【解説】 インターネットで広がる偽情報 新型コロナウイルス

BBCモニタリング、UGCニュースギャザリング

A passenger shows an illustration of the coronavirus on his mobile phone at Guangzhou airport in Guangzhou, Guangdong Province, China, 23 January 2020 Image copyright EPA

新型コロナウイルスにより、130人以上が亡くなった。確認された感染者は5900人を超え、香港などは感染拡大を防ぐため、大陸側からの移動を禁じる措置を発表した。

しかし中国や世界に広がっているのはウイルスだけではない、偽情報もだ。

BBCモニタリングは、さまざまな偽情報がどこからやってきたのかを調べた。


「コウモリスープ」の動画

新型ウイルスの第1報が伝わるとすぐ、インターネット上では発生源について憶測が始まった。武漢で新型ウイルスが流行する中、人々はコウモリを食べているとする動画が大量に広まり、事態は悪化した。

ある動画では、笑顔の中国人女性が調理されたコウモリをカメラに向け、「鶏肉のような」味がすると話している。この動画をきっかけに、インターネット上では中国人の食習慣が流行の発端だったのではないかと非難する声があがった。

しかしこの動画は武漢どころか、中国ですら撮影されていない。2016年に人気ブロガーで旅行番組の司会を務めるワン・メンギュンさんが、太平洋の島国パラオで撮ったものだ。

それが昨年、武漢で新型コロナウイルスが発生したというニュースと共に、ソーシャルメディア上に再浮上してきた。

オンラインでの反感を受け、メンギュンさんは「地元の人々の生活を紹介したかっただけだ」と謝罪。コウモリがウイルスの感染源になるとは知らなかったと説明した。この動画は現在、取り下げられている。

新型ウイルスは、武漢の魚市場で違法取引されていた野生動物から発生したと考えられている。最近の調査で、コウモリもウイルスの発生源である可能性があると指摘されているものの、中国ではコウモリのスープはよくある料理ではなく、実際の発生源の特定作業は今なお続いている。


流行は「計画されていた」

アメリカで最初の感染者が確認された先週以降、ツイッターやフェイスブック上で、専門家がこのウイルスについて何年も前から知っていたかのように読み取れる特許書類が出回り始めた。

この疑惑を最初に広めた1人が、ユーチューバーで陰謀論者のジョーダン・サッシャー氏だ。

サッシャー氏は連続ツイートで、英サリーにあるパーブライト研究所が2015年に提出した特許書類のリンクを紹介。その書類には、呼吸器疾患の予防ワクチンとして利用できる可能性のある、弱体化させたコロナウイルスについての記載があるという。このリンクはフェイスブックでも、陰謀論者や反ワクチン論者などによって広く拡散された。

サッシャー氏はさらに、ビル&メリンダ・ゲイツ財団がパーブライト研究所やワクチン開発に資金を提供していることから、今回の新型コロナウイルス流行は、ワクチン開発への寄付を促すために故意に計画されたものだと主張している。

「ゲイツ財団は今までにどれだけの資金をワクチン開発に出してきたのか? 今回のウイルス拡散は計画されていたのか? メディアは恐怖をあおるために利用されているのか?」とサッシャー氏はツイートした。

しかし、パーブライト研究所の特許は新型コロナウイルスではなく、ニワトリが感染するコロナウイルス「鶏伝染性気管支炎ウイルス」に向けたものだ。

また、ビル&メリンダ・ゲイツ財団をめぐる憶測については、パーブライト研究所の広報担当者がバズフィード・ニュースに取材で説明。鶏伝染性気管支炎ウイルスに関する取り組みに、ゲイツ財団は資金援助をしていないと答えた。


「生物兵器」の陰謀論

インターネット上で拡散している根拠のない主張には、新型ウイルスは中国の「密かな生物兵器プログラム」の一部で、武漢のウイルス研究所から流出したものだというものがある。

