【美土路の見どころ】 意表つく「ハカ」への向き合い方 3位決定戦ではいかに

美土路昭一(みどろ・しょういち)

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Image caption W杯準決勝の試合前、ハカを披露するニュージーランド代表に向き合うイングランドの選手たち(手前)

ニュージーランド代表と対戦するチームがまず直面するのが、伝統的な踊り「ハカ」だ。今大会はこれまでにない向き合い方もみられ、ハカをめぐる議論が起きている。

開催国日本のファンが自国以外の国歌も覚えて歌うという新しい応援スタイルが話題を呼んだラグビーワールドカップ(W杯)日本大会は、1880年代からオールブラックス(ニュージーランド代表の愛称)が試合前に行ってきたハカという伝統の在り方について改めて考えるきっかけにもなった。

準決勝で選手がV字形を作ってハカに対抗したイングランドは、国際統括団体のワールドラグビーから罰金を科せられた

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Image caption V字に隊形を組んだイングランドは、何人かの選手がハーフウェイラインを越えていた

これは、ハカのような文化的挑戦を受けるチームはハーフウェイラインを越えてはいけないという大会規則に一部の選手が反したことに対する処分。2011年W杯決勝でハーフウェイラインを越えてハカに迫ったフランスにも、同様の処分が下っている。

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Image caption フランス(白のジャージー)は2011年W杯決勝で、ハーフウェイラインを越えてハカに迫った

V字形に賞賛の声

一方、通常の横1列ではなくV字形に並んで挑戦し返したイングランドの行為自体は、ニュージーランドでも肯定的に受け止められている。

オールブラックスのスティーヴ・ハンセン監督が「ハカは挑戦であり、受けて立たなくてはならない。(イングランドの対抗策は)見事で独創的でもあった」と話し、ニュージーランド人のウェールズ監督、ウォーレン・ガトランドも「すべてのチームはハカに対抗することができる。イングランドは背中を向けたりせず、ハカに敬意を持って受けて立った」とコメント。

英ガーディアン紙の「ニュージーランド人がイングランドのハカへの対応を賞賛」と題した記事によると、ニュージーランドの多くのハカの専門家が、イングランドの行為はマオリ文化を冒涜するものではないと見ているという。

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Image caption ハカは観客の人気も高い

もともと、オールブラックスの対戦相手は、様々な形でハカに対抗してきた。

「素晴らしい挑戦」

1989年にダブリンでオールブラックスを迎え撃ったアイルランドは一列になって前進し、ハカを行うオールブラックスの選手の顔に自分たちの顔がぶつかるぐらいまで迫った。

この時、レフェリーは止めに入ろうとせずに静観。オールブラックスのウェイン・シェルフォードは、後にアイルランドのスポーツチャンネルの番組の中で「素晴らしい挑戦」と振り返っている。

1995年W杯の決勝では、ハーフウェイラインまで前に出て並んだスプリングボクスに対して、逆にオールブラックスのジョナ・ロムーがハカを行いながらにじり寄り、ロックのコウバス・ヴィーゼが一歩も引かずに受けて立って、最後は顔と顔がぶつからんばかりだった。

2003年W杯では、オールブラックスがハカを始めると、対するトンガもシピ・タウを始め、お互いの文化的挑戦の応酬となった。

ロッカールームで

こうした対戦相手によるハカへの挑戦の仕方を巡って、オールブラックスが試合直前のフィールドではなくロッカールームでハカを行う異例の事態が起きたことがある。

ウェールズが1905年に初めてオールブラックスと対戦した試合では、ハカの後にウェールズ国歌を歌っている。2005年に行われた100周年記念試合でこれが再現されたが、翌2006年にオールブラックスがウェールズに遠征した時、ホストのウェールズ協会がハカの後にウェールズ国歌を歌って対抗する試合運営にしたところ、ニュージーランド側がこれを拒否。結局折り合いがつかずに、オールブラックスは自分たちのロッカールームでハカを行った後にフィールドへと出ていった。

イングランドのV字形ほど目立つものでなくても、対戦チームはそれぞれ対応策を考えている。オールブラックスのペースで試合に入ることを避けるため、ハカが終わった後に一つの動作を入れて一度リセットしようと、トラックスーツを着て入場し、ハカの後に脱いでキックオフに臨むチームもある。

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Image caption かつてはハカを披露したニュージーランド選手と相手選手がにじり寄る場面も見られた

