【解説】 トランプ氏とウクライナの電話に何が? ウクライナ疑惑とは

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Image caption 左から、ハンター・バイデン氏、ジョー・バイデン前副大統領、ドナルド・トランプ大統領

ドナルド・トランプ米大統領に対する米下院の弾劾調査がついに始まることになった。それの原因となったのはロシア疑惑ではなく、ウクライナ政府が関係する真新しい疑惑だ。

トランプ氏をめぐっては、外国政府への協力依頼、大統領選で政敵を不利にしようとする行動、法律違反の疑い、不道徳な行動……などなどが、取りざたされている。

こう並べると、トランプ陣営と民主党のヒラリー・クリントン氏とロシアの関係が色々と問題になった2016年米大統領選でのロシア疑惑によく似ている。しかし、今回の疑惑に登場する要素は、トランプ氏、2020年大統領選、民主党のジョー・バイデン氏とその息子、そしてウクライナだ。

いささか入り組んだ話ではあるので、まずは主だった質問への答えを並べてみた。

なぜ重要なのか

野党・民主党は、トランプ氏が大統領権限を乱用し、ウクライナ大統領に圧力をかけ、民主党のバイデン前副大統領とその息子のハンター・バイデン氏について捜査して、選挙で不利になる情報を探り当てるよう働きかけたとみている。

バイデン前副大統領は、トランプ氏が来年の大統領選で戦うことになるかもしれない相手だ。

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Image caption 2016年撮影のジョー・バイデン氏(手前)と息子のハンター氏(奥)

これに対してトランプ氏とその支持者は、ウクライナの民間ガス会社ブリスマの取締役だった息子のハンター・バイデン氏について、ウクライナ当局による事件捜査をやめさせようと、バイデン前副大統領が不当な圧力をかけたのだと主張している。

民主党の大統領候補指名争いでは、バイデン前副大統領が最有力視されている。

つまり、これはホワイトハウスがかかった戦いでもあるのだ。

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疑惑の発端は

トランプ氏とウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は7月25日、電話で会談した

その中でトランプ氏は、バイデン親子を捜査するよう圧力をかけたとされている。

さらにトランプ氏は、連邦議会が承認したウクライナへの軍事援助2億5000万ドルについて、同じ会話で触れたとされている。トランプ政権はこの援助金の支払いを、9月半ばまで先延ばしにしていた。

米紙ワシントン・ポストは23日、トランプ氏がミック・マルヴェイニー首席補佐官代行に対して、ウクライナとの電話の少なくとも1週間前に、ウクライナへの軍事援助4億ドルの供与を停止するよう指示したと伝えた。

トランプ氏は認めているのか

そうとも言える。トランプ氏は23日、国連総会のため訪れている国連本部で記者団を前に、ゼレンスキー大統領と腐敗の問題や、バイデン親子について話したと認めた。「完璧」な「とても良い」電話会談だったという。

トランプ氏は仮定の話として、「腐敗していると思う国に、金は提供したくないのだから、時と場合によっては腐敗について話すのはとても大事だ」と述べていた。

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Image caption ロシアによる2014年のクリミア侵攻の後、ウクライナは欧米諸国から強力な支援を受けた

アメリカはウクライナに援助を提供しているのだから、「その国が正直だと確認したい」とも述べた。

ツイッターではトランプ氏はさらに直接的な表現で、このウクライナ疑惑は民主党と「悪玉メディア」がでっちあげたものだと攻撃している。23日のツイートでは、「メイクニュース・メディアは今度は僕が『電話の最中に少なくとも8回、ウクライナ大統領に圧力をかけた』と言っている。これは、事実関係を直接知りもしない『内部告発者』からの情報らしい。またしても民主党と悪玉メディアの詐欺だ」と書いた。

さらにトランプ氏は続けて、その「内部告発者」が「この国の側にいるのか。どこから来たんだ。これもまた、もう何年も間違い続けたシフ(訳注:アダム・シフ下院情報委員長、民主党)と民主党がやってることなのか」と書いた。

他の議員はどう言っているのか?

下院の民主党は、内部告発者が正式に告発した電話の内容について、大統領の外国指導者との関係を明らかにするうえで重要だとしている。

民主党はまた、トランプ氏はハンター・バイデン氏と父親のバイデン前副大統領の評判を落とす目的で、ウクライナ当局による捜査の着手を望んだとしている。

一方、共和党はほぼ沈黙を保ったままだ。このことは、この問題が(ワシントンではよくみられるように)党の方針によってはっきり対応が分かれる、党派性を抱えたものであることを示している。

だが共和党にも、少なくとも1人、事実をもっと知りたいと声を上げた議員がいる。ミット・ロムニー上院議員(ユタ州選出)だ。

ロムニー氏は23日、「もし大統領が政敵の捜査をするようウクライナ大統領に頼んだり圧力をかけたりしたなら、それが直接であれ個人の弁護士を通してであれ、極めて問題となり得る。事実が公になることが欠かせない」とツイートした。

告発者の訴えはどうなった?

