「青い地球が危機に」 国連報告書が気候変動を警告
マット・マクグラス環境担当編集委員

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サンゴ礁も気候変動や温暖化、海面上昇の被害を受けている
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は25日、気候変動が海や寒冷地をこれまでにない規模で脅かしているとする特別報告書を発表した。
報告書では、海面上昇や氷の融解に加え、人間の活動によって野生動物が生息地を追われていると指摘した。
さらに、永久凍土が溶け出していることで、二酸化炭素(CO2)がさらに増え、氷の減少を加速させているという。
一方、CO2排出量を大幅かつ迅速に削減すれば、最悪の影響は免れられるだろうとしている。
IPCCは過去12カ月に、今回のものも含めて3つの特別報告書を発表している。
グリーンランド氷河を15年ぶりに取材 BBCが見た驚異の変化
昨年10月の報告書では、21世紀の終わりまでに地球の気温が1.5度上昇すると指摘。今年8月には、気候変動は地球の陸地と、農業や畜産業にも影響を及ぼしていると分析した。
ただ、気温上昇が海や雪氷圏(水が固体として地表面に存在している場所)に与える影響を示している今回の最新の報告書は、おそらく3つの中で最も気がかりで、気が滅入る内容だ。
2100年までの海面上昇を表した図。赤が濃いほど上昇幅が大きい
何がわかり、どれくらい悪いのか
要約すると、地球の水温が上がり、氷が急速に溶け出していて、地球上のほぼすべての生物に影響が出ているということだ。
報告書の共著者であるジャン=ピエール・ギャットゥーソ博士は、「青い地球は今、深刻な危機にある。さまざまな方面からの多くのひどい扱いを受けていて、それはわれわれ人間のせいだ」と指摘した。
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海面上昇により、海抜の低い島々には人が住めなくなる危険性がある
報告書では、地球の海が1970年から継続的に温まっていることは「疑いようがない」と分析している。
水は、人間が過去数十年で生み出した余分な熱の9割以上を吸収しており、吸収の比率は1993年と比べると2倍になっているという。
水は熱せられると体積が増えるため、過去には海面もこれが原因で上昇した。しかしIPCCは今回、現在の海面上昇の主要因はグリーンランドや南極大陸の氷が溶け出していることだと指摘した。
温暖化により、溶け出して液体になった南極の棚氷の量は、2007年から2016年の間に3倍に達した。同じ時期、グリーンランドの棚氷の減少量は2倍になっている。
報告書では、この現象は21世紀の間と、それ以降も続くとみている。
一方、南米のアンデス山脈や中欧、北アジアにある氷河については、CO2排出量が高い場合のシナリオで、2100年までに8割が消失すると予測。何百万人もの人に多大な影響を与えるとしている。
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世界各地で氷河が溶け出している
氷が溶けると何が起こる?
さまざまな場所の氷が溶け出し、すべてが海に流れ込めば、世界中で海面が上昇する。そしてそれは数十年にわたって続くと考えられる。
報告書では、最悪のシナリオでは、2100年までに世界の海面が最大で平均1.1メートル上昇するとみている。南極大陸での大量の氷の融解を受けて、前回の予測から10センチ増加した。
ギャットゥーソ博士は、「最も驚いたのは、海面上昇の最大予測値が上方修正され、1.1メートルになったことだ」と話す。
「7億人近くの人々が住んでいる沿岸地域に広範囲に影響が出るだろう」
グリーンランドで溶け出した氷
報告書によると、一部の島国では2100年以降、人間が住めなくなってしまうことが明らかだという。
また、「もし安全な別の場所があるのであれば」、水没する可能性がある地域から住民を移住させることも視野に入れたほうがいいと指摘した。
あなたへの影響は?
