【解説】 ブレグジット政局から解散総選挙へ なぜこうなった

A statue of a lion stands over the River Thames from the Houses of Parliament in London, 25 October 2019 Image copyright Getty Images

イギリス下院は29日、欧州連合(EU)離脱をめぐる膠着(こうちゃく)状態を打破するため、議会を解散し12月12日に総選挙を実施する法案を可決した。

ボリス・ジョンソン英首相が下院に解散総選挙の動議を提出するのは、7月に就任して以来、4度目だった。近く上院の可決と女王の裁可を経て、総選挙の実施は確定する見通しで、5年間で3度目の総選挙となる。その場合、イギリスで12月に総選挙が行われるのは、1923年以来。

ジョンソン首相は、下院を解散して国民の判断を仰ぐことで、ついにブレグジット(イギリスのEU離脱)を「実現」できると述べている。

下院で何があったのか

下院はこの日、賛成438、反対20で、12月12日に総選挙を実施する法案を可決した。

ブレグジットをめぐる与党議員の造反・除名を経て少数与党を率いることになった首相は、離脱条件についてEUとまとめた離脱協定案を下院で通過できずにいた。

当初は今年3月末の予定だったブレグジットは、10月31日に期限が延期されていたが、離脱条件の法制化を十分に審議する時間がないことに多数の下院議員が反発したことから、首相は再延長をEUに要請させられ、EUが来年1月末までの延期を認めた。

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こうした事態のなか、ジョンソン首相は「麻痺状態」を終えるために総選挙が必要だと強調した。

首相が9月初めから3度にわたり提出した解散総選挙の動議に、反対を続けてきた最大野党・労働党のジェレミー・コービン党首は29日朝、態度を変え、総選挙に応じると発表。

「選挙を支持するかどうかは、合意なしブレグジットの可能性が排除されるか次第だと、ずっと言い続けてきた」と強調した。さらに、EUから「合意なしブレグジットの可能性はなくなったと保証された」ため、「今後3カ月は合意なし離脱が排除されるという、我々の条件が満たされた」と説明した。

ただし、世論調査によると、ジョンソン政権が夏以降に支持率を伸ばしているのに対して、労働党の支持率は下がり続けている。

こうした状況で、労働党議員の間には総選挙に対する反対もあった。

BBCは、複数の世論調査結果をもとに、次の総選挙でどの政党に投票するつもりかという回答の傾向を追跡調査しているが、それによると10月25日現在で、保守党が労働党を10ポイント以上リードしている。

グラフの青線(CON)が保守党、赤線(LAB)が労働党。オレンジ色(LD)は自由民主党、水色(BRX)はブレグジット党、緑色(GRN)は緑の党、黄色(SNP)はスコットランド国民党。青緑(PC)はウェールズ党、紫(UKIP)はイギリス独立党、黒(TIGfC)は「変化のための独立グループ」。

(Averageは平均支持率、Margin of errorは誤差)

Party support: 11 December 2019

Party Average (%) Likely range
CON 43 (39-47)
LAB 33 (29-37)
LD 12 (8-16)
SNP 4 --*
BRX 3 (0-7)
GRN 3 (0-7)
PC 0 --*
UKIP 0 --*
TIGfC 0 --*
* Because the SNP and Plaid Cymru only campaign in Scotland and Wales respectively, and UKIP and The Independent Group for Change are standing candidates in so few areas, the margins of error for their support across Great Britain is likely to be less than +/- 1%

29日の審議では、労働党が総選挙はブレグジット選挙になるため、影響を受ける若者たちにも投票権を与えるべきだと主張し、16歳と17歳のイギリス人、およびイギリス定住権をもつEU加盟国市民にも投票権を認める修正案を提出。イギリスの選挙権は18歳以上だが、スコットランドとウェールズの地方議会は、16歳からの投票を認めている。

この修正案が可決された場合、実施手続きにかなりの時間がかかるはずだった。政府は強く反発し、解散総選挙の動議撤回も辞さない構えだったが、リンジー・ホイル下院副議長の判断で、この修正案は審議されなかった。

これからどうなる

本当に。

上院の議員たちは30日にも、下院が可決した解散の動議を検討する。上院も可決し、エリザベス女王が裁可するものとして、12月12日の投票日に向けて、議会は来週解散される。

保守党のジェイコブ・リース=モグ下院院内総務によると、議会は11月6日に解散の予定。

ブレグジットが今後どうなるかは、総選挙の結果次第となる。

総選挙をやればブレグジットは解決?

