【ジャパン2020】 高齢ドライバーの増加、日本の取り組みは

ブライアン・ラフキン

An older driver caused a multi-injury accident in Kobe after crashing into a monument. Similar accidents caused by elder drivers are prevalent across Japan (Credit: Alamy) Image copyright Newscom / Alamy Stock Photo

日本は、世界でも有数の効率的かつ網羅的な公共交通システムを持つことで知られる。一方で、車両保有台数は8000万台近くと、車好きの国でもある。さらに現在、国民の5人に1人が70歳以上という世界有数の高齢化社会に突入している。その国がいま、デリケートな問題に直面している。国民の高齢化が進む中、どのように交通事故を防ぐのか?

これは重要な問題だ。昨年の交通死亡事故に占める75歳以上のドライバーの割合は14.8%と、10年前の8.7%から大幅に増加した。また、昨年の交通死亡事故件数は1948年以降で最低を記録したにもかかわらず、犠牲者の56%が65歳以上と、高齢者が過半数を占める結果になった。

日本政府が6月に発表した2019年版「交通安全白書」によると、2018年に起きた75歳以上の運転者による死亡事故は、75歳未満によるものの2倍以上にもなる。より詳しく言うと、免許人口10万人あたりの死亡事故件数では、75歳以上は8.2件と、75歳未満の2.4倍に上った。

高齢者による交通死亡事故は、繰り返し大きな全国ニュースとして報じられている。現在、日本では75歳以上のドライバーは3年ごとに認知機能検査を受けて免許を更新する必要がある。また政府は、高齢者が先進自動ブレーキ装置のついた車種のみ運転できるようにする案を検討している。

こうした安全対策にもかかわらず、高齢者に安全に運転してもらう万能の対策はない。それが最大の問題だ。誰もが同じように年を取るわけではないし、ライフステージも人それぞれだ。世界保健機関(WHO)で障害・リハビリ事業を担当するアラナ・オフィサー氏は、「この年齢のこの時点でこの能力が減衰しやすい、ということは言えない」と指摘する。

さらに、高齢運転者を専門に調べるイギリスの研究機関によると、若いドライバーの方が高齢者よりも危険な運転をするという結果も出ている。上述の日本の交通白書によると、16~19歳の運転者による死亡事故件数は10万人あたり11.1件と、最高水準だった。また、米疾病対策センター(CDC)は、高齢者が交通死亡事故を起こしやすいのは、高齢者の方が加齢に伴う健康問題を抱えている確率が高いからだと指摘している。

オフィサー氏は、たとえば公共の安全を理由に何歳以上の全員から運転免許を取り上げるなど、厳密に年齢で区切る制限策を導入した場合、それは法律による年齢差別につながりかねないと話す。

では、何ができるのか。そして日本はどうしているのか。白黒きっぱりした答えはない。しかし、よく練られた政策と新技術の組み合わせが、未来への道筋を示すかもしれない。

独立と敬意が必要

年をとった家族と、運転を諦めるべきかどうか話し合うのは、どの国の人にとっても難しいことだ。「公共の安全を守りながら、高齢運転者の尊厳を守る方法が必要だ」と、金田利子氏は話す。金子氏は、人口の移り変わりや統計を分析する米非営利団体、人口問題研究所(本部・ワシントン)の研究者だ。

静岡県清水市では、トヨタ自動車の販売員、牧野友美氏が高齢ドライバーについてブログに書いている。生活習慣の変化が高齢の運転者にどう影響するか、直接目にしてきた牧野氏によると、自主的に運転免許を返納する人が以前よりも増えているという。その場合は、ディーラーがその顧客の自宅を訪れ、販売員が店舗まで車を運転し、中古車として販売するのだという。

高齢者はタクシーやバスの運賃割引など一定の公的補助を受けられるが、それでも今日を限りに運転をやめるという節目に、感極まる人もいる。牧野氏の顧客の中には、免許を返納するので自動車を買い取ってほしいと電話をしてきた人がいた。

「誰かにけがをさせる前にやめないと」と電話口で話していたこの男性は、やってきた牧野氏の姿を見て泣き崩れたという。

「多くの人が、高齢者は免許を返納すべきだと簡単に議論する。しかし、当事者の気持ちを忘れてはいけない」と牧野氏は話す。愛車も運転も「その人の大事な人生の一部」だったのだから。

