【ラグビーW杯】 壮大な旅のため「すべてを捨てた」ファン 飛行機なしで日本まで

ベッキー・グレイ、BBCスポーツ(日本)

James Owens and Ron Rutland hold up a map of their journey Image copyright Getty Images
Image caption 今年2月に自転車で移動を開始したジェイムズ・オウエンスさん(左)とロン・ラトランドさんは、W杯開幕前に無事に日本に到着した

9560キロメートル。

これは、ラグビーのイングランド代表の本拠地トゥイッケナム・スタジアムから、アジア初開催となるラグビーワールドカップ(W杯)の初戦が行われる東京スタジアムまでの距離だ。

観戦チケットに加え、専用個室などでの飲食やギフト等が含まれるホスピタリティパッケージの最高額は約200万円(「ウェブエリス・スイート」)。日本への飛行機代は8万円はするため、日本大会を観戦するには、莫大な費用がかかる。

ところが、日本でW杯を観るため、仕事を辞めた人がいる。自宅購入の手付金を渡航費に充てた人もいる。将来の計画をいったんなしにしてまで、来日を決意した人たちがいる。

飛行機なしでロンドンから豊田市へ

ベニーさん(33)とターニャ・ホークスビーさん(39)夫妻は、大きなスポーツイベントに慣れ親しんでいる。2016年にフランスで開催されたサッカー欧州選手権(ユーロ)で婚約して以来、夫妻はラグビーのW杯に挑戦することにした。

ターニャさんは、仕事で昇進したばかりで、ウェールズ代表ファンの2人は、自宅購入の手付金にするための資金を貯め終わったところだ。しかし2人は、家を買うよりも良い使い道を見つけた。2カ月かけて旅行して、日本でウェールズ代表の試合を見ることにしたのだ。

準決勝1日目(10月26日)に40歳の誕生日を迎えるターニャさんは、飛行機恐怖症だ。世界中を舞台に、2チームのどちらが先に目的地まで到着するかを競う、BBCのテレビ番組「レース・アクロス・ザ・ワールド(Race Across the World)」に触発され、夫婦は別の移動方法を使うことに決めた。

2人は7月2日、ロンドン南部ワンズワースを出発し、すでにヨーロッパとアジアを鉄道やバス、船で移動してきた。ウェールズ代表の初戦、対ジョージア戦が23日に行われる愛知県豊田市を目指し、計18カ国を横断した。

「貯金を家の手付金にしたら、あとは多額の住宅ローンを抱えて、ほかは何もできなくなる。ほかにどうしようもなくなると、それは分かっていました」とターニャさんは言う。

「なので、そこでハッとして。私は職場から帰宅する車の中で、ベニーに電話をして、『もうこんなのいや。逃げ出さないと』と伝えたんです」

「ベニーはラグビーに夢中だし、私はずっと日本に行ってみたいと思っていた。今回が私にとって初めての旅行で、私は前に踏み出すことにしたんです」

ベニーさんとターニャさんの旅程
7月2日:イギリス・ロンドン~フランス・パリ (ユーロスター、2時間19分) 7月22日:ハンガリー・ブダペスト~ポーランド・ クラクフ(バス、7時間)
7月3日:フランス・パリ~スロヴェニア・リュブリャナ(バス、17時間) 7月24日:ポーランド・ クラクフ~ポーランド・ ワルシャワ(バス、4時間)
7月7日:スロヴェニア・リュブリャナ~クロアチア・ザグレブ~クロアチア・ コレニツァ(バス2本、7時間) 7月25日:ポーランド・ ワルシャワ~ラトヴィア・リガ(バス、13時間)
7月9日:クロアチア・ コレニツァ~クロアチア・スプリット(バス、3時間30分) 7月27日:ラトヴィア・リガ~ロシア・モスクワ(鉄道、17時間)
7月11日:クロアチア・スプリット~モンテネグロ・ブドヴァ(バス2本、10時間) 7月31日:ロシア・モスクワ~モンゴル・ウランバートル(鉄道、5日間)
7月12日:モンテネグロ・ブドヴァ~モンテネグロ・コトル(バス、30分) 8月18日:モンゴル~中国(夜行列車)
7月16日:モンテネグロ・コトル~ボスニア・モスタルバス、2時間30分) 8月28日:中国青島~韓国ソウル(夜行フェリー)
7月18日:ボスニア・モスタル~ハンガリー・ブダペスト(バス2本、16時間) 9月2日:韓国~日本(フェリー)