この説を広めた人々の多くは、米紙ワシントン・タイムズが掲載した2つの記事を根拠にあげている。どちらも、イスラエルの元情報機関職員の話を引用している。

しかし、これらの記事にある主張には根拠が提示されていない。さらに記事が引用するイスラエル関係筋は、ウイルス流出の「証拠やそれを示唆するものは今のところない」と述べている。

両記事は現時点で、何百ものソーシャルメディア・アカウントで拡散され、数百万回は読まれているとみられる。

英紙デイリー・スターも先週、新型ウイルスは「秘密の研究所」で始まったかもしれないという記事を出した。しかしその後、主張に根拠がなかったとして修正した。

公式調査によると、新型ウイルスは武漢の魚市場で違法取引されていた野生動物から発生したと考えられている。

BBCは、ワシントン・タイムズにコメントを求めている。


「スパイチーム」の存在

カナダ国立微生物研究所で研究者が解雇されたことと、新型ウイルスを結び付けようとする不正確な主張もある。

カナダの公共放送CBCは昨年、ウイルス学者のチウ・シャングオ博士とその夫、中国からの学生などがこの研究所から「規約違反」の疑いで解雇されたと報じた。警察はCBCに対し、「公共の安全への脅威はない」と説明した。

別の報道では、チウ博士は中国科学院の武漢国家生物安全実験室にを2年間で計4回訪れていたとされた。

さらにツイッターでは、CBC放送へのリンクと共に、チウ博士とその夫が「スパイチーム」として「病源菌を武漢の施設へ届け」ており、夫は「コロナウイルス研究の専門家」だというツイートが出回った。このツイートはこれまでに1万2000回以上リツイートされ、約1万4000件の「いいね」が付いている。

しかしCBCの2つの報道には、このツイートで指摘されている3つの主張は含まれていない。また、「コロナウイルス」や「スパイ」といった単語も一切出てこない。

CBCはその後、このツイートに書かれている主張に根拠はないと報じている。


「武漢の看護師」の動画

武漢がある湖北省の「医者」や「看護師」による「内部告発」だという動画も何種類かある。こうした動画はソーシャルメディア上で何百万回も再生され、さまざまなインターネット・メディアで取り上げられている。

もっとも有名なのは、韓国のユーザーがYouTubeに投稿したもので、英語と韓国語の字幕が付いていた。この動画は現在、削除されている。

この英語字幕によると、動画に映っている女性は武漢の病院の看護師だという。しかしこの女性自身は、動画内で自分が看護師あるいは医者だとは発言していない。これは、この動画のさまざまなバージョンをソーシャルメディアにあげた人物による推測に過ぎないと思われる。

女性は自分の身分を明かさず、特定不明の場所で防護服を着ている。しかしこの防護服は、湖北省の医療従事者が着ているものと一致しない。

当局によって事実上の封鎖状態にあるため、湖北省内から動画を検証することは難しい。しかしこの女性は、ウイルスに関する根拠のない主張を数多く行っているため、彼女が看護師や医療補助員である可能性は低いとみられる。

女性は、中国国内での新型ウイルス感染者は9万人だとしている。しかし公式には、感染が確認されたのは1月30日現在で7711人となっている。

<関連記事>

女性はさらに、ウイルスは「2回変異」し、一度に14人に感染する可能性があると主張している。しかし、世界保健機関(WHO)の推計では、ウイルス保持者1人の感染力は1.4~2.5人とされている。

武漢出身で、オンラインマガジン「ChinaFile」のビジュアル編集長を務めるシャオ・ムイ氏は、「この女性は医療従事経験のあるような話し方ではない」と指摘した。

動画が撮られた場所は特定できないものの、この女性は湖北省出身で、流行に対する自分の考えを述べたかったのではないかとみられている。

オーストラリアを拠点とする中国人の政治活動家、巴丢草氏は「この女性は、自分は真実を話しているつもりになっている可能性がある。誰も本当のことを知らないので」と述べた。

「情報の透明性がないので、大勢が憶測に走りパニックしています」

(英語記事 China coronavirus: Misinformation spreads online

この話題についてさらに読む