【解説】 ブレグジットは(またしても)「フレクステンション」か EUから見ると

カティヤ・アドラーBBC欧州編集長

EU and UK flags Image copyright Reuters
Image caption 英下院の22日の審議の結果、ブレグジット協定案は宙ぶらりんの状態に

「ボールはコートのこちら側にきていない。ボールは全部、イギリス側のネットにはまったままだ」

話を聞いていた欧州連合(EU)の外交官は、いらだっていた。EUが新しくイギリスと交渉してまとめあげたブレグジット(イギリスのEU離脱)条件の協定案が、英下院の22日の審議の結果、宙ぶらりんな状態になってしまったからだ。非常にいらだっていた。

この外交官はさらに、次の動きを決めるのはブリュッセルのEU側だとボリス・ジョンソン英首相が発言したことにも、いらだっていた

「こちらは、やるべきことをやった」。EUの主要加盟国を代表するこの外交官は、こう言った。

「『では次は?』が、こちらの責任だと思われるのは承服しがたい。こちらは3年以上もの間、2人のイギリス首相を相手に、2つのブレグジット協定案を交渉した。そこへきて今度はまたしても、ブレグジットの期限を延期してほしいと言われている。これは我々のゲームではないのに、そのなかでピノキオみたいに踊らされている。実に不愉快だ」

しかし、嫌でもなんでも、ブレグジットについて今、注目が集まっているのはブリュッセルだ。

EUは、離脱の再延期を認めるのだろうか。認めるとして、それはいつまで。

この疑問に対する答えがおそらく、次のイギリス政界での展開に影響する。

<関連記事>

ブリュッセルでは、欧州理事会のドナルド・トゥスク議長(EU大統領に相当)がツイートしたように、何らかの再延期は不可避に近いと見られている。

トゥスク氏は、「離脱協定案の批准手続きを保留したジョンソン首相の決定を受けて、そして合意なしブレグジットを回避するため、私はEUの27加盟国に対して、イギリスからの離脱延期要請を受け入れるよう推奨する。このために手続きを文書化して提案する」とツイートした。

これについてEUはジョンソン首相の要請を待つ必要がない。英下院が9月に可決した法律に則り、首相はすでに19日に延期を求める書簡をEUに送っている(個人的には延期に反対だと、同時に送った別の手紙にはっきりとそう書いてはいたが)。

EU加盟国の首脳陣は、どれくらいの延期を自分たちが認めるにせよ、ブレグジットで割れるイギリスからは政治的思惑から詮索(せんさく)されるはずだと、痛いほど承知している。

短期間の延期なら、EU残留を希望し2度目の国民投票実施を期待する人々は、ブリュッセルに見捨てられたと思うかもしれない。その一方で、長期間の延期を認めれば、イギリスの離脱派は、EUが必死でイギリスにしがみついて引きとめようとしているとみなすかもしれない。

自分たちは中立だという印象を可能な限り与えたいEU首脳の多くは、ジョンソン首相の手紙にあったイギリスの要請をそのまま受け入れようとしている。それはつまり、合意なし離脱を避けるため、1月31日までの3カ月延期を認めるということになる。

Image copyright EPA
Image caption トゥスクEU大統領は、ブレグジット延期は避けがたいようだと示唆した

EUの側からすると、ブレグジット期限の延期はそれが何カ月だろうと、「フレクステンション(flextension))だ。Flexible(柔軟)なextension(延期)。つまり、期限を前にいつ打ち切りになってもおかしくな延期長という意味だ。

この場合、英議会が新しい離脱協定を批准したら、延期はすぐに終わる。だからといって、EUは急いで決定したりしない。EU加盟国の首脳たちはあからさまに、辟易(へきえき)としている。忙しい日程から時間を割いて、またしてもブレグジット緊急会議のためにブリュッセルへ急がなくてはならないのだから。

EU加盟各国は、次の延期については面と向かってではなく、書面で合意しようとしている。それには、新しい延期期限について加盟各国の間で大きな異論があってはならない。

その間、フランスのように英下院と政府に圧力をかけ続けたい一部の国からは、威勢のいい、強い調子の発言が多少は出るだろう。

たとえば22日の下院審議の直後、フランスの欧州担当相は「延期の要請があったが、正当な理由はあるのか? いたずらに時間さえ過ぎれば(ブレグジットが)解決するというわけではない」と、不満をあらわにした。

EU首脳たちは、英下院が22日についに初めて離脱協定案を可決したことを歓迎した。しかし、この一歩前進のあとには、少なくとも2歩下がるというブレグジット・ダンスが続いた。EU側ではこれに誰もが疲れ果て、いら立っているのだと、外交官たちは言う。なぜなら、まだまだブレグジットの道は果てしなく、終わりに近づいたとさえ言えないからだ。

EUとイギリスがいま懸命に取り組んでいるのは、イギリスの離脱手続きに過ぎない。将来の貿易や安全保障関係についての実質的な協議は、ブレグジットの後にならないと本格的には始まらない。漁業権や就労ビザ、イギリスと各国の貿易関係など、離脱後の具体的な関係についての厳しい政治的駆け引きは、まだ始まってもいないのだ。

伝統的にイギリスと親しい関係にあるEU加盟国の外交官は、いみじくもこう言った。「永遠に終わらない気がする」と。

(英語記事 EU eyes Brexit flextension (again))

この話題についてさらに読む