【解説】 超党派の抵抗勢力は合意なし離脱を止められるのか

ローラ・クンスバーグ政治編集長

Philip Hammond and Jeremy Corbyn Image copyright PA/EPA
Image caption Opposition to Mr Johnson has made unlikely political allies

この界隈で激怒している人をみつけるのは、簡単だ。本物の怒りなのか、作り物なのかはともかく。

イギリスの欧州連合(EU)離脱をめぐる議論が激化して以来、ずっとその調子だ。もう覚えていたくないくらい、ずっと長いこと。

しかし、ある政府高官が29日夜にこう言った。週明けにもボリス・ジョンソン首相に反旗を翻そうとしている議員たちは、怒るだけでは駄目だと。目標を達成するには、どれだけ長いこと怒ってきたかを怒っていても役に立たないのだと。

「大事なのは激怒することではなく、法律を変えることだ」と、その政府高官は助言した。

合意なしブレグジット(イギリスのEU離脱)に猛反対する議員たちに、それが本当にできるのかどうか、あと数日の内に判明する。

今では最大野党・労働党の執行部を含めて、他の野党も来週の計画に乗り気のようだ。

となると、これは相当な人数の、強力で多彩な集団になる。ただ単に小数のベテラン議員が大勢の議員を説得しようとするのとは、わけが違う。

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10月31日のブレグジット期限が迫る中、9月と10月は離脱をめぐる重要な審議期間になるはずだと目されていた。しかし、EUとの合意に議会が承認しようが、承認しないままの「合意なし」だろうが、10月31日に離脱することを重視するジョンソン首相は29日、来週から議会を5週間閉会すると発表した。

これに猛反発する議員達たちが作る、ゆるやかな抵抗勢力の連合体には、右派から左派まであらゆる立場の議員たちが並ぶ。一極には与党・保守党のフィリップ・ハモンド前財務相がいる。もう一方の極には、ジェレミー・コービン労働党党首がいる。保守党を表す深い青から労働党のトレードマークの深い赤。その間には、野党・自由民主党の黄色、そして緑の党も並ぶ。極彩色のグラデーションが彩る、奇妙な政治の虹のようだ。

ブレグジットは相変わらず、イギリス政界の形を奇妙に変え続けている。

ジョンソン首相は、EUと新しい離脱協定がまとめられなくても、あるいは議会が離脱協定に合意しなくても、ともかくEUを離脱するつもりでいる。抵抗勢力は、そんなことは絶対にさせないというその一点において一致団結している。

正式な合意なしにEUを離脱すれば、政治的にも経済的にも大混乱が生じるという恐怖を、大勢が抱いている。

しかし、ジョンソン氏が先の保守党党首選を制したのは何より、何が何でも10月31日にEUを離脱すると主張したからだ。それ思うと、保守党の議員グループと野党議員たちは、非常に大変なことを実現しようとしている。

高まる政治的緊張

抵抗勢力は、新首相の政策を一部修正しようというのではなく、首相の計画の主要部分を阻止しようとしている。

その手段として、前にも一度使ったことのある技を、今回も繰り出すつもりでいる。

英下院は3月、ブレグジットの膠着(こうちゃく)状態を打破するため、審議の主導権を政府から下院に移すという異例の修正案を可決した。

これを受けて労働党のイヴェット・クーパー議員らは4月、合意なしブレグジットを回避するため、当時のテリーザ・メイ首相に離脱プロセスを延期するようEUに要請することを義務付ける法案を提出。1票差で可決された。

メイ氏は当時、合意なし離脱はほとんど考えていなかった。そのため当時のこの法案は重要で劇的だったとはいえ、今回のように政治的緊張感の高いものではなかった。

なぜなら当時と違い、今の首相は、何がどうなっても2カ月後にはこの国をEUから離脱させるつもりだからだ。

「保証はない」

抵抗勢力に参加している議員に話を聞く限り、計画は「よく練り上げられている」という。しかし現時点でも、実際の文言をどうするかについて議論が続いている。

抵抗勢力は、EU離脱の延長期間や期限の設定についても検討中だが、その日付は非常に流動的で、極秘扱いだ。

独立議員集団「チェンジUK」のクリス・レズリー下院議員によると、ジョンソン首相の独断を阻止するだけに留まるかもしれないと話す。合意なし離脱をするにしても、議会承認を必要条件にすることだけに狙いを絞り、首相は議会採決を仰がなくてはならないという議案になるかもしれないというのだ。