オーストラリアで取材したトライ・ネイションズ(南半球の3カ国対抗戦)のある試合では、ハカが終わった後にオーストラリアの応援歌である「ワルチング・マチルダ」を観客が歌手のリードで合唱し、それからキックオフに向かうという運営だった。

是非を問う声も

オールブラックスを一方的に利するようにも見えるハカだが、それでも世界のラグビー界は先住民族の文化に敬意を表し、伝統を重んじて受け入れてきた。

しかし、今大会の会期中には、ハカを行うこと自体の是非に関する議論が起きていた。

発端はアイルランドの「スポーツライター・オブ・ザ・イヤー」を受賞したこともあるユアン・マッケンナが、W杯開幕直後の9月23日にアイルランドのスポーツウェッブサイトに「ハカはニュージーランドを不要に優遇するもので止めるべきだ」と主張するコラムを掲載したことだった。

同じ時期に、ラグビーだけでなく社会問題、政治問題にまで積極的に意見を表明している元イングランド代表選手のブライアン・ムーアは「ハカには飽きた」とツイッターに投稿した。

禁止論や中止論も

イングランドの挑戦とそれに対するワールドラグビーの処分は、この議論を再燃させた。

英デイリーメイル紙のオンライン版は「オールブラックスのハカの禁止を求める声高まる」と題した記事を10月30日付で掲載した。

さらに、ニュージーランドヘラルド紙も同日付で、ハカはオールブラックスの選手の集中力を削いでエネルギーを消費するという視点から、ハカをやめる時期にきたというスポーツライター、クリス・ラテューの記事を掲載している。

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Image caption ハカの披露を認めるのは不公平との批判も出ている

オールブラックスには今大会、もう一度ハカを行う機会がある。11月1日に行われるウェールズとの3位決定戦だ。

3位決定戦については、その存在意義が長く問われている。ワールドラグビーは、銅メダルを争うオリンピックに倣って「ブロンズファイナル」と呼んでいるが、決勝進出目前で敗れた2チームによる試合という実態に変わりはない。

目標に向かって対決

かつては、この試合に意味を持たせるため、3位までに次大会の出場権を与えたこともあった。

しかし、1995年W杯の3位決定戦でフランスに敗れたイングランドが、1999年W杯の欧州予選でオランダと110-0の大差の試合を演じるに至って、この制度は廃止。現在は1次リーグ各組3位までの計12チームに次大会の出場権が与えられている。

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Image caption 2007年大会では対戦チーム同士の試合前の接近について規定がなかったため、フランス(左)はハカを見せるニュージーランドに接近してにらみ合った

オールブラックスの対戦相手のウェールズは、今年のシックス・ネイションズ(欧州6代表対抗戦)でグランドスラム(全勝優勝)を果たし、W杯直前の今年8月には初の世界ランク1位になるなど、優勝への期待がこれまでで最も高いチームだっただけに、準決勝敗退の失望は大きい。

しかし、過去34回対戦して3回しか勝っていないオールブラックスから66年振りの白星を挙げて1987年W杯以来の自己最高タイとなる3位を目指すという目標がある。

30秒以上にらみ合い

オールブラックスは優勝候補の筆頭として臨んだ1999年W杯の準決勝でフランスに歴史に残る敗北を喫した後、さらに3位決定戦でも南アフリカに敗れて、ラグビー王国として大きな屈辱を味わった。

スティーヴ・ハンセン監督は3位決定戦に向け、「大事な試合だ。(モチベーションは)いろいろあるが、まずは敗戦から立ち直ること。そして、ウェールズに対しては(66年間負けていない)歴史がある。それを守る責任がある」と話している。

ウェールズはかつて、ユニークな方法でハカに対抗したことがある。

2008年にウェールズ・カーディフで行われた一戦で、一列に並んでオールブラックスに対峙した選手たちは、ハカが終わってもその場を全く動かずに黒衣の相手をにらみつけ続けた。これにはオールブラックスも動くわけにはいかず、にらみ合いは30秒以上続いた。

東京スタジアムでは、どんな挑戦が見られるだろうか。

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※アジア初開催ラグビーW杯。BBC NEWS JAPANでは日本戦や注目試合の結果をお伝えするとともに、ラグビーを長年取材してきた美土路昭一氏のコラム<美土路の見どころ>を不定期に掲載しています。

美土路昭一(みどろ・しょういち) 朝日新聞記者(ラグビー担当)としてラグビーW杯1995南アフリカ大会を取材。元日本ラグビーフットボール協会広報・プロモーション部長。早稲田大ラグビー部時代のポジションはSH。1961年生まれ。

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