【英総選挙2019】 ロシアが英政治に介入? 公表されない議会調査のなぞ

ゴードン・コレラ、BBC安全保障担当編集委員

Russian President Vladimir Putin speaks during annual news conference in Moscow, Russia Image copyright Reuters
Image caption ロシアのプーチン大統領は外国政界への介入を否定している

ロシア政府がイギリス国内で諜報活動を展開し、英政治に介入しようとしているという内容の英議会調査報告書について、首相官邸が12月12日の総選挙を視野に公表を遅らせているという批判が高まっている。

英議会・情報安全保障委員会(ISC)による調査報告書について、サジド・ジャヴィド財務相は、公表までにかかっている時間は「まったく通常」のものだと批判に反論している。

しかし、10日付の日曜紙サンデー・タイムズが、報告書ではロシア人実業家9人が与党・保守党に献金したと書かれていると報道。これを受けて、政府に対する批判と公表圧力が高まっている。

イギリス政治への介入は

では、問題のISC報告書とはどういうものなのか。

ごく少数の人しか知らないし、その人たちは発言していないというのが本当のところだ。しかし、どういう内容なのか察することはできる。

ロシアによる広範な活動を検討する報告書だというのは分かっている。活動には伝統的な諜報や妨害工作も含まれ、イギリス国内の活動に限らない。

なにより、イギリス政治への介入について報告書がどう言及しているのかが、大いに注目されている。アメリカのロバート・ムラー特別検察官による捜査報告書は、ロシアが2016年米大統領選に幅広く介入した活動内容について詳述していた。ロシアが特にソーシャルメディアを使い、内部文書を漏洩(ろうえい)することで、選挙結果に影響を与えようとした様子を、ムラー報告書は説明している。

これまでのところ、アメリカに対するものと同レベルのサイバー作戦がイギリスに対しても展開されたという証拠は、イギリスでは得られていない。ロシアによる取り組みの証拠が報告書に含まれている可能性はあるが、選挙やブレグジット(イギリスの欧州連合離脱)を決めた国民投票に対する介入が「成功」した証拠はないと、複数の閣僚がすでに発言している(もっとも、「成功」が何を意味するか決めるのは難しく、異論のあるところかもしれない)。

とはいうものの、パディー・マクギネス元国家安全保障問題副顧問は今月初めにBBCに対して、ロシアなどが悪用できる国内の脆弱性(ぜいじゃくせい)への対策が不十分だと話している。現在はオックスフォード大学インターネット研究所のテクノロジー選挙委員会に参加するマクギネス氏は、制度の改善が必要だと主張し、たとえば政党の情報収集と活用方法について今以上に透明性が必要だと述べた。

保守党への献金

ISC報告はおそらく、イギリスの政治と政府活動の全般に対するロシアの影響について概観しているものと思われる。

議会委員会は、複数の外部専門家や、保安局(MI5)、情報部(MI6)、政府通信本部(GCHQ)といった政府の情報機関からも情報提供を受けている。

外部専門家の中には、著名人も含まれている。ビル・ブラウダー氏はかつてロシアに投資していた実業家で、今ではロシア政府批判を重ねている。2009年にモスクワで獄死した自分の弁護士、セルゲイ・マグニツキー氏の名前を冠するアメリカのマグニツキー法をもとに、ロシア人の訴追を求める運動を展開している。

ほかには、ドナルド・トランプ米大統領についてロシア当局が問題行動の証拠を得ているという内容の「スティール文書」を書いた、元MI6職員のクリストファー・スティール氏や、ロシアや治安関係に詳しいジャーナリストのエドワード・ルーカス氏も、委員会の調査に協力したとされている。

こうした複数の専門家は、ロシアの影響に対してイギリスが無防備すぎるときわめて批判的だったという。特に、ロシア資金がまずはロンドンの金融業界に入り込むことで機密漏えいの端緒を開き、そこを足がかりに政界に浸透したことを、専門家たちは問題視しているとされる。

