【写真で見る】 「パラサイト」の半地下 そこで本当に暮らす人たち

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「パラサイト 半地下の家族」に出てくるアパート、住み心地は?

米アカデミー賞授賞式で9日、韓国映画「パラサイト 半地下の家族」が英語以外の映画として初の作品賞を受賞した。ほかにも、脚本賞、外国語映画賞、監督賞と4冠を得たポン・ジュノ監督のこの作品は、薄暗い半地下の狭い空間で暮らす家族と、高台の豪邸に暮らす裕福な家族との格差をまざまざと描いた。

昨年5月のカンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを獲得し、アメリカや日本、イギリスと各国で公開後も高く評価されてきた「パラサイト 半地下の家族」。経済的に対極にある家族の格差と交錯を描いた物語は、フィクションだ。しかし、「半地下(バンジハ)」と呼ばれる住居は、作り事ではない。そして、韓国の首都ソウルでは大勢がそこで暮らしている。

BBC韓国語のジュリー・ユン記者が、「半地下」で暮らす人たちに話を聞いた。

Short presentational grey line

オー・ケチョルさんの半地下には、基本的に日が差さない。

あまりに暗すぎて、小さい多肉植物さえ枯れてしまった。

Person looking through the window of Oh kee-cheol's apartment
Image caption 道路からオーさんのアパートをのぞきこむ通行人

誰でも窓越しに、アパートの中をのぞきこめる。外でタバコを吸ったり、地面につばを吐く若者もたまにいる。

夏になると、我慢できないほど蒸し暑い。あちこちがたちまち、カビだらけになる。

トイレは極小で、手を洗う場所はない。便器は床から50センチほど上にある。天井が低すぎるので、頭をぶつけないようにするには、両脚を思い切り広げて立つしかない。

「最初にここに引っ越したとき、あざだらけになった。床が高くなっているところにすねを打ったり、コンクリの壁に腕をこすったりして」と、、物流産業で働くオーさんは言う。

Oh kee-cheol in his bathroom with a raised floor
Image caption トイレの床が高く上げてあるため、オーさんは中でまっすぐ立つことが出来ない

それでも、今はもう慣れたと言う。

「どこにでっぱりがあって、どこに照明があるか、もう分かっているので」

ポン・ジュノ監督による「パラサイト」は、予想外のヒット作となり、米アカデミー賞の歴史を変えた。持てる者と持たざる者がからみあう、錯綜した物語だ。

裕福なパク家と、貧しいキム家。この両家の極端な格差が、ふたつの居住空間の対比から描かれる。片方は、ソウルを見下ろす高台に光り輝く豪邸。片方は、うらぶれた半地下だ。

しかし実際のソウルで半地下に暮らすのは、大勢の若者だ。多くの若者がこうした半地下で暮らし、懸命に働き、より良い未来を夢見ている。

Composite of the Kim family in their bathroom in Parasite, and Oh ke-cheol in his apartment Image copyright CJENM/BBC
Image caption 「パラサイト」に登場するキム家の「トイレ」(左)は、オーさんの暮らしぶり(右)を忠実に再現している
Film set of the Park's apartment in Parasite Image copyright CJENM
Image caption 「パラサイト」に登場するパク家の豪邸。キム家の半地下とは、まぶしいほどに対照的で広くぜいたくだ

「半地下」はソウルの町並みにたまたま出現した、奇妙な建築の産物ではない。特異な極小空間が生まれたのは、何十年もさかのぼる南北朝鮮の対立に端を発する。

1968年のことだ。朝鮮人民軍のゲリラ部隊が朴正煕大統領を暗殺しようと、ソウルに潜入し、青瓦台の大統領官邸を襲撃した。

Outside

この襲撃は未遂に終わったが、南北朝鮮の対立は激化した。北朝鮮は青瓦台襲撃の2日後、今度はアメリカ海軍の情報収集艦プエブロ号を拿捕(だほ)するに至った。

武装した北朝鮮工作員が韓国に侵入し、テロ事件が相次いだ。

事態の悪化を恐れた韓国政府は1970年、建築基準法を改定。新築の低層住宅には、国家非常事態に備えた防空壕として、地下室の設置を義務づけたのだ。

つまりこれが、「半地下」だ。当初はこの半地下を賃貸に出すことは禁止されていた。しかし、1980年代の住宅危機で首都の住宅不足が深刻化すると、政府は半地下の住宅使用を合法化するしかなかった。