そうとは限らない。

ブレグジットが一気に進むには、総選挙によって誰かが安定過半数を獲得する必要がある。

ジョンソン首相とEUがまとめた離脱協定案は、審議期間が3日間しかないことに下院が反発したため、現在は「保留」されている。

総選挙で保守党が単独過半数を取り戻せば、首相は議会で動きやすくなる。しかし総選挙の前倒しは、ジョンソン首相と保守党にとっても危険要因をはらんでいる。

夏の保守党党首選でジョンソン氏は「何が何でも」10月31日に離脱すると公約し続けた。首相就任後も、それができなければ「溝で野たれ死んだ方がまし」と発言していた。

しかし実際には、EUに来年1月末までの離脱延期を要請せざるを得なかった。

これを受けて、公約違反だと有権者にそっぽを向かれる可能性もある。

ブレグジットに対する主要政党の姿勢は次の通り――。

  • 保守党: 過半数を確保すれば、1月末の離脱期限より前に離脱協定案を成立させ、離脱できる。あるいは、過半数があれば合意なし離脱も強行できる
  • 労働党: コービン党首はまず離脱協定案をEUと再交渉してから、2度目の国民投票にかけたい構え
  • 自由民主党: ブレグジットそのものを阻止したい考え。そのためには、EU加盟国の離脱手続きを定めたリスボン条約第50条の発動撤回を目指している
  • スコットランド国民党: 残留を希望し、2度目の国民投票を求めている

もしも総選挙の結果、またしても単独過半数の与党のいない、いわゆる「宙吊り議会(hung parliament)」になるなら、選挙をやっても成果はなかったということになり得る。

イギリスでは通常、総選挙は5年ごとに行われるが、前回は2017年6月だった

2度目の国民投票はあり得るのか

EU離脱の是非についてもう一度、国民に問い直すことで、ブレグジットをめぐる膠着状態が打破できる可能性はある。

しかし、ユニヴァーシティ・コレッジ・ロンドンの憲法研究チームによると、国民投票の実施には最短で22週間が必要だ。国民投票法案の可決に12週、投票に向けたキャンペーンと投票そのものの運営にさらに10週かかるという。

そして、英政治では大方のことがそうなのだが、政府は単独では決められない。国民投票を行うには、そのためのルールを下院と上院でそれぞれ過半数で可決しなくてはならない。

ブレグジット延期の手続きは?

欧州理事会のドナルド・トゥスク常任議長(大統領に相当)は、今回の延期は「フレクステンション(柔軟な延期)」だと説明している。フレクステンションでは、イギリス議会が離脱期日までに離脱協定を承認すれば、その時点で離脱が可能となる。

トゥスク氏は今年4月の延期決定に続き、またしてもイギリスに「時間を無駄にしないように」と警告することになった。

トゥスク氏はツイッターで、「イギリスの友人たちへ」とツイート。「EU27カ国は正式に延期を採択しました。これが最後かもしれません。どうかこの時間を最大に有効活用してください」と書いた。

任期満了で11月30日に退任が決まっているトゥスク氏はさらに、「ここでの私の任期は終わりに近づいているため、皆さんにはお別れも言いたい。皆さんの幸運を祈っています」と続けた。

12月からの後任は、ベルギーのシャルル・ミシェル首相。

合意なし離脱の可能性は?

まだある。

ジョンソン首相は延期離脱を正式に承諾したが、これで合意なし離脱の可能性が排除されたわけではない。むしろ、可能性が先延ばしされたことになる。

首相は今後も離脱協定案の議会承認を求める見通しで、解散総選挙に打って出た今回の賭けが成功すれば、目的は達成できるかもしれない。

一方で、総選挙後にも離脱協定案が議会を通過しないまま、1月31日になれば、イギリスは離脱条件について合意のないままEUを離脱する可能性が残されている。

(英語記事 Why Brexit is pushing the UK towards an early general election

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