【ジャパン2020】 金魚に魅せられた日本人 愛され続ける理由は?

デレク・チャイ

gold fish Image copyright Tomohiro Ohsumi

20年前、美術大学をやめた深堀隆介さんは、落ち着かない、つまらないという気分に悩まされていた。名古屋の自室に座り、アーティストとしてのキャリアを諦めようと考えていた。しかし突然、思いも寄らなかったものから天啓を受けた。飼っていた金魚だ。

「ペットの金魚を見て、自分が探し求めていた美しさが目の前にあったことに気づきました」と深堀さんは話す。深堀さんは筆を取って絵を描き始めた。そして止まらなくなった。

深堀さんはこのインスピレーションの瞬間を、日本の伝統的な遊び「金魚掬(すく)い」にかけて、「金魚救い」と呼んでいる。

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Image caption 深堀隆介さんの制作風景(2018年撮影)

今日、深堀さんの名前は、その三次元的な金魚アートによって、金魚そのものと同義になっている。美大をやめた直後は金魚には何の興味もなかったが、今では金魚アートで国内外で名を馳せた。

深堀さんの金魚アートは完成までに最大2カ月かかる。透明のアクリル樹脂を重ねながら、少しずつ立体的な金魚を描いていく。その結果、樹脂の中で輝く金魚からは自然な影が落ち、まるで生きて泳いでいるように見えるのだ。

特権階級のペット

日本に金魚がやってきたのは1502年。中国の商人によって、武士や貴族のペットとして売買された。そして中国と同様に、日本でも富や幸運の象徴となった。

大手前大学総合文化学部の田中キャサリン准教授は、「理想的なのは、朱色に金のきらめきが入っているもので、日本ではこの組み合わせは特に幸運とされている。金は富を表し、赤は病や不運を払ってくれるとされている」と説明する。

江戸時代中盤になると、金魚の人気は高まったものの、まだ上流階級に限られていた。

金魚が市井のペットとなるのは19世紀末に明治の時代が訪れ、日本が近代化してからだ。産業化が始まり、西洋文化が流入し、絵画には伝統的なスタイルと現代の影響が混ざり始めた。陶器や織物などの工芸品も、大量生産へとシフトしていった。

田中准教授は、「金魚の魅力の一部は、最初のころこそ上流階級との結び付きにあったかもしれない。しかしその色や動きの美しさが人気を高めた」と話した。

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Image caption 1900年に描かれた金魚を狙う鳥の絵

それ以降、金魚は日本人のお気に入りのペットになった。日本中でさまざまな品種が作られたが、特に盛んだったのは東京と、奈良県大和郡山市だ。

毎年、蒸し暑い8月になると、日本各地でお祭りが開かれる。紙でできた「ポイ」で生きた金魚をすくう金魚すくいは江戸時代からあるゲームだが、今でも夏祭りの風物詩だ。

「偶然にも、私をアーティストの道にとどまらせてくれた金魚も、金魚すくいで手に入れたんです」と、深堀さんは話してくれた。

金魚の人気はとても大きく、たとえば北海道では毎年夏前に、わざわざ東京から金魚を運んでくる。北海道では、冬の寒さに金魚が耐えられないからだ。

浮世絵の題材として

中国から金魚が紹介された16世紀、室町時代の日本と中国の間の貿易も栄えていた。この時期、文化への関心の高まりとともに、金魚は日本の芸術分野、特に浮世絵にもその存在感を示し始めた。

浮世とは「つらくはかない世の中」を表すと同時に、江戸時代の都市生活を表す言葉でもあった。浮世絵では繁華街の様子などが版画で表された。エレガントな長いひれを持つ金魚は、こうした江戸時代の移ろいの美学を繁栄していた。

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Image caption 歌川国芳による「金魚づくし」

世界で最も有名な金魚の絵は、歌川国芳による「金魚づくし」の版画かもしれない。

「金魚づくし」には9点の版画が含まれ、擬人化された金魚が鮭に酔ったり、雨傘を差したり、敵に剣を向けたりしている様子がユーモラスに描かれている。この作品の多くは現在、ベルギー王立美術歴史博物館が所蔵しているが、日本で展示されているものもある。

横浜美術大学の客員教授でもある深堀さんは、日本では古くから、動物を擬人化した芸術が多いと説明する。

「国芳の作品では、金魚が水の世界から解き放たれ、自由を謳歌(おうか)しているように見える。国芳の『型破り』の思考や素晴らしい才能が、多くの作品でいかんなく発揮されている」

現代でも、金魚は日本のポップカルチャーや芸術の世界で中心的な存在だ。そして深堀さんの作品は、日本文化で金魚が得た名声の証拠になっている。

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Image caption 深堀隆介 「花桶」、2018年

「日本人は元々、熱帯魚に向けるのとは違う、特別な魅力を金魚に感じていた。しかし多くの人はそれに気づいていない。存在自体が生活にとても近いので、金魚の美しさを分かっていないのかもしれない」と深堀さんは語る。

「私は作品を作るとき、本物の金魚の写真は見ずに、想像と記憶を頼りにしている。金魚は人口養殖がほとんどだが、私も自分の頭の中で同じことをして、新しい種類を作り出しているように感じる」

「存在はしないがそこにいる。存在しているように見えるが本物ではない。私の作る金魚は、お化けか霊のようなもの」

深堀さんは、横浜にある自身のアトリエ「金魚養画場」で作品を製作している。深堀さんの作品は、完成時には上からのぞき込む形になる。もしかしたら、日本人が伝統的に金魚を見て楽しんでいた方法を受け継いでいるのかもしれない。

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Image caption 2016年の「アートアクアリウム」

日本では他にも、金魚が球体や幾何学的な形の水槽を泳ぎ回る「アートアクアリウム」という展示が毎年行われ、観光客が詰め掛けている。展示では暗い壁からネオンの光が漏れ、トランスミュージックが鳴り響いている。

アートアクアリウムを制作している木村英智さんはかつて、観賞魚の専門家として観賞魚を店舗に卸す仕事をしていたが、アートとデザインへの愛が新たな道を開いたという。

展示では金魚以外の水中生物も扱うが、やはり金魚を使う展示が最も人気が高く、これまでに延べ810万人が訪れた。

今日、日本ではせんすやタオル、茶碗といった日用品や、キャンデーの袋にまで金魚の絵柄が使われている。その汎用性について、田中教授は「人々が気づかないほど」だと話した。

「これは、大量生産によって人々が手にするものに興味を示さなくなった、そういう大きなトレンドの一部かもしれない。あるいは金魚そのものが珍しいものではないからかもしれない」と田中教授は説明する」

「金魚の魅力は変わったと思う。多くの人はその歴史のことは知らないが、夏との関係や優雅さ、美しさはまだ残っている」

(英語記事 Old gold: An enduring love of a humble fish in Japanese art

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