米海軍長官とトランプ氏、軍法会議めぐりなぜ対立 フォックス・ニュースの影響は

タラ・マクルヴィー、BBCホワイトハウス担当記者

US Navy Seal Edward Gallagher, shown with his wife, smiling Image copyright Reuters
Image caption イラクでの行動をめぐり軍法会議にかけられたギャラガー海軍特殊部隊隊員(左)と妻。ギャラガー上等兵曹は殺人罪などで無罪となった

戦争犯罪の罪状で軍法会議にかけられた米海軍特殊部隊の隊員の処分をめぐり、米海軍長官がドナルド・トランプ米大統領と対立し、職を去った。殺人罪などに問われた1人の兵士の行動をめぐり、大統領が兵士を擁護し、それに抗議した海軍の文民トップが解任されるという事態になぜ至ったのか、解説する。

何があったのか 解任か抗議辞任か

リチャード・スペンサー海軍長官は、24日に辞任を余儀なくされた。

しかし、このてんまつの中心となった3人の当事者が語ることの経緯はそれぞれ食い違っている。

トランプ大統領によると、スペンサー長官は解任されたのだという。その理由の一端は海軍特殊部隊(SEALs)のエドワード・ギャラガー上等兵曹の処分をめぐるものだったと大統領は言う。上等兵曹はイラクで、捕虜にした過激派勢力「イスラム国」(IS)の若い負傷戦闘員を殺害したなどの罪で、軍法会議にかけられた。

軍法会議でギャラガー被告にかけられた罪状は、負傷した少年戦闘員の首をナイフで刺して殺害し、その遺体と記念撮影したというものだった。ほかに、チグリス川沿いにいたイラク人の少女と高齢男性を射殺しようとしたとして殺人未遂罪に問われていた。被告は罪状を否認し、少年を殺したのは自分だと特殊部隊の同僚が証言したこともあり、殺人罪および殺人未遂罪では無罪となった。一方で、少年戦闘員の遺体と一緒にポーズをとって写真を撮った罪では有罪になり、降格された。しかし、トランプ氏はこの処分を取り消し、精鋭の特殊部隊に復帰できるように取り計らった。

トランプ大統領はさらに、この件に対するスペンサー長官の対応のまずさが解任の理由だったと説明した。「海軍特殊部隊エディー・ギャラガーの裁判に対する海軍の対応が気に入らなかった」とトランプ氏は述べた。

大統領は25日に記者団に対して、軍法会議の判断に介入したことについて、「自分はこの国の戦士を守らなくてはならない」と弁明した。

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Image caption 職を去ったリチャード・スペンサー前海軍長官

その一方で、マーク・エスパー国防長官は、自分もスペンサー海軍長官による対応を「深く憂慮」していたと述べた。ギャラガー上等兵曹の処遇について、指揮系統を飛び越えて錯綜した情報を公にしたからだという。

スペンサー氏は、ギャラガー上等兵曹を軍法会議にかけるべきだと公には発言していたが、その実は特殊部隊に残れるよう裏でホワイトハウス関係者と交渉していたのだと、エスパー氏は言う。

そして3人目は、スペンサー氏本人だ。前海軍長官は辞表の中で、「私を任命した最高司令官(訳注・大統領の意味)と、秩序と規律の基本原則について、もはや共通認識がないことがはっきりした。合衆国憲法を擁護し守ると、自分の家族や旗や信仰の名の下に誓った神聖な誓いを冒すような命令に、良心を保ちながら従うことはできない」などと書いている。

スペンサー氏はさらに25日、米CBSニュースに対して、大統領の行動は米兵たちに危険なメッセージを送ることになると述べた。「責任逃れができると」。

いったいなぜスペンサー氏が政府を離れたのか、その真相は、たとえいつか明らかになるとしても、それにはしばらくかかりそうだ。しかし、その根本的な理由は、なぞでもなんでもない。ギャラガー上等兵曹の軍法裁判は、大統領がその行動を大いに応援してみせたからこそ、きわめて政治的な問題となった。

