけで終わっていたからだ。

4年前の記事の多くは、同じようにトランプ氏の真意をいぶかっていた。報道の多くは、ニュースでめったに使われないほどの嘲笑表現にあふれ、金ぴかのトランプ・タワー内で行われた出馬発表を馬鹿にした。メキシコが国境を越えてアメリカに「強姦魔」を送り込んでいるという主張に注目したのは、ほんの一部だった。

4年前のあの日、やがて大統領になるこの人物のどの部分を、マスコミのコメンテーターたちは理解しそこねたのか。そして、どの部分を、当時から正確に把握していたのか。

○「どうやら本気のようだ」(BBCニュース)

・2015年にBBCは何と言ったか

「ドナルド・トランプは本当に大統領に立候補した」と、BBCのアンソニー・ザーカー北米担当記者は当時書いた。「こうなると予想した人はほとんどいなかった。これまで何度も出馬しそうなふりをしてきたし、政治的な内容をまくしたてても、これまでは冗談として馬鹿にされるのがほとんどだった。しかし、今回は実際に出馬すると言明し、どうやら本気のようだ」。

「対立候補は攻撃するつもりだと、早くもそのやる気を明らかにした。出馬発表の演説で、ジェブ・ブッシュとマーコ・ルビオは『何も分かっていない』と言い、『こんな連中がどうやって国の指導者になれるって言うんだ』と批判した」

「討論会や、何百万ドルもかけた大量のテレビCMで、同じ発言を繰り返せば、大勢が笑うのをやめて彼に注目するようになる。おそらくそれこそが、トランプ氏の狙いだろう」

Image caption 大統領選出馬を発表したトランプ氏(2015年6月16日、ニューヨーク)

・今となってはどうか

2019年の今、ザーカー記者はこう言う。「確かにドナルド・トランプは大勢の注目を集めた。ただし、あれほど世論調査の評判が悪い人が候補指名を獲得するなど、まったく予想外だった。共和党の主流派は別の候補を掲げて団結すると思ったのに、結局はそうならなかった」。

「トランプ氏の大統領選出馬は実は、大がかりなPR作戦だったのが予想外に勝ってしまったのだという説がある。映画『プロデューサーズ』の現実版みたいに、最初から失敗をあてこんで始めた計画がうっかり成功してしまったのではないかと」

「真相を知るのはトランプ氏のみだが、彼の好戦的な政治手法は、実にタイミングをうまく捉えていた。長年続く現状にうんざりして、あり得ないアウトサイダーに賭けてみようという有権者が、ギリギリ必要な数だけいた。アメリカの歴史のそういう瞬間を有効活用したわけだ」

○「真剣味が加わった」 民主党広報

・民主党は2015年に何と言ったか

「ドナルド・トランプ氏が本日、共和党から出馬すると発表した。この2日間で2人目の主要な候補だ」と、民主党全国委員会(DNC)のホリー・シュルマン氏はこう切り出して、皮肉たっぷりのコメントを続けた。

「共和党側にはこれまで真剣味が不足していたため、大いに必要だった真剣味がトランプ氏によって加わった。この国をどうしたいと考えているのか、今後さらに聞きたい」

・今となってはどうか

DNCもシュルマン氏も、取材に回答しなかった。

○トランプ氏にチャンスはあるかもしれない 保守系米紙

・2015年に何と言ったか

トランプ氏が出馬表明する数日前、保守系コラムニストのバイロン・ヨーク氏は米紙ワシントン・エグザミナーに、共和党の方向性にうんざりしている共和党支持者はトランプ氏を歓迎するかもしれないと書いた。

「一部の保守派は共和党にあきれ返るあまり、第三党を検討している。このことはかなり前からはっきりしている」

「真面目に選挙戦を戦うなら、トランプ氏はいわゆる『もう我慢の限界だ』的な有権者の支持を得られるかもしれない。そういう不満層の懸念は笑いごとではない。トランプ氏が応えなければ、別の誰かがそうするだろう」

・今となってはどうか

トランプ氏はいわゆる政界主流派の政治家ではなく、政界の仕組みを刷新する可能性をもっている。トランプ氏の支持者はこのことを支持理由として繰り返した。

2016年夏までに取材した支持者たちは、トランプ氏は「政治家じゃない」から支持する、「こうすると言ったことを実行するはずだ」、「民主党にも共和党にもうんざりしている人間にとって、トランプは『ワシントンくそったれ』候補だ」などと話していた。

