【解説】 なぜウクライナはアメリカにとってそれほど重要なのか

ジョナ・フィッシャー、キーウ(キエフ)特派員

US President Donald Trump offers a hand to Ukrainian President Volodymyr Zelensky during a meeting in New York, 25 September 2019

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ドナルド・トランプ米大統領は、自分の政治的な目的を理由に、同盟国ウクライナへの軍事援助を停止したのだろうか――。これが、米野党・民主党が推し進める弾劾調査の核心にある大問題だ。

ウクライナは大西洋条約機構(NATO)に加盟していない。そして、国内にはびこる汚職問題に長年苦しんできた。しかし、今後は地政学的に重要な国になっていく可能性がある。

なぜウクライナはアメリカにとって重要なのか

1991年のソ連崩壊に伴いウクライナが独立してから28年間。最終的にロシア側の国になるのか、それとも西側諸国と足並みをそろえるのか、不透明な状態が続いてきた。

2014年になると、その不確かな状態は終わったかのように見えた。流血の民衆革命の後、ウクライナの新指導者たちは、欧米とより密接な関係を築く方向に国の未来の舵を切ると表明した。敵扱いされたロシアは、クリミア併合で応じ、ウクライナ東部の親ロ武装勢力を支援。この戦いによる死者は13万人以上に達する。

オバマ政権は、ウクライナの将来はウクライナ人が決めるという自己決定権や、ロシアの侵攻に対抗することを、思想的原則として重視していた。

しかしそれは、トランプ大統領の就任で一変した。そしてウクライナ政府はそれ以来、前のようにアメリカの積極的な支援に頼れなくなった。

アメリカの軍事援助の額は

アメリカとウクライナ軍の間には、長年にわたる関係性がある。アメリカは2014年以降、総額約15億ドル(約1600億円)もの軍事支援をウクライナに提供してきた。

その大部分は、ウクライナ軍の時代遅れな仕組みや動き方の近代化や、兵士の訓練に使われてきた。

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米軍が提供したジャヴェリン対戦車ミサイルシステムを試験するウクライナ軍(2018年撮影、場所は非公開)

トランプ政権がいったん停止した後、提供した直近の軍事援助は3億9100ドル相当(約325億円)で、様々な兵器や技術援助が含まれていた。

ウクライナにとってアメリカの軍事援助の重要性は

アメリカからの援助はウクライナにとって軍事的にも、象徴的にも重要だ。

ウクライナ軍にとってアメリカはかつては、頼りになる後ろ盾だった。しかしもはや、当然のように頼るわけにはいかない。

今の米政府は軍事援助を、出したり引いたりする。トランプ大統領は、がウクライナについて頻繁に軽蔑的な発言を繰り返す。その結果、ロシアとの和平交渉ではおそらく確実にロシアが有利になった。

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ビギナー向けに解説 弾劾調査とトランプ氏

ウクライナは弾劾調査にどう関係している

トランプ氏に対する弾劾調査は、2016年米大統領選と、2020年米大統領選でトランプ氏の対抗馬になるかもしれないジョー・バイデン前副大統領の両方に関係している。そして、ウクライナもその両方に関係している。

これまでのところ、ウクライナ人は誰も証人として呼ばれていない。議会による調査はむしろ、米政府とウクライナ政府の間の「非正規」な外交ルートに注目している。

なぜ2016年選挙が今も問題になるのか

トランプ大統領は2016年大統領選のころから、ウクライナにはよそよそしい態度をとってきた。

トランプ氏のマナフォート選対本部長は、ウクライナの親ロシア派政党から袖の下を受け取った可能性を示す資料が浮上したことで、辞任を余儀なくされた。

トランプ大統領と支持者たちは、この資料の公開によって、ウクライナ当局者は民主党候補だったヒラリー・クリントン氏を不当に支援したと主張する。

トランプ大統領の弁護士ルディ・ジュリアーニ氏による懸命の努力にもかかわらず、この言い分を裏づける証拠はきわめて乏しい。一方で、マナフォート受刑者は銀行詐欺や脱税などの罪で服役中だ。

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トランプ氏への弾劾公聴会、始まる ウクライナに何を

バイデン親子は?

バイデン親子がウクライナで何をしたのかが、弾劾調査の核心となった。しかし、共和党と民主党は立場がまったく異なる。

焦点となっているのは、2014年~2015年の期間だ。バイデン前副大統領はオバマ政権のウクライナ政策を担当していた。そしてこの同じ時期、息子のハンター・バイデン氏は、ウクライナのガス会社役員として高額の報酬を受けていた。

ウクライナ大統領がバイデン親子への捜査を開始する見返りに、トランプ大統領は軍事援助とホワイトハウス訪問を交換条件にしたと、民主党は証明しようとしている。

共和党は、バイデン親子こそが問題なのだと主張している。なぜハンター氏ガ高額報酬を得ていたのか、そして副大統領は息子の会社のために自分の政治的影響力を使ったのか、共和党は追及している。

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バイデン氏とウクライナをめぐる疑惑とは何なのか? BBC特派員が説明

ウクライナ政府は何と言っている

ウクライナ政府の最初の反応は、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領の発言で、ホワイトハウスからの「圧力は感じなかった」というものだった。バイデン親子を捜査するよう圧力をかけられたとは受けとめなかったというのだ。

7月25日のゼレンスキー氏との電話会談を、トランプ氏自身は「完璧な電話だった」と繰り返している。そしてトランプ氏は、「圧力を感じなかった」というゼレンスキー氏の発言を同じようにマントラのごとく繰り返している。

それ以来、複数の米外交官が公表した証言やメールの内容から、ウクライナ当局者がいかに混乱し、米軍事援助の停止について懸念したか、明らかになっている。事態を打開するには、2016年選挙とバイデン親子に対する捜査着手を発表するしかないと言われていたことも分かっている。

たとえば、ウクライナ当局はこの働きかけに屈し、トランプ大統領が明らかに求めていた捜査を発表するため、テレビ取材に応じることまで積極的に検討していた。このことも明らかになっている。

米政界の党派対立に今以上に巻き込まれることを懸念して、ウクライナ当局者は発言を控えている。

ウクライナ人の反応は

ウクライナの人たちの関心は薄れている。ほとんどの人は、自分たちの大統領がトランプ氏と電話でどういうやりとりをしたかよりも、国の東部で和平を実現できるかどうかに注目している。

ゼレンスキー大統領は最近、ロシアを和平交渉の席に着かせようと譲歩を重ねた。批判勢力はこのことについて、未熟で能天気な大統領が、ロシアのウラジミール・プーチン大統領に屈服したのだと非難している。