【解説】 イランとアメリカの危機は終わっていない 5つの理由

ジョナサン・マーカス、BBC防衛外交担当編集委員

Iranians burn US and Israeli flags during anti-US protests over killing of Qasem Soleimani in Tehran, 4 January 2020 Image copyright EPA
Image caption イラン革命防衛隊のソレイマニ将軍殺害によってイランの首都テヘランでは反米デモが起きた

ありがたいことに、米軍がイランのカセム・ソレイマニ将軍を殺害したことに端を発する危機は、全面戦争には至らなかった。

そういう意味では、事態は沈静化した。

しかし、両国が戦争の瀬戸際まで接近した、その背景にある基本的な要因は変わっていない。この危機は終息したとは到底言えない。その理由を説明する――。

1) 緊張緩和は一時的に過ぎない

緊張は緩和したという専門家もいるが、まったく見当違いだ。

イランの首脳陣は、ソレイマニ将軍の殺害によって、自分たちの根本を揺るがすようなショックを受けた。そして、自分たちにできる形で反撃した。イランは、アメリカの標的を攻撃し、しかも誰がどこから攻撃したのか相手に明確に伝えようとした。そのため、自国領内からミサイルを発射したのだ。

しかし、イランにできることには実際的な制約と政治的な制約があった。ただちに何かをしたかった。混乱状態にあった。しかも、全面戦争を始めたいとは思っていなかったのだ。

複数のイラン当局者がはっきり口にしてきたように、この件は決して終わってはいない。

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ウクライナ旅客機の撃墜についてイランが責任を認めたことも、緊迫する情勢の沈静化を図った対応だという意見もある。これは間違っている。

イランは当初、当然のように関与を否定した。しかし、アメリカが自分たちの諜報結果はそれと異なると主張し、ウクライナの調査官たちがミサイル攻撃の証拠を発見し、さらに、飛行機が撃墜される様子の動画が本物だと複数の第三者調査官が証明したとあっては、イランも言い分を変えるしか他にほとんどどうしようもなかった。

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Image caption ウクライナ航空機の墜落現場

それどころか、イラン当局がブルドーザーを使って墜落現場のがれきを撤去し始めた時点で、イランがことの真相をはっきり承知しているのは明らかだった。事故の可能性が少しでもあるなら、がれきは現場にそのまま残すのが当然だからだ。

政府が撃墜だと認めたのはむしろ、国内情勢に関連していた。わずか数カ月間には国内各地で、政府の汚職と経済破綻に抗議するデモが相次いだばかりだ。

反政府デモはたちまち再燃した。イラン政府が撃墜を認めたのは、対アメリカの緊張緩和のためではなく、国内での波紋を鎮めることが何よりの目的だ。

2)アメリカの方針は変わっていない

なぜ米政府はソレイマニ将軍を殺害し、さらにイエメンで別のイラン政府幹部を空爆しようとしたのか。米政府は、もしかすると法的な理由から、アメリカの国益に対する深刻で切迫する攻撃を防ぐためだったと主張している。

この言い分に納得する専門家はあまり多くない。ドナルド・トランプ米大統領に批判的な米政界関係者も同様だ。

それよりむしろ、何らかの明確な抑止力の一線を確立し直すことが、米軍の目的だったのかもしれない。短期的にはこれはうまくいくかもしれない。イランは、自分たちの今後の動きをきわめて慎重に検討しなくてはならないはずだ。

しかし、トランプ大統領はイランを壊滅させるぞと脅しつつも、中東から撤退したい気持ちに変わりはないと合図を送っていた。中東の混乱はアメリカの問題ではないというのが、トランプ氏の姿勢だ。これは否応なく、アメリカが発する抑止的メッセージの迫真性を損なう。

アメリカは今後もイラン経済に打撃を与えていく。しかし、経済制裁が続いてもイラン政府は屈して交渉に応じたりしていない。イランはむしろ前より大胆な攻勢に出て、自分たちの方がアメリカに最大限の圧力をかける作戦を展開している。

米政府はイラン政府への圧力を強めたい。それと同時に、中東に配備する人員や資材を大きく減らしたい。その両方を実現するのは、難しそうだ。

3)イランの戦略的目標は変わらない

イラン経済は経済制裁の圧力にきしんでいるし、市民の多くは不満を募らせているかもしれない。しかし、政府はなんといっても「革命政権」なのだ。

ある日いきなり権力を手放すなど、ありえない。イラン革命防衛隊などの組織はあまりに強力すぎる。なので政府は、国内では不満分子の鎮圧を強化し、国外ではアメリカの圧力に反発するという形で反応してきた。それは今後も続くだろう。