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トランプ氏の支持者はどういう人たちか

そして今となっては、共和党のイメージが、ホワイトハウス奪還を実現した人のイメージと同じように変わったことは疑いようもない。前よりも強硬で、前よりも攻撃的に。

2016年の選挙で最後まで共和党の指名を争ったジョン・ケーシック元オハイオ州知事は今年5月、共和党が今や「トランプ党」になってしまったと述べた。

「共和党の99%が彼を支持している」とケーシック氏はCNNに話した。

○予備選に注目 米紙ニューヨーク・タイムズ

・2015年に何と言ったか

米紙ニューヨーク・タイムズのマギー・ヘイバーマン記者は、トランプ氏の大統領選は予備選で敗れて終わるだろうと予測した(その代わりに、トランプ氏が司会するリアリティー番組「アプレンティス」の次シーズンの出演料は跳ね上がるはずだと)。

しかしヘイバーマン記者は、共和党予備選の冒頭では色々と興味深い展開があるだろうとも書いていた。

「トランプ氏はフロリダ州に滞在することが多いが、それでもこの州でなんとかしてジェブ・ブッシュ(元州知事)とマーコ・ルビオ(上院議員)の両方より結果を出さなくてはならない」

「ニューハンプシャー州のように早い時点で予備選の開かれる州をトランプ氏が買い取って、自分の名前をつけることができるなら、助けになるかもしれない」

2015年6月の時点で、トランプ氏が共和党予備選を勝てるかもしれないなどと言う人がいたなら、それはかなり少数派だった。

・今となってはどうか

「アプレンティス」は再開されたが、その時点でトランプ氏はすでに他の仕事で多忙で、司会者としての復帰はなかった。

共和党予備選に関して言えば、ヘイバーマン記者は当たっていた。予備選2カ所目のニューハンプシャーでの勝利が、トランプ氏に大事な弾みを与えた。

そしてニューハンプシャー以降、トランプ氏はひたすらまい進を続けた。フロリダ州の予備選は2016年3月だったが、すっかり勢いづいていたトランプ氏はルビオ上院議員とブッシュ前知事を抑えた(ブッシュ氏はその時点ですでに撤退していた)。フロリダ州の共和党予備選で、トランプ氏は45.7%と最多得票を果たした。

○討論会はトランプ氏の独壇場になるか 米紙ワシントン・ポスト

・2015年に何と言ったか

米紙ワシントン・ポストのクリス・シリザ記者(現在はCNN記者)は、パフォーマンス慣れしているトランプ氏は他の候補を圧倒するかもしれないと書いた。

「討論会では、相手をさえぎり、いばりちらし、他の候補が一言も口を挟めないよう、その場を自分の独壇場にしようとするだろう」と記者は書いた

「もしも過去が序章なのだとすると、発言の機会を独占したトランプ氏が言う内容は、共和党の支持基盤には大いに喜ばれる一方で、それ以外のほとんど全員にはそっぽを向かれるようなものになるだろう」

「トランプ氏の支持率が今から8月の間に急落する可能性もあるにはあるが、実際にはあまりあり得ない。現時点での全国的な支持率はひとえに知名度によるもので、トランプ氏の知名度は十分だからだ」

・今となってはどうか

トランプ氏の選挙戦は6月半ばまで始まらなかったものの、2015年の米ネットワーク・テレビ報道が2番目に多く取り上げたのが、トランプ氏の選挙戦だったという分析がある。民主党のヒラリー・クリントン氏を除けば、ニュースの量と言う意味ではほかの候補は遠く及ばなかった。

2015年8月に1回目の共和党討論会が行われると、各社の見出しはどれもトランプ氏とその発言を取り上げた(この場合は、女性蔑視発言を撤回しなかったという内容だった)。

そしてトランプ氏はこの後、投票日までずっと、誰よりもニュースで取り上げられ続けた。

○「なかなかイケてるメッセージ」 フォックス・ニュース

・2015年に何と言ったか

共和党のメディア戦略担当、アダム・グッドマン氏は当時、政界アウトサイダーの大富豪で、自分が金持ちだということを「恥ずかしく思っていない」トランプ氏は、有権者を引き付けるかもしれないと予測していた。

