イラン司令官殺害についてQ&A 緊張緩和に国際社会は何ができるか

Huge crowds pack Tehran for the funeral of Qasem Soleimani Image copyright AFP
Image caption ソレイマニ司令官の葬儀に大群衆が集まった(6日、テヘラン)

米軍は3日、イラン革命防衛隊の精鋭部隊「コッズ部隊」のトップ、カセム・ソレイマニ司令官を、イラク・バグダッド空港の近くでドローンによって殺害した。

中東で陣頭指揮を執っていたソレイマニ司令官は、イラン国内で最も影響力のある人物の1人だった。米軍による司令官殺害は、アメリカとイランの緊張関係を悪化させる引き金となった。

イランの首都テヘランで6日行われた葬儀には大群衆が参列し、市内の通りを埋め尽くした。最高指導者アリ・ハメネイ師は、「厳しい報復」措置を講じると誓った。

なぜアメリカのドナルド・トランプ大統領はソレイマニ司令官の殺害を指示したのだろうか? イランは報復するのか? そして、この緊張状態を緩和するために諸外国は何ができるのだろう?

BBCのジョナサン・マーカス防衛外交担当編集委員が、米軍によるソレイマニ司令官殺害が何を意味するのかについて、あなたの疑問に答える。


Q. これ以上のエスカレーション(事態悪化)を防ぐため、世界には何ができるか――ヴィグネシュ・スブラマニアンさん

A. アメリカの行動に対する衝撃と、影響への懸念がまず広がった。その後、米政府に特に近い同盟国を含めて世界中から緊張緩和を求める声が次々と上がった。

欧州連合(EU)は、イランのジャヴァド・ザリフ外相を協議に招いた。EUはザリフ外相と共に、喫緊の危機について話し合うだけでなく、死に体になってしまったイラン核合意、包括的共同作業計画(JCPOA)の今後についても協議することになるだろう。

しかし、イランが反撃の機会を手放すとは考えにくいし、それにも増して、トランプ大統領が大規模な再反撃の脅しを実施しないとは想像しにくい。

すべては、これからの数日間と数週間の展開次第だ。

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ソレイマニ司令官の葬儀に大群衆、涙と怒り テヘラン

Q. イランはいつ報復に出るのか――ケン・アンガスさん

A. 時と場所は、イランが決める。イラン政府報道官は、攻撃対象は軍事的なものになると示唆したが、「軍事的」の意味は広く解釈できるのかもしれない。

実力行使は控えるようにイラン政府を説得できるかどうかが、ポイントになるかもしれない。イランが報復攻撃を自制するとしたら、その理由はたとえば、エスカレーションの連鎖を恐れて(これはあまりあり得ない)、あるいは事態沈静化につながる別の外交手段が浮上するから(これもおそらくあり得ない)――だろうか。

Q. もしイランがアメリカの軍事施設を攻撃した場合、北大西洋条約機構(NATO)は北大西洋条約第5条で規定される集団的自衛権を行使しなくてはならないのか――マイクさん

A. いいえ、その展開は考えにくい。過去10年の間に世界各地で様々な米軍施設に対する攻撃がしばしば繰り返されたが、NATOとして対応するきっかけにならなかった。

第5条が定める集団的自衛権が発動されたのは、2001年9月11日の米同時多発テロの時だけだった。当時のそれは象徴的な意味がほとんどで、甚大な危機に際して同盟諸国がアメリカに連帯を示すことが目的だった。

NATO加盟国はおそらく、アメリカとイランの直接対決に巻き込まれるのを望んだりはしないだろう。加盟国のいくつかは中東地域に艦艇や部隊を配備しているため、戦火に巻き込まれる危険がある。