告発を受理した監察総監は、ジョセフ・マグワイヤ国家情報長官代行に「緊急」の用件として通知した。

情報当局の内部告発に関する法律では、長官は7日以内に、下院の情報委員会に告発について報告するよう定められている。

だが、そうはならなかった。

米紙ニューヨーク・タイムズによると、マグワイヤ氏はその代わり、ある法律家に相談。少なくとも法的基準に照らすと「緊急」には当たらないと言われたという。

それを受けてマグワイヤ氏は、下院の監視委員会の委員に、告発内容を知らせる必要はないと判断した。

9月9日、監察総監は下院に告発の存在を知らせが、詳細は伝えなかった。下院の民主党は、トランプ氏の電話の会話記録を含め、さらなる情報を強く要求した。

政府は当初、要求を拒否。ところがトランプ氏はツイッターで、「完全かつ機密扱いを全面的に解かれた未改訂の会話記録」を水曜日(25日)に公表することを許可したと発表した。

さらに、「とても友好的で、まったく適切な電話だったとわかるだろう」とツイートした。

それが現在の状況だ。

マグワイヤ氏は木曜日(26日)に、下院の情報委員会で証言する予定だ。委員からは告発内容を教えるよう要求が出るとみられる。

要求に応じなかった場合、同委員会のアダム・シフ委員長は告発へのアクセスを求めて訴訟を起こすかもしれないと、米CNNは伝えている。

大統領は違法行為をした?

大統領が政敵をおとしめる情報を手に入れようと、外国のリーダーに対し、軍事支援の可能性をちらつかせながら圧力をかけたというのは、かなり悪質性の高い内容の訴えだ。

それは違法なのか? ごく最近の先行事例でみてみよう。

まず思い浮かぶのが、2016年大統領選のトランプ陣営にかけられ、2年に渡って捜査が続けられ最近終結した、ロシア疑惑をめぐる特別検察官ロバート・ムラー氏の捜査だ。

ムラー氏の捜査報告書は、トランプ陣営とロシア人との間にあった、複数回の接触の詳細を明らかにした。例えば、2016年6月に、ドナルド・トランプ・ジュニア氏(大統領の長男)らトランプ陣営の最高幹部と、ロシア政府とつながりのあるロシア人数人が会談したことが記されている。

ライバルの調査を外国政府に求めることが、選挙資金規制法の違反に当たるかは、議論が分かれるところだ。ただ、ムラー氏は起訴を見送った。

トランプ氏のウクライナ大統領への電話は、汚職に関する連邦法に抵触する恐れもはらんでいる。しかしムラー氏は、司法省の方針を理由に、現職大統領に対する起訴はできないと結論づけた。仮にトランプ氏が何らかの犯罪に手を染めたとしても、当面は刑事訴追の対象にはならないのだ。

これを念頭に置けば、さらに関連性の大きい質問は……

弾劾に相当する違反をした?

違法かつ(または)非倫理的な行為を犯した大統領に対して憲法が定める対応は、下院の多数による弾劾と、上院の3分の2以上による有罪認定と罷免だ。

米憲法は弾劾の理由を「反逆罪、収賄罪またはその他の重犯罪や微罪」と規定している。詰まるところ、下院がそうだと言えば、何であろうと「弾劾相当の違反」となる。

ムラー氏の捜査が終結してから、下院で多数を握る民主党内では、弾劾を求める声が徐々に高まっていた。ただ、下院の民主党幹部は当初、弾劾投票につながる正式な調査を進めることを嫌った。

ナンシー・ペロシ下院議長は、弾劾に向けた動きが、穏健派優勢の選挙区における選挙で民主党に不利にはたらく可能性があると示唆。上院は共和党が多数を占めているため、大統領を罷免することは決してなく、無意味になってしまう恐れもあるとしていた。

だが火曜日(24日)、ペロシ氏は民主党が正式に、弾劾に向けた調査を始めると発表した。

同氏は、大統領が「法律違反」を犯したと述べ、その行為は「憲法上の責任に反するもの」だと批判。トランプ氏は「責任を取る必要がある」と述べた。

バイデン親子の疑惑は事実か?

トランプ氏と同氏の弁護士で元ニューヨーク市長のルドルフ・ジュリアーニ氏が、バイデン親子について語っている疑惑の中心は、バイデン前副大統領が2016年に、ウクライナのヴィクトール・ショーキン検事総長を解任させたというものだ。

ショーキン氏は、ウクライナのガス会社ブリスマ・ホールディングスの捜査を担っていた。ブリスマは当時、同社の取締役だったハンター・バイデン氏に月5万ドルの報酬を支払っていた。

トランプ氏やジュリアーニ氏らは、バイデン前副大統領(当時は現職の副大統領)がウクライナに対して保証していた10億ドルの貸与を停止すると脅すなどして、息子とブリスマを刑事訴追から守るためにウクライナ側に圧力をかけた可能性を指摘している。

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Image caption バスケットボールの試合会場でバラク・オバマ前大統領(左)と談笑する、バイデン前副大統領(中)と息子のハンター・バイデン氏(2010年撮影)

バイデン前副大統領が不正行為をしたり、ウクライナにおける息子の仕事に影響を受けたりしたことを示す証拠は、これまでのところ何も明らかになっていない。

しかし、バイデン家に批判的な立場の人は、少なくとも彼らとウクライナのつながりが、利益相反の恐れがあるとの認識を生んでいると信じている。

こうした見方に不利に働くのが、ショーキン検事総長の解任を求めていた公職者は、バイデン前副大統領以外に、アメリカにも欧州連合(EU)にもウクライナにもいたという事実だ。

ニューヨーク・タイムズは先日、ショーキン検事総長は当時、ブリスマの捜査を「積極的に推進」はしていなかったと報道。さらに、検事総長は起訴権を利用して、会社幹部から賄賂を得ようとしていたとの告発があると伝えた。

加えて、ショーキン氏の後任の検事総長ユーリー・ルツェンコ氏は、ブリスマについてのすべての法的な対応を終結させる前に、10カ月にわたって同社を捜査した。

(英語記事 Wait, what's this Trump Ukraine story about?

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