出馬発表の日に保守系フォックス・ニュースに出演したグッドマン氏は、司会のグレッツ・ジャレット氏に、トランプ氏は「現状に不満を抱く」アメリカ人に語りかけているのだと述べた。

先見の明に満ちた発言を重ねたジャレット氏は、トランプ氏が掲げる「アメリカ第一主義」はそうした有権者に響くはずだと話した。

「ある意味で彼は、暮らしが苦しい多くのアメリカ人に向けて、こう発信している。『僕を当選させてくれれば、絶対にまたアメリカのブランドを一位にしてみせる』と。『自分が合衆国大統領になったら、皆さんを最優先させるため最善を尽くす。自分が成功してアメリカン・ドリームを達成するために与えられたチャンスを、皆さんにも必ず与えるようにする』と」

「それは誰にとっても、なかなかイケてるメッセージだ」

・今となってはどうか

4年後の今、グッドマン氏はトランプ氏の出馬発表を見ていて、「何かを感じた」のだと話す。当時フォックス・ニュースで自分が発言した内容は、今も変わらないとBBCの取材に答えた。

トランプ氏の「アメリカ第一」の合言葉は、自分は不遇だと不満を抱え、国の仕組みが自分たちを「裏切った」と感じていた多くのアメリカ人への「暗号」だったとグッドマン氏は言う。

「イケてるメッセージ」とフォックス・ニュースで呼んだもののおかげで、アメリカ人は「アメリカにとって前向きな形で、いい気分になれた」と見ている。

「ドナルド・トランプには欠点がたくさんあるが、発信していたメッセージは間違いなく前向きだった。恥も外聞も遠慮もなかった」

「トランプ氏は国民の中にあったものを映し出していた」

トランプ氏自身とその国家主義的な主張は、今も変わっていないとグッドマン氏は言う。

「今日のトランプは2015年のトランプ候補と同じだ」

2020年大統領選でも再び、トランプ氏を前に「大勢が頭をひねることになる」と、グッドマン氏は予想する。

○「ジェブ・ブッシュが共和党候補になる」 世論調査

・2015年に何と言ったか

トランプ氏が出馬を表明した当日、世論調査の支持率はかなり低迷していた。選挙ニュースサイト「RealClearPolitics」によると、各社の平均支持率はわずか3.6%で、共和党候補の中の最低レベルだった。

共和党で最も支持率が高かったのは、10.8%のジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事で、スコット・ウォーカー・ウィスコンシン州知事を上回っていた(ええ、本当に)。

Image copyright Reuters
Image caption ジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事

トランプ氏の平均支持率は2015年6月22日に3.2%まで落ちるが、そこで「底」を打った。それ以降は、彗星のように上昇し続けた。

2015年7月12日、アリゾナ州フィーニックスの支持者集会で、トランプ氏はメキシコ人が「国境で我々を殺している」と発言。

これを機に支持率は急上昇し、8日後には16.8%に達してブッシュ元知事を抜いた。

それからと言うもの、2015年11月5日に一度だけベン・カーソン氏に抜かれたのを除けば、共和党の指名を獲得するまで、トランプ氏はずっと先頭を走り続けた。

・今となってはどうか

次の大統領選で党の候補を選ぶのは民主党のみで、今のところはジョー・バイデン前副大統領が話題を独占している。

今年4月25日に正式に立候補を発表する前から、一貫して民主党の最有力候補とみなされてきた。「RealClearPolitics」によると、バイデン氏の6月17日現在の平均支持率は32.4%で、民主党候補のトップだ。

続く2位は、バーニー・サンダース上院議員の15.2%で、他の候補はエリザベス・ウォーレン上院議員(11.6%)、ピート・ブダジェッジ市長(7.0%)、カマラ・ハリス上院議員(6.8%)と続く。

民主党予備選の討論会は6月26日に始まる。そこで候補たちが直接対決をするようになれば、この支持率はおそらく上下を続けるだろう。

2016年には、トランプ氏が大方の予想を裏切り首位を独走するようになった。同じように今はまだ、まともな予測をするにはおそらく時期尚早すぎる……。

(英語記事 The day Trump ran for president (and what people predicted)

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