スペンサー氏は問題の渦中に巻き込まれ、そのせいでたちまち職を失ったのだ。

問題の背景は

トランプ大統領は今月初め、戦争犯罪に問われたギャラガー上等兵曹と他の兵士2人を公然と擁護した。

トランプ氏の発言について賛否が飛び交い、大統領権限の乱用だと反発する人たちがいる一方で、兵士3人の処遇は不当だと確信する人たちは大統領の介入を大いに歓迎した。

個々の兵士の個々の事件をどう思うかは別にして、大統領と海軍のやりとりは軍関係者に、そしてその枠を超えて、大勢に強い印象を与えた。

大統領は、ギャラガー上等兵曹は降格処分にすべきでないと主張した。しかし、海軍幹部は上等兵曹を精鋭部隊から追放するための軍法会議を計画していた。精鋭部隊SEALsの一員を意味する金色の「トライデント」(訳注・ギリシャ神話の海神ポセイドンがもつ三つに分かれた矛)ピンを、海軍上層部は取り上げようとしていた。

ギャラガー上等兵曹が精鋭部隊に残れるかどうかが、大統領をはじめとするワシントン上層部の対立の中心命題だった。エスパー長官は25日、上等兵曹が「トライデント」ピンを手放さずに済むよう、大統領が命令を発したと記者団に明らかにした。

大統領はこのような介入できるのか

もちろんだ。全軍の最高司令官として、トランプ大統領には米軍のあらゆる事案に介入する法的権限がある。

その介入を歓迎する人は大勢いた。海兵隊出身のデイヴィッド・ガーフェイン退役中佐は現在、戦争犯罪に問われる軍関係者を法的に支援する団体の責任者で、大統領が今回の件で果たした役割を喜んでいる。

ガーフェイン氏を初め多くの軍関係者は、ギャラガー氏を初め多くの兵士が誤って戦争犯罪に問われたと考えている。多くの軍人が戦場での行動について過剰に起訴されるのは、「ポリティカル・コレクトネス(政治上の正しさ)」の空気が蔓延しているからだと。

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「それが今となっては、大統領の行動が世間の風潮を決めている」と、ガーフェイン氏は評価する。

それに対して、大統領の行動に否定的な見方もある。

ベトナム戦争で従軍したギャリー・ソリス元軍法会議判事は、大統領に介入する権限があると認めながらも、だからといって介入すべきだということではないと指摘する。大統領の介入によって、軍法会議の弁護士や検察官や捜査員たちが、戦争犯罪を追及しにくくなるからだという。

「戦争犯罪を目撃した人たちは、前と比べてなかなか通報しなくなるだろう。事件を軍法会議に通報する司令官の立場が、かえって難しいものになってしまう」

なぜ大統領は介入したのか

保守派とフォックス・ニュースは、ギャラガー上等兵曹が昨年逮捕されたのを機に、事態を大きく取り上げた。リベラル・メディアが上等兵曹を中傷し、軍の司法制度に不当に追及されているのだと、こぞって問題にした。

フォックス・ニュースのレギュラー出演者で退役軍人の権利を主張するピーター・ヘグセス氏は、大統領が上等兵曹を助けるべきだと主張を繰り返した。上等兵曹の家族も、それに加わった。

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Image caption ピーター・ヘグセス氏

私がカリフォルニア州サンディエゴで軍法会議を取材していると、上等兵曹の妻アンドレアさんは私に、自分の夫は無実だと力説した。きょうだいはフォックス・ニュースに出演し、上等兵曹には「にせの嫌疑」がかけられていると主張した。

上等兵曹の弁護士の中には、トランプ一族の各種事業を統括する「トランプ・オーガナイゼーション」の顧問弁護士とつながりのある人もいた。

海軍特殊部隊への影響は

海軍特殊部隊の司令官、コリン・グリーン少将は今年初め、隊内の総点検を命じた。問題行動の有無を確認するとともに、隊員の士気と評判の向上を目的としていた。

大統領がギャラガー問題に介入したことで、SEALsによるSEALs刷新の取り組みは足を引っ張られることになると懸念する声もある。

元判事のソリス氏は、こう断言する。

「大統領の行動が、軍の司法を損なった」

(英語記事 Edward Gallagher: The story behind Trump, Fox News and the Navy Seal

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