少ない預金残高、高まる思い

これまでの移動してきた中での、ベニーさんにとってのハイライトは、ゴビ砂漠でキャンプ生活を10泊もしたことだ。それでも、もしウェールズ代表がラグビーW杯に初優勝してくれれば、その方がはるかにすごいことだとベニーさんは言う。

「そうなればこれは本当に最高の旅になる。頂点に達します」

「こんなに長いこと旅をしているおかげで、興奮は膨れ上がると思う。預金残高はかなり減るけれども、感極まって素晴らしい旅にぴったりな結末になります」

「結果が分かるまで、日本を発つフライトやフェリーの予約ができない。この旅は止められない。一生に一度のことかもしれないので」

Image copyright Instagram: tanyagoestravelling
Image caption ターニャさん(左)と、ベニー・ホークスビーさんは、ヨーロッパとアジアを鉄道やバスを使って横断した

「自転車乗りではない」が世界を横断

「私は、自分はサイクリストだとはまったく思いません」

そう話すのは、ジェイムズ・オウエンスさん(28)。今年2月2日から、南アフリカ出身の冒険家ロン・ラトランドさん(45)と共に、ロンドン南西部トゥイッケナムから東京まで自転車で移動した。

2人は、大会公認チャリティー・パートナー「チャイルド・ファンド パス・イット・バック」への寄付金を募るため、計27カ国を横断。2万キロの距離を走破した。

オウエンスさんは実は2018年のほとんどを、骨折した脚の治療に費やしていた。それを思えば、これがどれだけすごいことかよく分かる。オウエンスさんは、気力で自転車の旅を続けてきた。

「出発した時には、私は自分が何を始めたのか、よく理解していなかった。自分はただ頑固で、日本に到着するまでひたすらこぎ続けただけです。ほとんど非現実的で、あまり実感が湧かない。開幕戦でやっと初めて、自分がW杯のスタジアムにいて、大会が始まったんだという実感が湧いても、驚かないと思います」

Image copyright DHL Express
Image caption ロンドン南西部トゥイッケナムから旅を始めたジェイムズ・オウエンスさん(左)とロン・ラトランドさん。それ以前には5回しか会ったことがなかった

親友でもないのに自転車で7カ月

共に旅をしながら7カ月以上も一緒にいるのは、たとえ親友同士でもなかなか大変なことだ。しかし、ラトランドさんとオウエンスさんは、自転車で世界を旅するこのアイデアが浮かんだ時、まだお互いのことを知らなかった。

ラトランドさんは2018年、人工股関節置換手術を受ける際、主治医に対し、術後に再び自転車に乗ることができるかどうか意見を求めた。

その医師は、オウエンスさんの父だった。

「その時点では、自分が誰と一緒に走るのかなど、考えてもいなかった。そんなときに自分の主治医が、この計画についてジェイムズに話してもいいかと尋ねてきた」

「それで何かが決まるとは、まったく思っていなかった。会ったこともない相手と一緒に、旅をしてくれるはずがないと。僕たちが出発前に一緒にいたのは、計5日間だけ。それでも、すぐに相手のことが分かるようになった」

「旅を終えてまだ普通に会話をする仲なので、うまくいったんだなと」

「すべてを捨てた」

信じられないことだが、ラトランドさんが南アフリカ代表のために走破した今回の距離は、実は過去最長ではない。

当時45歳のラトランドさんは2015年、南アフリカからW杯開催国のイギリスまでを、世界で初めて単独制覇している。2年3カ月かけて、2万600マイル(約4万1000キロ)を自転車で移動したのだ。

今回、ラトランドさんは特別な責任を担っていた。2人は、W杯開幕戦の日本対ロシア戦で使用するホイッスルを運んでいた。

自転車の旅は19日、東京スタジアムで正式に終わりを迎えた。2人は、開幕戦のレフェリーを務めるナイジェル・オウエンスさんにホイッスルを手渡した。

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Image caption ラトランドさんとオウエンスさんは、W杯開幕戦の日本対ロシア戦で使用するホイッスルを運んだ

「私たちはこのために仕事を捨てた。すべてを捨ててきた」と、ラトランドさんは話す。

「雪が降り、あたりが凍りつくほど寒い朝や、イライラしている時でも、自転車に乗ろうと思える理由は十分あった」

一生に一度の旅のためにすべてを捨てた今、次は何をするのか?

「南アフリカの王座奪還を楽しく見守るため、これから日本に6週間滞在する。その次に何をするかは、それから決める」とラトランドさんは言う。

(英語記事 Rugby World Cup epic fan journeys

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