宇宙が人体に与える影響、女性と男性でどう違うのか

ダレン・マケンジー、BBCラジオ5ライブ「エマ・バーネット・ショー」

Dr Varsha Jain at the Johnson Space Center
Image caption ヴァルシャ・ジャイン博士

宇宙に行ったことがある人間はこれまでに564人、そのうち65人が女性だ。最初に周回軌道に乗った女性は、ソヴィエト連邦の宇宙飛行士、ワレンチナ・テレシコワ氏。1963年という早い時期のことだった。

アメリカ航空宇宙局(NASA)がソ連に追いつくのには20年かかった。女性としては史上3人目で、アメリカ人女性初の宇宙飛行士になったサリー・ライド氏は1983年に宇宙へ向かった。当時のマスコミは出発前のライド氏に、ミッション中に化粧をするのか、フライトシミュレーターに不具合が生じた際に泣いたのかなどと質問した。

そして今年10月18日、NASAは世界初の女性だけの宇宙遊泳ミッションを行った。今年初めに計画されていたこのミッションは、宇宙飛行士のひとりに見合う「M」サイズの宇宙飛行服がなかったために中止されていた。

ヴァルシャ・ジャイン博士は過去10年にわたり、本来の研究の傍らで宇宙婦人科医としても研究を重ねてきた。英エディンバラ大学産婦人科センターで博士課程の研究をすると共に、NASAと共同で宇宙における女性の健康について調べている。

ジャイン博士はBBCラジオ5ライブの「エマ・バーネット・ショー」に出演し、宇宙が人体に及ぼす影響について話してくれた。

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Image caption NASA初の女性宇宙飛行士たち。サリー・ライド氏は右から2番目

男性と女性、宇宙で受ける影響は違う?

ジャイン博士(以下、VJ)宇宙環境への順応全般については、男性も女性もほとんど同じですが、いくつか違いがあります。

女性は宇宙へ行くときに、男性は地球へ帰ってくるときに、気分が悪くなりがちです。

男性は宇宙から戻る際に視覚や聴覚に影響が出ますが、女性にはこうした症状は出ません。一方で帰還後の女性は血圧が調整しづらくなり、ふらふらしやすくなります。

こうした微妙な違いはありますが、それがホルモンの違いから来るのか、生理学的な違いによるものなのかは分かりません。長期的に見れば、こうした違いを理解することで地球上での健康への理解の助けにもなるでしょう。

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Image caption 今年10月にNASAが実施した女性だけの宇宙遊泳ミッションに臨んだジェシカ・メア氏(左)とクリスティーナ・コッホ氏

宇宙で月経はどうするのか

VJ サリー・ライド氏が宇宙に行った際、NASAには宇宙では女性の月経がどうなるのか、それにどう対処すればいいのかという疑問がありました。

当時の女性宇宙飛行士は、「問題になるまでは問題とは思わないようにする」と話していました。しかし宇宙旅行はキャンプに似ているので、エンジニアたちは生理用品がどれくらい必要なのかなど、計画しなくてはなりませんでした。

男性中心の世界なので、最初は1週間に必要なタンポンの数を100個や200個と試算していたんです! もちろん、そのあとすぐ、いやそんなには必要ないという結論に至りましたが。

現在では、ほとんどの女性宇宙飛行士が避妊ピルを服用して生理を止めています。健康体なので、それが安全なのです。

私の仕事の中には、子宮内避妊用具など生理を止める他の方法を調査し、より効果的な手段を探るというものもあります。

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Image caption 国際宇宙ステーションのトイレ

宇宙でのトイレ、女性にはなぜ大変

VJ 国際宇宙ステーションにはトイレが2つありますが、エンジニアは当初、血液を考慮していませんでした。

宇宙では尿は再利用され、飲み水も抽出されます。しかし生理中の血液は固体と見なされること、宇宙ステーションのトイレには液体の中から固体を分離する機能がないことから、女性の尿は再利用されません。

また、洗濯に使える水の量も限られているので、宇宙旅行中に生理になると、衛生面でいろいろと大変です。

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Image caption 7度目の宇宙ミッション中のサリー・ライド氏
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Image caption ワレンチナ・テレシコワ氏は世界初の女性宇宙飛行士

宇宙旅行で生殖機能に問題は出るのか

VJ 宇宙に行くことが宇宙飛行士の生殖機能におよぼす明らかかつ実証可能な影響はありません。男性も女性も、宇宙ミッションの後に子どもをもうけていることは覚えていてください。

一方で、女性宇宙飛行士の最初のミッション時の平均年齢は38歳です。

NASAが、働く人間を支える職場環境として抜きん出ているのはこういう側面だと思います。究極的には卵子や精子を凍結するかどうかは全くの個人的な選択ですし、私が知っている限りでは、宇宙飛行士にミッション前にこれをやれというような規約はNASAにはありません。

宇宙飛行士は宇宙で放射能を浴びるリスクを負っています。これが女性の生殖能力にどう影響するのかは、まだ分かっていません。

男性については、宇宙へ行っている間に精子の数や質が下がることが分かっていますが、地球に戻れば元に戻るので、長期的なダメージについては分かりません。

女性は生まれたときに全ての卵子を持って生まれるので、NASAは宇宙ミッション前に女性宇宙飛行士が卵子を凍結することについて非常に協力的です。

どうして宇宙婦人科医に?

VJ 医学に興味を持つ前に宇宙に興味がありました。子どもの頃、きょうだいが「スター・トレック」のファンだったのですが、そこに出てくるベヴァリー・クラッシャーやキャサリン・ジェインウェイ艦長といった強い女性キャラクターを知ったことで、自分に目標ができました。

宇宙医療の分野で働きたいと思っていましたが、婦人科を専門にしていたため、宇宙医療では女性の健康についてまだ知られていないことがたくさんあると気づいたわけです。

NASAでの勤務初日は、お菓子屋さんにいる子どものような気分でした。NASAのジョンソン宇宙センターまで車を走らせ、その看板を見たときには、興奮して叫んでしまったのを覚えています。

当時は仕事に行くのが待ちきれなくて、毎朝5時に起きていました。

宇宙に行ってみたい?

VJ 長期間のミッションはいやです! 生理学的な変化について知りすぎているので、とてもその気にはなれません。

宇宙で人体に起きる変化は、加齢を加速させるようなものです。骨の変化ひとつとっても、人間は宇宙に行くと骨量が下がります。地球に戻ってからどんなに素晴らしい対抗策やプログラムを施しても、その一部は戻りません。

もちろん宇宙から地球を見てみたいとは思いますが、長期的な目標となると、私はすでに自分にとって理想の仕事をしているので。

ジャイン博士は、宇宙と女性の健康の関係を研究する医師の草分けの1人。現在はエディンバラ大学産婦人科センターで女性ウェルビーイング研究のトレーニングフェローとして、過多月経を研究している。

BBCラジオ特集「NASAの女性たち」はこちら(英語、日本からでも聞くことができる)。

(英語記事 How space affects women and men differently

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