The streets around Oh ke-cheol's home in Seoul
Image caption 密集化の激しいソウルでは家賃の高騰が続く。写真は、オーさん宅の近くの通り

2018年になると国連は、韓国は経済規模こそ世界11位だが、手ごろな家賃の住宅不足が、特に若者や低所得者にとって深刻な障害になっていると指摘した。

35歳未満の韓国人にとって、年収に対する家賃の割合はここ10年間、約50%で高止まりしている。

それゆえに家賃急騰が続くソウルで、半地下のアパートは多くの人にとって現実的な選択肢になったのだ。20代の平均月収が約200万ウォン(約18万5000円)なのに対して、月々の家賃は約54万ウォン(約5万円)だ。

それでも、「半地下」に暮らすことには社会的にマイナスなイメージがあると、そこで苦労する人もいる。しかし、必ずしもそういう人ばかりではない。

Oh kee-cheol sits at his computer with his cat
Image caption オーさんは、自分の半地下の家が次第に気に入るようになったと話す

「実を言うと本気で、このアパートはこれでいいんです」とオーさんは言う。

「金を節約するためにここを選んだんだし、おかげでかなり貯金できてます。でも、他人が僕を気の毒がるのは、それはやめさせられない」

「韓国では、かっこいい車や家を持つのが大事だという考えがある。そして半地下は、貧乏の象徴だと思う」

「自分がどういう家に住むかが、自分がどういう人間か決めてしまうというのは多分、そこからくるんじゃないかな」

映画「パラサイト 半地下の家族」の途中で、貧しいキム家の人たちが金もうけの手段としてパク家に少しずつ入り込んでいく過程で、パク家の末息子、幼いダソンがとるあことに気づく。キム家の人たちの臭いだ。

名優ソン・ガンホ演じる父親のキム・ギテクが自分の臭いを消そうとすると、娘は冷たくこう言う。

「地下の臭いだよ。この場所を出ない限り、この臭いは消えない」

Shim Min and Park Young-jun in their apartment
Image caption パク・ヨンジュンさん(右)は、半地下の安い家賃と独特の空間に魅力を感じた

26歳の写真家、パク・ヨンジュンさんが映画「パラサイト 半地下の家族」を見たのは、自分自身が半地下アパートに引っ越して間もなくだった。

パクさんが半地下に暮らし始めた当初の理由は、はっきりしていた。広さに対して安かったからだ。

それでも、映画を見てからはどうしても臭いが気になった。「キムさん一家みたいに、臭いがつくのはいやだ」。

なので昨年の夏の間中、数え切れないほどのお香を炊いたし、除湿機は常につけていた。ある意味で映画のおかげで、自分自身の半地下をちゃんとした暮らしやすい場所にしようと、その気になったのだという。

「自分が半地下に住んでいるからといって、それだけで気の毒にと思われたくない」とパクさんは言う。

パクさんと恋人のシム・ミンさんは、自分たちのアパート改装の様子についてビデオブログで記録を残した。

今ではとても気に入っているが、ここにたどりつくには何カ月もかかった。

Couple
Image caption パク・ヨンジュンさんとシン・ミンさんは2人してアパートを住みやすくした

「両親が最初にこのアパートを見たとき、がっかりしていました。前の住人はヘビースモーカーで、僕の母親は臭いがたまらないと言っていた」とパクさんは言う。

恋人のシムさんは、24歳のユーチューバーだ。パクさんがこの半地下に住むと決めた時は、大反対したという。

「半地下には悪いイメージしかなかったので。安全だとは思えなかったし。この街の暗くて怖い場所を連想した。私は生まれてからずっと、高層マンションで育ったので、恋人のことが心配だった」

Shim Min and Park Young-jun in their apartment

けれども、2人のリノベーション・ビデオは好評だ。「なんて素敵な部屋」と、うらやましがる人もいるという。

「自分たちのこの家が大好きだし、自分たちの手でこうしてきれいにできたのは自慢です」とミンさんは言う。だからといって、自分たちがいつまでも半地下に住みたいというわけではないそうだ。

「もっと上に行くつもりです」

オーさんも、自宅を買うために貯金をしている。今は半地下に住むことで、マイホームの夢を早めに実現したいと願っている。

「残念なのはただひとつ、猫のエイプリルがここでは日向ぼっこできないことです。窓から日が差さないので」

Oh ke-cheol's cat

写真撮影:ジュリー・ユン

(英語記事 Parasite: The real people living in Seoul's basement apartments

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