警察庁の分析によると、2017年に運転免許を返納した高齢者は40万人超と、1998年にこのプログラムが始まってから最多を記録した。しかし国立長寿医療研究センターの荒井秀典理事長は、免許返納が増えていることは「良い傾向ではない」と考えている。

約500万人の国民が認知症を抱えているとされる日本において、高齢ドライバーが定期的に認知機能検査や運転技能の再訓練を受けることは、「運転できる期間を延ばすことにつながる」と荒井氏は考えている。

高齢者が人口の多数を占め、公共交通機関が限られている地方では、運転免許を失うことは大きなダメージになりかねない。「車なしでは生きていけない人たちもいる」と荒井理事長は説明する。

「買い物にも友達に会いにも行けなくなる。人生を楽しむのに車が必要だ。運転技能が衰えたと感じたとしても、お年寄りは日常的に運転を続けるべきだ」

Image copyright AFP Contributor

イノベーションによる妥協

では、交通事故件数を減らしつつ、高齢者の活動を妨げない方法はあるのだろうか。そのひとつと目されているのが自動運転タクシーだ。

ここ数年、日本の自動車メーカーやテクノロジー企業はこぞってこの分野について、特に高齢者支援に的を絞って研究を進めている(また、2020年の東京オリンピックでの外国人訪問客の輸送にロボットタクシーを使いたいという思惑もある)。自動運転のプリウスが地方都市の公道で試験走行を始めたのは2016年のことだ。

高齢者は長らく、自動運転車の主要ターゲットのひとつと数えられている。日本以外では、「Voyage」というスタートアップ企業が、米フロリダ州にある人口12万5000人、広さ約100平方キロの定年退職者コミュニティー「ザ・ヴィレッジズ」などでの試験走行に向けて数千ドルの資金調達を行った。

しかし、自動運転車が現実のものとなり、誰にでも利用できる解決策となるにはまだ何年もかかるだろう。警察当局は、定期的な認知機能検査以外の短期的な解決策として、認知機能や運転技能に欠陥がある人に対する「制限付き運転免許証」の導入を検討している。この免許証を持つ人は、自動ブレーキシステムなどの安全補助機能のついた車種のみ運転することができるという(高齢ドライバーによる交通死亡事故の主な原因は、ブレーキとアクセルの踏み間違えだ)。

目下、自動車メーカー側は、高齢者の需要に見合ったモデルの導入にも動いている。トヨタ自動車は10月、2人乗りの超小型電気自動車(EV)を発表。短距離走行向けで最高時速は60キロと、運転を続けたい高齢者に特にターゲットを絞ったモデルだ。

Image copyright Getty Images

みんなのための解決策

日本では長年、初心者と高齢者のドライバーは車体に特別なステッカーを貼ることが義務付けられている。これにより、周囲を走る車への注意喚起を促している。

しかしWHOのオフィサー氏は、このステッカーはいくつかの状況では有効なものの、特定の年齢のドライバーについて、解決策を提示しないまま交通事故を引き起こす人たちというラベルを貼ることに、日本政府は慎重になるべきだと話す。そうでなければ、このステッカーは差別法になってしまうとオフィサー氏は指摘した。

効果的な変更点として、オフィサー氏は荒井氏と同じ方向性を示した。つまり、高齢ドライバーが新しいライフステージに適応し、より長い間運転できるようにする包括的な計画だ。オフィサー氏は運転教育の継続に加え、首の関節炎によって左右の確認がしづらい人への作業療法、支援技術や車の改造などを挙げている。

「ドライバーの認知能力を高めれば、安全な運転を継続できる可能性はぐっと増える」とオフィサー氏は説明する。例えば、運転には欠かせないマルチタスクの能力などだ。

「私たちがすべきなのは、高齢者をこういうカテゴリーに押し込めるのではなく、年を取っても安全運転を続けられるようにするためにはどのような政策が必要なのかを見ていくことだと思う」

世界のどこに住んでいても、運転を諦めなければならない可能性があるのは受け入れがたいことだ。特に、十分な支援策がない中で舵を切るのは難しい。しかし日本では、この問題に直面する国民がこれからどんどん増えていくのだ。

人口問題研究所の金田氏は「ある人たちにとってはノスタルジアになるだろう。今日の高齢者は自動車産業の興隆を目の当たりにし、1960年代、70年代に最初に運転免許を取った人たちだ」

「ある意味、一つの時代の終わりなのかもしれない」

(英語記事 How Japan is handling more ageing drivers

取材協力:小林智恵

この話題についてさらに読む