【ラグビーW杯】 ウェールズの選手はなぜ大きなスプーンを持ち歩く?

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伝統的なラブスプーンを持つリース・カレ選手
ラグビー選手は通常、ピッチ上での激しいタックルなどで知られている。しかしウェールズ代表のある選手は、ワールドカップ(W杯)日本大会で少しばかりの愛を広めている。
その方法はとても奇妙だ。リース・カレ選手(21)は行く先々で、大きな木彫りのスプーン「ラブスプーン」を携えている。
彼はウェールズ代表の中で最年少だ。
400年以上前から
ラブスプーンに興味津々の日本のジャーナリストや地元の住民に、カレ選手はこう説明する。
「最年少の選手が常にこのスプーンを持ち歩くというのがチームの伝統。これを作った人は、ウェールズへの愛を示したかった」
しかしこのウェールズ特有の風習は、W杯やラグビーそのものの歴史よりもはるかに古い、400年前からあるものだという。
プロップを務めるカレ選手によると、スプーン上部の羽は「戦う男性」を、ハープは「歌声」を表し、中央には「ウェールズの象徴」のラッパズイセンがあしらわれている。
唯一の問題は…
カレ選手はスプーンの担い手になったことを「光栄だ」と話す一方、すでに何度か置き忘れそうになったと明かした。
「唯一の問題は、チームのメンバーがこれを隠そうとすること」
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日本の小学生にラグビーを教えるリース・カレ選手
最年少の選手がラブスプーンの担い手となる伝統は、単なる遠征試合の儀式にとどまらないという。
込められた意味
ウェールズ北東部デンビーシャー、ランゴレンでラブスプーンの歴史を紹介しているルース・ジョーンズさんは、「この伝統は17世紀、ウェールズの人たちが読み書きできなかった時代までさかのぼる」と説明した。
ジョーンズさんによると、「ラブスプーンは愛情や恋のしるし」で、くぼんだ部分が「愛の誓い」を、柄の部分が「手紙や詩」を表している。
「このラブスプーンはウェールズから日本へ、そして私たちが出会う人たちへの友情を示している」
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ラブスプーンには花やドラゴンなどの彫刻があしらわれる
ラブスプーンにはさまざまな意匠が彫られているが、たとえばケルト十字は2人が永遠に共にいることを示す。ケルトノット(文様)は絡み合う人生を、球体やかごは子どもを守る親の腕を表している。
ジョーンズさんは、「ウェールズの人がラブスプーンを掘るとき、そこには伝えたい言葉がある」と話した。
「初めはとてもシンプルなものから始まったが、徐々にスプーンを手渡す人への詩歌や物語が入るようになった」
「人生の地図を一緒に描いているようなものだ」
ウェールズ特有
ラブスプーンはプラタナスの木から作られる。ラッパズイセンには愛が「花開き育つ」という意味が、ハープには「調和が常にある」という意味も含まれているという。
「とても美しく仕上げられるため、今日まで続いてきた」とジョーンズさんは説明する。
「ウェールズ特有のものなので、ラブスプーンを初めて見た人はまずその美しさを口にする。その後、その裏にある歴史や人々の思いを学んでいく」
しかしラブスプーンの彫刻は難しく、現在では一握りの職人しか彫れないため、「消えつつある芸術」だという。
ただその一方で、ウェールズ代表の最年少ラグビー選手は世界の反対側で、ウェールズ最古の伝統のひとつを守り続けている。