「合意なしでがらがらがっしゃんと離脱する事態を避けるための防護策が、3日までに議会提出されているはずだ」とレズリー議員は話した。

「10月31日以降の展開については下院の承認が必要だと定めるだけに留まるかもしれない。あるいは、離脱期限の延長を首相に要求する内容になるかもしれない」

抵抗勢力は必要な支持を得られるはずだと、レズリー議員は自信を示した。しかし、不安顔の人もいる。

たとえば、デイヴィッド・ゴーク前法相だ(ちなみに、保守党の抵抗勢力は彼の名前にちなんで、「ゴークワード・スクワッド(Gaukeward Squad)」と呼ばれている。決して私が言い出したジョークではないので悪しからず)。(訳注:Gaukewardに音が似ているawkwardは、「ぎこちない、ぶかっこうな」などの意味)

ゴーク氏は、「何の保証もない」と言う。しかしそのゴーク氏は、閉会される議会が首相に立ち向かうには、来週が「最後のチャンス」かもしれないと懸念している。

明らかに、政府の縛りをかなぐり捨てて新たに奮い立つ与党議員は大勢いる。週明けの下院で、自分たちの党首に反対票を入れようと、やる気にあふれている。

しかし、与党議員だけでどうにかなるものではない。野党議員も関わってくる。

労働党の執行部は抵抗勢力を応援するつもりでいるようだが、議員全員がそれに従う確証はない。

いつものことながら、選挙区の意向に背くのは……と、及び腰になる議員は複数いる。労働党議員の中には、EU離脱や合意なし離脱に自分は反対だが、自分がそれを食い止めたとか、またしても遅らせたと見られたくない人たちもいるのだ。

首相派と抵抗勢力の人数にはほとんど差がない。それだけに、労働党議員の判断は極めて重要だ。抵抗勢力を盛り上げようと粉骨砕身してきた議員の1人は私に、「一番重要な決定要因は、国民投票で離脱を支持した選挙区の労働党議員たちを、いかに説得できるかどうかだ」と話した。

この議員は、もし20人以上の労働党議員が抵抗勢力の議案に反対もしくは棄権した場合、抵抗勢力の挑戦は失敗に終わると見ている。

戦いを歓迎か

票読みの問題に加えて、そもそも議案を成立させられるだけの時間があるのかという、単純な問題もある。議案は下院だけではなく、貴族院も大急ぎで通過させなくてはならないのだから。

徹夜審議に備えて、寝袋がすでに用意されている。

必要な時間を確保するために、今週末を通じて審議と採決を続けるきだと主張する議員も出るかもしれない。

首相官邸はむしろ、この戦いを歓迎するのではないかという見方もある。

ジョンソン氏の支持者たちは以前から、国民投票で国民が決めたこと、国民が望むことを、ジョンソン氏は実現しようとしているだけだ、彼こそ国民の側に立っているのだと言い続けてきた。だからこそジョンソン氏はこれ以上、厄介な議員たちに邪魔をされたくないのだと。抵抗勢力の出方によっては、ジョンソン氏の側近たちはまた同じ主張を繰り広げることだろう。

もしも政府が来週、議会で敗れたりすれば、ブレグジットの実現にとって大きな障害となる。首相官邸が意に介するかどうかは、これはまた別の問題だが。

いずれにしても、新首相と議会の最初の大決戦が間もなく始まる。

下院は通常、次の火曜日、3日の現地時間午後2時半(日本時間午後10時半)に正式に再開する。主要な関係者は私に、「自分は午後2時31分にはいるつもりだ」と話した。

政界の奇妙な内輪もめだ。ジョンソン首相にとっては、もう時間があまりない。限られた時間で、巨大な案件で勝たなくてはならないのだ。

(英語記事 Laura Kuenssberg: Can the rebel alliance stop no-deal Brexit?)

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