報告書が語る重要なメッセージのひとつは、海や雪氷圏の温暖化は、将来的に何百万人に影響を与えるさまざまな悲惨な結末の一部だということだ。
CO2排出量が多いシナリオでは、ニューヨークや上海といった豊かな大都市や、メコン川流域の農業地帯なども、海面上昇で非常に高いリスクにさらされると予測されている。
CO2排出量が高いシナリオでの、海面上昇の影響を受ける大都市をまとめた図。ニューヨークやロンドン、バンコク、上海といった都市で、2050年までに1000万人が被害を受けるとされている。東京でも、500~1000万人が海面上昇の影響を受けるとみられている
また、水温が深刻に上昇した結果、世界各地でサイクロンの増加など、危険でやっかいな天候が急増する可能性があるという。
報告書では、CO2排出量が大幅に削減されたとしても、「歴史的にまれ(1世紀に1度)だった異常な海面上での現象が、2050年までに各地でより頻繁に(少なくとも1年に1度)起こるようになると予想される」と指摘している。
IPCCの第2作業部会を主導するデブラ・ロバーツ教授は、「今分かっているのは、前例のない変化が長く続くということだ」と話した。
「たとえあなたが内陸部に住んでいたとしても、海や雪氷圏での大きな変化によって引き起こされる気候体系の変化が、あなたの生活スタイルや持続的な発展の機会に影響を与えるだろう」
あなたの生活への影響はさまざまな形で現れる。例えば洪水被害は、被害の規模を表す水準で2段階から3段階上昇する可能性がある。CO2増加による海水の酸性化や、1.5度の気温上昇によって、地球上のサンゴの約9割が消失するとされている。
海水の温度が上がることで、魚が生息地を移動することが考えられる。また、化石燃料を使えばCO2が増えるだけでなく、河川や海に多くの汚染物質が流れ込む。これによって、魚や海藻に含まれる水銀や汚染物質の濃度があがり、海鮮食品の安全性が損なわれる危険性がある。
他にも、温暖化によって氷河が溶けることで水力発電に使える水の量が変わってしまい、発電に支障をきたす可能性もある。
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温暖化が進めば、地表面にある永久凍土が溶け始めてしまうという
永久凍土は永久ではない
シベリアやカナダ北部など恒久的に氷のある地域には、大量のCO2が蓄積されている。
しかし、CO2の排出が続き温暖化が進めば、地表面にある永久凍土の7割程度が溶け始めてしまうという。
その結果、2100年までに「数百億から数千億トン」規模のCO2やメタンガスが大気中に放出されると懸念されている。そうなれば、人間が向こう数世紀にわたって温暖化を食い止めるのは非常に困難になるだろう。
長期的には何が起こる?
重要な疑問だが、その答えは我々がCO2排出量を近いうちにどれだけ制限できるかにかかっている。
しかし報告書では、もはや簡単には覆せない気候の変化もあると警告している。南極大陸のデータによると、すでに「不可逆なほど棚氷が不安定」になり始めており、向こう数世紀で数メートルの海面上昇を引き起こす可能性があるという。
報告書にも参加しているネリリー・エイブラム博士は、「棚氷や海面上昇に与える影響には多くの変化が含まれているため、報告書では2300年までの海面上昇の情報を提供している」と説明した。
「なので、温室効果ガスを削減できるシナリオであっても、人類が備えなければならない海面上昇は訪れるだろう」
また、先住民族社会が食料としてきた魚が水温上昇によって消えれば、それに伴って文化的知識が広範囲で永久に失われてしまう可能性もあるという。
報告書は希望を示した?
もちろんだ。報告書では、海の未来はなお人間の手に委ねられていると強調している。
その方程式はすでに使い古されたものだ。IPCCが昨年の報告書で示したように、2030年までにCO2排出量を45%削減することが求められている。
IPCCの李会晟(イ・フェソン)議長は、「もし排出量を急速に減らしても、人間やわれわれの生活への気候変動の影響はなお苦しいものだが、それでも最も弱い人にとってはより制御できる範囲にとどまる可能性がある」と話した。
実際、報告書に携わった研究者の一部からは、国民から政治家への圧力が、気候変動に対抗する野心を広げる重要な役割を担うとの声が上がっている。
ギャットゥーソ博士は、「先週、若者たちが行った抗議デモを見て、彼らこそがわれわれにとって最高の頼みの綱だと思う」と語った。
「彼らは精力的で活動的だ。彼らが活動を続け、社会を変えてくれることを願っている」
「裏切ったら私たちは絶対に許さない」 トゥーンベリさん、国連で気候変動対策を要求