【解説】 サウジ石油施設攻撃、揺れる中東はさらに不安定に 米は実は玉虫色

Smoke is seen following a fire at Aramco facility in the eastern city of Abqaiq Image copyright Reuters
Image caption サウジアラビア・アブカイクにある国営石油会社サウジアラムコの施設が空爆を受け、黒煙が上がった

ジョナサン・マーカス、BBC防衛外交担当編集委員

空爆したのは自分たちだと、フーシ派は言う。アメリカはイランだと主張する。イランは一切の関与を否定している。

サウジアラビアの重要石油施設が攻撃されるという劇的な展開を受け、予想通りの舌戦が繰り広げられている。世界経済に極めて重要な石油施設がいかに脆弱(ぜいじゃく)か、今回の空爆で露呈されてしまった。

サウジアラビアはフーシ派に対して、長期にわたる空爆作戦を継続している。これはアメリカ政府の後ろ盾があってのことで、サウジの空軍機が空を飛び続けられるのは、欧米企業から必要な装備を調達できているからだ。

これに対してサウジの敵は今回、戦略的な打撃を与える報復能力が自分たちにもあるのだと、誇示することに成功した。

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Image caption サウジアラビア主導の有志連合軍はイエメンのフーシ派拠点を頻繁に空爆する。写真は9月1日、イエメン・ダマール

今回の攻撃によって、イランがフーシ派に果たしてどの程度の技術や支援を提供しているのか、議論は否応なく再燃した。ただでさえ緊張が続く湾岸地域で、今回の石油施設空爆によって状況は悪化した。

そして同時に今回の攻撃によって、イラン政府に「最大限の圧力」をかけ続けるというトランプ政権の方針の短所が、露呈されてしまった。

非難合戦が続くなか、まだ分からないことはかなりたくさんある。フーシ派は過去にも、サウジの標的をドローンやミサイルで攻撃している。

しかし、過去のドローン攻撃は限られた成果しか上げてこなかった。それに対して今回の空爆は、距離にしろ精度にしろ規模にしろ、過去の攻撃とはまったく次元の違うものだった。

では、サウジの石油施設を攻撃したのは本当に、武装した無人航空機(UAV)だったのか、それとも実は何らかのミサイル攻撃だったのか。もし後者なら、なぜサウジの防空警戒態勢は発動しなかったのか。攻撃の起点はフーシ派支配地域だったのか、それとも別の場所だったのか。イラク国内の親イラン派が関与したのか、それともイラン人自身か。

マイク・ポンペオ米国務長官はたちまちイラン政府を批判した。しかし、明確な情報がまだ得られていない内に、そうしたように見える。少なくとも、どういう情報を根拠にイランを責めるのか、世間が検証できるような説明はしなかった。

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Image caption ポンペオ国務長官は、アメリカと同盟諸国は確実に「イランに責任をとらせる」と述べた

イランはフーシ派と関係が深く、武装UAVだろうがミサイルだろうが、長距離攻撃能力の開発支援に重要な役割を果たしたことは、疑いようもない。

国連安全保障理事会の専門家パネルは2018年に、フーシ派のUAV「カセフ1」とイラン製の「アバビルT」が非常に似通っていることを指摘している。幅広い内容の報告書で専門家パネルは、イランはイエメンに対する武器禁輸制裁に違反し、フーシ派に様々な武器システムを提供したと主張した。

民間調査機関「紛争兵器研究所」が2017年3月に、イランによるUAV技術支援について発表した報告書も、ほぼ同じ結論に達していた。

Image caption サウジアラビアの首都リヤド(Riyadh)、石油施設が攻撃されたアブカイク(Abqaiq)とクライス(Khurais)、およびイラク(Iraq)、イラン(Iran)、イエメン(Yemen)の位置関係

しかし、「カセフ1」もしくは「アバビルT」の射程距離は100~150キロしかない。イエメン国境から標的までの距離は、近い方のクライス油田でも約770キロだ。そのため、今回の攻撃がUAVによるものだったとして、それは従来とまったく異なる設計の、射程距離が飛躍的に伸びて、精度も格段に向上した種類でなくてはならない。

イランと、そしてその結果としてフーシ派も、おそらくもっと飛距離の長い空爆システムを持っている。とはいえ、イエメン紛争にそれを投入したという証拠は今のところほとんどない。イランやイラクから発射された、何らかの巡航ミサイルだったという可能性もあるが、はっきりしたことが言えるようになるには、信頼できる機密情報が必要だ。

とはいえ、正確な詳細はある意味でどうでもいいのだ。外交上のダメージはすでに出現している。アメリカとサウジはすでに、イランと徹底的に敵対している。トランプ政権はすでに結論に達し、ペルシャ湾内の船舶を機雷で攻撃したのはイラン政府だと断定している。イランは堂々と、イギリス国旗を掲げるタンカーを拿捕(だほ)した。もっともこれは、ジブラルタル沖でイラン原油を運ぶタンカーが拿捕されたあとのことだったが。

となると、フーシ派がサウジアラビアの石油インフラに対する戦略的攻撃を激化させる裏には、イランがいるに違いないということになる。少なくともトランプ政権にとっては。

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Image caption 攻撃された後、サウジアラビアは石油生産再開を急いだ

では、どうするつもりなのか。あるいは、何ができるのか。それが問題だ。答えはもしかすると、「あまりなにも」かもしれない。

米政府は断固として、サウジ政府を支持している。しかし、サウジアラビアが主導するイエメン内戦への軍事介入は、米連邦議会ではすでに評判が悪い。サウジによる空爆は無意味だし、ただでさえ貧困にあえぐイエメンを人道危機に陥れているだけだという認識が、日に日に高まっているのだ。

それでも、今回のようなインフラ施設への攻撃によって、奇妙な側面もあらわになった。トランプ政権はしきりにサウジ政府を応援するし、イランへの「最大限の圧力」をしきりに強調する。しかし実際には、米政府がイラン政府に発するシグナルの内容は、とても玉虫色なのだ。

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Image caption サウジの石油施設攻撃後に黒煙が立ち上る様子を、米航空宇宙局(NASA)の衛星がとらえた

それというのも、トランプ氏は実は近く開かれる国連総会にあわせて、イラン政府幹部と対面して会談する用意がありそうな様子だし、ジョン・ボルトン氏を国家安全保障担当補佐官の職から更迭したばかりだ。そしてトランプ政権で特にイランの政権変更を強硬に主張していたとされるのは、ボルトン氏だった。

イランとフーシ派は、強大な敵に立ち向かう弱者として、典型的な戦法をとっている。軍事戦略の教科書が「ハイブリッド紛争」と呼ぶものだ。否認性、代理の使用、サイバー作戦、情報戦など、ロシアが得意とする作戦の中から、様々な戦術を借りて使っている。

トランプ氏がどれほど大げさに騒いで予想もつかない振る舞いをしようと、実のところは厄介な軍事対立から撤退したいし、新しい武力紛争にアメリカを巻き込みたくないのが本音だと、イラン政府は承知している。そのためイランはイランで、「最大限の圧力」をアメリカにかけることができるのだ。

しかし、計算を間違えれば全面紛争につながる危険はある。そんなことは実際、誰も望んではいない。

(英語記事 'Drone' attack on Saudis destabilises an already volatile region

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