米政府が今後さらにイランに対して軍事行動をとるなら、単独行動になりそうだ。

Q. イギリスへの影響は? イギリスは報復の標的にされやすいのか?――ショーン・ゲイジーさん

A. イランはおそらく最初は、はっきりアメリカのものだと明らかな標的を狙いたがるだろう。しかし、周辺全域に火をつけることで影響力を拡大したいなら、イギリス軍は否応なく巻き込まれる。

ペルシャ湾にはイギリス海軍の駆逐艦とフリゲート艦のほか、補給艦と掃海艇がいる。イラクには、イラク軍を訓練する国際的な協力事業の一環として英兵が約400人いる。

イランがイギリスそのものを攻撃する可能性は非常に低いが、イランはさまざまなサイバー攻撃を諸外国に仕掛けてきた。また中米などで起きた攻撃や爆撃の背後には、イランとその代理勢力がいると広くみられている。

しかし、やはりイランが真っ先に焦点を当てているのはアメリカだろう。アメリカからひどく不当な仕打ちを受けたと怒るイランが、アメリカ以外を攻撃するのは、イラン側の文脈にまったく当てはまらない。

英紙タイムズはイランが英兵を攻撃すると脅したと伝えたものの、これは駐ロンドンのイラン大使がきっぱりと否定している。

Q. 第3次世界大戦にまで至る恐れは?――ルイス・オルコットさん

A. 確かに、ソレイマニ殺害によってアメリカはイランに「宣戦布告」したに等しいと言う人もいるが、ことの重大性を過大評価するべきでないし、過小評価するべきでもない。

これは、第3次世界大戦のきっかけにはならない。そのような事態にはたとえばロシアや中国といった国が主要なアクター(当事者)になるだろうが、今の事態で両国ともさほど大きな役割を果たしていない。

しかし、これは中東と、中東におけるアメリカ政府の役割にとって、決定的な瞬間になるかもしれない。イランは報復に出るだろうし、そこから両国が全面対決に至る連鎖反応が始まる可能性がある。

イランは中東地域において米軍関連施設を狙うかもしれないが、それと同じくらい、イランが脆弱(ぜいじゃく)視するあらゆるアメリカ関連の標的が対象になるかもしれない。

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イラン司令官殺害 イランとアメリカの関係はなぜここまで悪化した

Q. こうやって誰かを殺すことは国際法上、違法なのか?――エイモン・ドナヒーさん

米政府はソレイマニ司令官が、イラクにおける米軍に対する一方的な攻撃の責任者だったと主張するだろう。イラク国内の米軍部隊は、イラク政府の要請を受けて駐留している。

多くの米兵がソレイマニ司令官のせいで犠牲になったと、米政府は考えている。また、彼が率いたイラン革命防衛隊のコッズ部隊を、米政府はテロ組織とみなしている。なので、米政府にとっては法的一貫性があるのかもしれない。

しかし、国際法学者として名高い米ノートルダム大ロースクールのメアリー・エレン・オコネル教授は、「先制的自衛は決して、暗殺の法的根拠にならない」と指摘する。

「暗殺を法的に正当化するものはない。関連法令は国連憲章だが、そこで自衛権は具体的かつ重大な武力攻撃が発生した際に自衛する権利と定義されている」

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「バグダッドでカセム・ソレイマニ将軍をドローンを使って殺害したのは、アメリカに対する武力攻撃への反応ではなかった。イランは、アメリカの主権領土を攻撃していない」

「この場合、アメリカは超法規的殺人を犯しただけでなく、イラク国内において違法な攻撃を実施したことになる」

Q. 国連の姿勢は?――サラさん

A. 個別の加盟国がそれぞれ表明している内容を除けば、国連がどういう意見かはなかなか言いにくい。そもそも、国連の意見など本当は存在しないので。

「国連の意見」という場合、たとえばそれは国連安全保障理事会の見解のことだろうか? それはおそらく紛糾(ふんきゅう)してまとまらないだろう。

アントニオ・グテーレス国連事務総長は、中東の緊迫化を深く憂慮していると表明した。

「各国の指導者は今こそ、最大限の自制を働かせなくてはならない。湾岸地域でまたしても戦争が起きる事態に世界は耐えられない」と、事務総長のファルハン・ハク報道官は声明を出した。