一部の政治献金についても疑問が浮上しており、サンデー・タイムズは保守党に献金した9人の名前が報告書に明記されているかもしれないと書いている(もっともこれはおそらく、公表される部分ではなく、機密扱いになる別添文書に含まれる情報だろうが)。

報告書は、ロシアとの特別な関係についても証拠を提示している可能性がある。たとえば、ボリス・ジョンソン英首相は外相時代、イタリアでパーティーに出席している。主催者は英夕刊紙イヴニング・スタンダードを経営するロシア人のエフゲニー・レベデフ氏だった。レベデフ氏の父親は、旧ソ連の諜報機関、国家保安委員会(KGB)の将校だった。

BBCのニュース番組「アンドリュー・マー・ショー」に出演したジャヴィド財務相は、「政党への献金となると、保守党だろうがそれ以外の政党だろうが、厳しい規則があり、もちろん我々は常に規則を守る」と述べた。

12月の総選挙にロシアの資金が影響している可能性は絶対ないと確信しているか質問されると、ジャヴィド氏は「自分としてできる限り、確信している。我が党については完全に確信しているし、自分たちの資金繰りについて自信がある。完全に透明に、つまびらかにしている」と答えた。

Image caption BBCのニュース番組「アンドリュー・マー・ショー」に出演したジャヴィド財務相

ISC報告に協力した証人たちは、ロシアによる政治介入の責任の一端は英政府そのものにあると証拠を提示していることが、BBCの取材で分かった。たとえば、2006年にロンドンで起きたロシアの元情報将校アレクサンドル・リトヴィネンコ氏の毒殺事件などに対する歴代政府の対応が不十分だったことから、ロシアによる妨害工作や介入を十分に阻止できずにいると批判しているという。

専門家たちによると、ロンドンにはロシアから巨額の資金が投入されており、ロシアのエリート層にとってロンドンは重要な意味をもつ場所なだけに、イギリスはロシアの工作や妨害に強い姿勢で反撃できる独特な立場にある。それにもかかわらずあえて反撃せず、国際金融の拠点としての地位を守ることにしたのは、ある種の選択ではあったが、それに伴う悪影響が出ていると、専門家たちは議会委員会に述べたとされる。

日頃からロシア批判で知られる専門家たちが、議会委員会に何を言ったか知るのはそれほど難しくない。ISCが実際にその情報をどこまで受け入れて報告書に採用したかは、把握しにくい。

ISCはおそらく、政府の情報機関が提示した証拠を最重視したはずだ。各情報機関が何を証言したかは不明だが、おそらく特定の個人の名前は報告書では黒塗りされているだろう。

ISC報告書は政府の正式な機密保持手続きを経て、内容を精査されている。消息筋によると、政府の他官庁から報告書の公表に反対する声は出ていない。

だすると、公表するしないは完全に、首相官邸次第ということになる。官邸は、通常の手続きを順守する必要があると強調しており、総選挙前に公表されないのはそれが理由かもしれない。

しかし、首相や保守党に批判的な人たちは納得していない。とりわけ党の政治資金に関する、保守党にとって不都合な詳細を、ジョンソン政権は選挙前に公表したくなかったのだろうと、批判勢力は主張している。

あるいは、ロシアによるアメリカへの介入の証拠を、英政府は押さえようとしているのかもしれないと話す消息筋もいる。ドナルド・トランプ米大統領は総選挙直前の12月上旬、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議のためにロンドン訪問が予定されている。

政府筋はBBCに対して、ISC報告書にはロシア介入の詳細が含まれているが、ジョンソン政権は自分たちに向けられる批判の多くに反論できたはずだと話した。

報告書に含まれるロシアによる政治介入の証拠は、思われているほど衝撃的なものではなく、それだけに報告書を公表しないのは官邸の判断ミスだと、この政府筋は話している。報告書を選挙前に公表しなかったがゆえに、報告書の中身と、なぜ政府は公表しないのかという疑心暗鬼が、選挙期間中ずっと政府や保守党にまとわりつくことになるのだと。

(英語記事 General election 2019: The mystery of the Russia report

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