【英総選挙2019】 なぜ大事な選挙なのか 不人気の党首2人にブレグジット

アンソニー・ザーカー、BBC北米担当記者

Jeremy Corbyn and Boris Johnson Image copyright AFP
Image caption 最大野党・労働党のコービン党首(左)と与党・保守党のジョンソン首相(右)のそれぞれの個性が、今回の選挙の大きな特徴となった

イギリスの有権者は12日、国の今後を左右する総選挙に投票する。4年間で3度目のことだ。選ぶのは難しい。

元保守党のニック・ボウルズ下院議員は、「うそをつかずにいられないうそつき」と、「全体主義者」のどちらかを選ばなくてはならない、「とんでもない二者択一」だと言う。

ボウルズ氏によると、前者は与党・保守党を率いるボリス・ジョンソン英首相のことだ。後者は、最大野党・労働党のジェレミー・コービン党首のことだという。

まるで2016年米大統領選が、大西洋の反対側で3年後に再現されているような光景だ。あの時も両党の候補は共に、欠点だらけで信用できないと言われていた。

ウェールズ北部の選挙区から出馬している労働党候補のメアリー・ロバーツ氏は8日の集会で支持者に向かって、「多くの人が冷笑的になっていて、相次ぐ戸別訪問にもううんざりだと言う」と明かした。「そう言われると、なかなか難しい」と。

集会にいた選挙運動員や活動家たちも、同意見だった。有権者は、ブレグジットも選挙も絶え間ない政治的混乱も、さっさと終わってほしいと思っているのだと。

これが2019年英総選挙だ。クリスマス前のプレゼントだが、喜び勇んで開けてみようという有権者はあまりいなさそうだ。

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ジョンソン氏の信用問題

ジョンソン氏にとっては、国の総理大臣として有権者の信任を得る初めての機会だ。総選挙の前倒しを求めたのは本人だが、選挙戦はそれなりに波乱に満ちていた。

ジョンソン氏を批判する人たちは、その信頼性を疑問視している。これは大事な問題だ。ジョンソン氏は自分こそが1月末までにイギリスの欧州連合(EU)から離脱させられるし、自分こそがその後に新しい貿易関係を築くための交渉を成功させられると、有権者を説得しようとしているので。

批判勢力は、ジョンソン氏による数多の公約違反やミスリーディングな発言を取りざたする。医療や、ブレグジット(イギリスのEU離脱)で北アイルランドがどう扱われるかについて、ジョンソン氏は約束を破り続けてきたと。

ジョンソン氏は自分に子どもが何人いるかさえ、公の場で話そうとしない。これには米メディアさえ注目した

BBCのベテラン司会者、アンドリュー・ニールは、他の党首と異なり自分のインタビューに応じないジョンソン氏に呼びかけて、「私たちの質問のテーマは信頼です。なぜ政界とジャーナリズムでのキャリアを通じて繰り返し、批評家だけでなく近しい人までもが、ジョンソン氏は信頼に値しないと思うに至ったのでしょうか」と述べた。

ジョンソン氏は結局、ニール氏の番組での選挙前インタビューに応じなかった。近年の総選挙では異例のことだ。ほかにも、気候変動をテーマにした討論会にも出席せず、その代わりに溶ける氷の塊が登場した。

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Image caption ジョンソン氏は時に世間の注目を避けてきた

ブレグジット党のナイジェル・ファラージ党首でさえ、ジョンソン氏をためらうことなく批判している。

「私は25年前からなんだかんだとボリスを知っている。とても人好きのする、楽しい性格だ。絶対的に信用するかって? いいえ」

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大拡散された瞬間

選挙終盤で特にジョンソン氏にとって打撃となったのは、北部リーズの病院の床に横たわる4歳男児の写真だったかもしれない。9日に報道されたこの写真では、病気で救急搬送された男の子が、ベッド不足のため床に敷かれたコートの上で横になっていた。

ソーシャルメディアで広く拡散されたこの写真は、保守党を劣勢に立たせた。4歳の男の子がひどい目にあったことに謝罪し、保守党政権が国民医療制度の「国民保険サービス(NHS)」に十分に予算を回さないからこうなっているのだという批判から、自分たちを守ろうとした。

ジョンソン氏の反応は、この写真を見せようとした民放ITV記者の質問をさえぎるというものだった。写真を見るよう記者に繰り返し促されても当初は見ようとせず、挙句には写真が収められている記者のスマートフォンを取り上げ、「あとで検討するから」と言いながら自分のポケットに入れる始末だった。

この振る舞いを機に、首相は批判への対応が必ずしも上手ではないし、共感の表現に苦労することもあるという従来の認識が、さらに強まる可能性もある。

コービン氏は一気に攻撃に打って出た。保守党は「9年も政権を担い、今ではNHSに予算を回していると主張するが、実際はそうではない。過去9年間で積み上がった不足分さえ、補えていない」と批判した。

コービン氏の信用と思想

その一方で、労働党の党首も批判と無縁ではない。ブレグジットについての発言はあいまいかつ矛盾だらけで、労働党をEU残留を明確に掲げる党にしなかったことで、コービン氏の信用にも傷がついた。