イランの戦略的な目標は、周辺地域からアメリカを追い出すことだ。少なくともイラクから。この点については、ソレイマニ殺害の前より実現に近づいているかもしれない。

少なくともイラン当局の目線からすると、政府の方針は数々の特筆すべき成果を出している。シリアのアサド政権を救い、イスラエルに対する新しい前線を開くことができた。イラクについてはかなりの影響力を持つに至った。

トランプ大統領の政策に矛盾があるため、中東でのアメリカの同盟諸国は以前に増して、頼れるのは自分のみと思うようになっている。サウジアラビアはイランと実務者レベルの協議を画策している。トルコは独自路線を進み、ロシアと新しい関係を確立しつつある。ソレイマニ殺害はトランプ政権による中東政策の活発化の前触れだと考えているのは、イスラエル政府だけのようだ。

イスラエルは、落胆するのかもしれない。

イラン国内の不満増大と経済の弱体化を背景に、イラク革命防衛隊は否応なしに、今後時間をかけてアメリカへの圧力を強めていくかもしれない。相次ぐひどい打撃をこうむったばかりで、復讐を強く求めるはずだ。

4) イラクの立場には矛盾が

イラク駐留米軍に向けられた「出口」の標識は、かつてないほどくっきり鮮やかだ。

イラクも国内で反政府デモが相次いだ後で、政府は危機に直面している。米軍の駐留、そしてイランの影響力拡大の両方に、多くの人が不満を抱いている。

法的拘束力のない議会決議によって、駐留米軍の撤退というテーマが確実に、政府にとっての重要課題として浮上した。米軍は明日にもイラクを出るというわけではないが、駐留を継続するには巧みな外交努力が必要になる。

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Image caption 米軍はこのほど中東に兵士を増派した。写真は1月2日、クウェートのアリ・アル・サレム空軍基地に到着した第82空挺師団の兵士たち

代わりにトランプ大統領は、もしイラクが米軍を追い出すならば、アメリカの金融機関が預かるイラク政府資産を凍結すると圧力をかけた。

アメリカがイラクに関わり続けることには、意味がある。米軍や同盟諸国の部隊がイラク国内で過激派勢力「イスラム国(IS)」と戦うようになった際、米軍のイラク駐留は長期的なものになるというのが大方の予想だった。ISの「カリフ制国家」を破壊した後も、米軍は何年もイラクに残ると思われていた。

米軍がイラクから撤退すれば、ISの復活を抑えることは格段に難しくなる。それだけでなく、シリア東部に駐留している残りの米軍もぜい弱になるだろう。この部隊は、イラク駐留米軍から支援を受けているからだ。イラクでの駐留米軍をめぐる議論は始まったばかりだが、アメリカがこの議論に負ければ、勝つのはイランだろう。

5) 核合意は本当に大変なことになっている

今回の危機のルーツは2018年5月、トランプ政権がイランとの核合意から離脱した時にさかのぼる。

それ以来、米政府はイランの経済に最大限の圧力をかけてきたし、イランはイランで、合意に伴う制約を次々と反故にすることで地域に圧力をかける独自の作戦を展開してきた。

核合意がまだ死んでいないとするなら、まだ生き延びている唯一の理由は、合意の破綻を望んでいるのはトランプ大統領しかいないからだ。何かが変わらない限り、核合意の破綻は終わりの始まりとなる。

この合意は重要だ。合意が成立する以前は、開戦リスクは本物だった。イスラエルが(そしてあるいは、アメリカとイスラエルが合同で)イランの原子力インフラを攻撃する可能性が、非常に高かったのだ。

イランは合意の他の当事者の支持を可能な限り取り付け、核合意を継続させようとするだろう。しかし、この危機は腫れ物に膿(うみ)がたまるように悪化を続けている。欧州がどれほど努力しても、イラン政府に対する経済制裁を緩和する方法は見つからない。合意はやがて破綻するのかもしれない。そしてその間にイランは、核爆弾の製造へと一気にスパートをかけるかもしれないのだ。

しかし、核合意そのものがどうなるにせよ、アメリカの国家安全保障政策が中東から距離を置こうとしているまさにその時、アメリカはトランプ大統領の政策によって、中東にまた引き戻される羽目になった。

(英語記事 Iran plane downing: Five reasons why the US-Iran crisis is not over

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