Q. トランプ米大統領は自分の弾劾裁判から注目をそらすために攻撃を命令したのか?――マーティン・ギャラガーさん

A. そう批判するのは簡単だし、国内政治は常に重要だが(特に、大統領選の年を迎えたトランプ氏にとって)、最終的な決定は「機会」と「状況」という2つの要素が組み合わさったもののはずだ。

イラク国内の米関連施設に対する攻撃が高まっていたことが文脈としてある。加えて、国防総省はあいまいな表現ながらも、将来的に攻撃が計画されていたと主張している。

そうした中で、チャンスが訪れたのだ。これをアメリカが察知したこと自体、米諜報活動の正確さと規模をあらためて示したし、アメリカの諜報力は完全無欠では決してないものの、イランは今後の対応を検討する上で、計算に含めなくてはならない。

大統領選の年になり、トランプ大統領にとっては中東でアメリカ人の犠牲を出さないというのが重要事項になった。

今回の劇的な攻撃はある意味で、物言いはタフでも実際の実力行使という意味では驚くほどの慎重姿勢を貫いてきた大統領にとって、らしくないものだったとも言える。

Q. イランが核による報復を追求する危険は? 核攻撃能力はあるのか?――ハリー・リックマンさん

A. いいえ。イランにはいわゆる核兵器開発計画はない。ただし、核兵器開発につながり得る要素や、それを推進するノウハウは残している。

イランは常に、核兵器など欲しくないと力説していた。ただし、アメリカ政府に対するいら立ちが募れば、イランはあらゆる自制をかなぐり捨てて、国際社会との核合意を完全に放棄することはあり得る。現にイラン政府はすでに、核合意にもとづくウラン濃縮の制限を順守しないと表明している。

トランプ政権はすでに、いわゆる包括的共同作業計画(JCPOA)を離脱している(多くの専門家は「無謀にも」と言うかもしれない)。これによって、緊張緩和の明確な外交手段がないまま、イラン政府に対する圧力を強める結果となった。

Q. ソレイマニ将軍はイラクで何をしていたのか? イラク政府の意見は?――トムさん

A. 将軍が何のためにイラクを訪れたのかははっきりしない。しかし、イランはイラク国内でさまざまな親イラン派のイスラム教シーア派武装勢力を支援している。ソレイマニ将軍と共に死亡したのはシーア派武装組織「カタイブ・ヒズボラ」のアブ・マフディ・アル・ムハンディス副司令官だった。

イラク政府は苦しい立場に立たされた。イランとアメリカ両国と同盟関係にあり、駐留米軍は過激派勢力「イスラム国(IS)」との戦いにおいて、イラクを支援してきた。そして、米軍が使う基地を国内武装勢力が攻撃し続けることで、イラク政府は面目を失っていた。

しかし、イラクのアデル・アブドルマハディ首相は、米軍が首都バグダッドでソレイマニ司令官を殺害したことに反発し、「イラクの主権を傲慢に侵害し、国の尊厳をあからさまに攻撃した」と非難。ソレイマニ将軍やムハンディス副司令官を「ISとの戦いでの大勝利」を実現した、「殉教者」とたたえた。

またイラク議会は5日、駐留米軍に退去するよう求める決議を可決した。

イラク政府はさらに、米軍が駐留条件に違反したと批判している。

Q. イラクにおけるアメリカとイランの役割は――カキンガ・モーゼスさん

A. シーア派が主流のイラク政府にとって、イランは大事な同盟相手だ。そしてイランは、上述したような民兵組織を通じて、イラク国内で大きな影響力を持つ。

アメリカは、ISの残存勢力を打倒するため、イラク軍の訓練のため、あるいは軍事顧問として米兵5000人をイラクに駐留させている。

(英語記事 Qasem Soleimani: What can the rest of the world do?

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