労働党は、2016年の国民投票で圧倒的に離脱を支持した選挙区と、圧倒的に残留を支持した選挙区の両方で、議席を確保したいという難しい立場にある。そのためコービン氏は、残留派も離脱派も両方取り込もうとしてきたが、むしろ両方の反発を買ってしまったようだ。

しかし、今月に入ってウェールズ北部を遊説するコービン党首を追いかけたが、彼はめったにブレグジットに触れず、国の医療制度に投資し充実させるという公約を繰り返していた。

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Image caption コービン氏は草の根の有権者の間で人気だが、ブレグジットについては歩調が乱れている

そのほか、近年の労働党は反ユダヤ主義が党内にはびこっていると指摘されてきたものの、コービン氏は党首として対応が不十分だと批判されている。ほかにも、コービン党首が党内の穏健派を追い出した、あるいは、北アイルランドの分離独立を目指すアイルランド共和軍(IRA)に同情的だったとも、批判されている。

6日に行われた最後の党首討論会では、ジョンソン氏もコービン氏とIRAの関係を取り上げて攻勢に出た。ブレグジットの際に北アイルランドをどう扱うかについて、ジョンソン氏の計画をコービン氏が批判しようとしたからだった。イギリスの一部の北アイルランドと、EU加盟国のアイルランドの間にある地続きの国境を、開放されたままにするにはどうすればいいか、この一見どうにも解決しにくい問題が、ジョンソン氏の離脱案で大きな争点になっている。

労働党のマニフェストはコービン氏の社会主義的な姿勢を反映したもので、党内穏健派もこれには批判的だ。コービン氏はさらに、増税を提唱し、郵政や水道や電気・ガスなどの国有化、週休3日制の導入などを呼びかけている。

ブレグジット選挙

今回の選挙は、歴史書にブレグジット選挙として記録されるだろう。

ジョンソン氏自身、前任のテリーザ・メイ氏がEU離脱協定を議会通過させられなかったことを受けて首相に就任した。だからこそ、保守党は「Get Brexit Done(ブレグジットを実現しよう)」を掲げて運動し、労働党が伝統的に優勢な離脱派の選挙区を奪おうと努力している。

しかし、ジョンソン首相の選挙活動はそれ以上に、安定過半数の確保を重視している。実現できれば、2017年以来だ。ジョンソン氏によると、ブレグジットも、EUやアメリカとの新たな通商協定も、国民保健サービス(NHS)への投資拡大も、教育も、全てが保守党単独政権の成立にかかっている。

ジョンソン氏にとって、英米関係は危うい問題だ。アメリカとの「特別な関係」は、可能性と危険を同時にはらんでいる。

ドナルド・トランプ米大統領は、イギリスでは非常に不人気だ。ロンドンのサディク・カーン市長との確執や、イギリス政治に関する数々の不謹慎なツイート駐米イギリス大使に対する辛らつな扱いなどを通じて、トランプ氏は多くのイギリス人にとって好ましくない人物となっている。

労働党とコービン党首は、ジョンソン氏とトランプ氏の親密な関係につけ込み、英米通商協議でイギリスの医療制度が「取引対象」になっていると示唆している。

こうしたことから、コービン氏とトランプ氏による英米関係は、よく見積もっても厳しいものになるはずだ。

他党の動向は?

二大政党の党首が苦労していることで、小さな政党にも戦う余地が生まれたという意見もある。自由民主党やブレグジット党、スコットランドのスコットランド国民党(SNP)、ウェールズのプライド・カムリなどが支持を拡大している。

SNPは、前回に続いて議席増を見込んでいるようだ。しかし他の党は、接戦が見込まれる選挙区で候補者を調整するなど、戦術的投票に向けた協力や努力をしているにもかかわらず、苦戦している。

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Image caption SNPのスタージョン党首はスコットランド中を遊説して回った

その代わり、イギリスのほとんどの地域では結局のところ、労働党と保守党という二大政党の争いになりそうだ。そして、それぞれの党首の対照的な性格や政治指向が、焦点になりそうだ。

ジョンソン首相は、身だしなみも台本も気にしないことが多い。声高にブレグジット支持を叫び、自党を保守ポピュリズムの方向へ押し出している。ジョンソン氏をトランプ大統領と直接比較しようとしても、細かい部分では一致しないことが多い。しかし、自らの政策実現のためなら規範や伝統を脇に追い出すし、従来の秩序を大きくかき乱す存在だという意味で、ジョンソン氏はトランプ氏と同じだ。

一方、2015年に労働党党首となったコービン氏は、同党でここ数十年なかったほどの決定的な左翼化を体現する存在だ。アメリカで例えるなら、コービン氏の台頭は、バーニー・サンダース米上院議員が民主党で党首になるに等しい。

現在の労働党は、トニー・ブレア氏やゴードン・ブラウン氏が政権を握っていた2000年代とは、かなり違う政党だ。

イギリスの有権者の多くも、ここ10年の出来事を振り返り、イギリス自体もかつてとはかなり違う国なのではないかと考えているかもしれない。

それでも12日には、現在のイギリスが果たしてどういう国なのか、その形が次第に明らかになるはずだ。

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(英語記事 General election 2019: Why this UK vote is a huge deal

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