米アカデミー賞作品賞の映画「パラサイト」に★★★★☆ BBCエンタメ担当

ウィル・ゴンパーツ、BBCエンターテインメント担当編集委員

Parasite

「パラサイト 半地下の家族」のような映画は最近では、もうあまりお目にかかれない。

コミックス原作のブロックバスター。リメイクやリブートされたフランチャイズもの。豪勢なネットフリックス・オリジナル。最近の映画界といえば、こうした作品が圧倒的な主流だ。そうした地平の中で、家族に目線を据えた地道な社会風刺で、階級と格差を描きだす作品は、実に異例だ。

それと言うのも、最近の映画会社の重役たちは、「パラサイト」のような映画はスクリーン上映にふさわしくないと考えるからだ。映画館よりも自宅上映に適していると。最近のあの巨大なテレビ画面で。誰かがファミリー用のワゴン車を居間に駐車したのかと錯覚するような、あの場違いに大きいテレビで。

それと同時に、最近の映画会社の重役たちは、「パラサイト」のような映画は2時間に収めるのではなく、10シーズンも続くドラマシリーズに引き伸ばすべきだと考えている。エミー賞をたくさんとって、ボックスセットになるような。そのため、「パラサイト」のような映画は結局、作られないまま終わってしまう。だからこそ、こういう作品は今では珍しいものになってしまったのだ。

そしてだからこそ、評論家たちは「パラサイト」のような映画を熱烈に歓迎する。まるで、年末年始の反省から1月は禁酒をしていたうちの妻が、1月が終わってダブル・ジンを一気にぐいっとやるように、熱烈に。鈍っていた感覚がまたピリピリと色めき立ち、だらけていた脳みそからパチパチと火花が散り始める。面白い物語を語るという、昔ながらのその力に、進んでひれ伏すのだ。

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Image caption 映画の序盤で出会うキム一家は苦境にあり、やがてそこから脱出するための「計画」を立てはじめる

「パラサイト」にはカーチェイスは出てこない。コンピューターグラフィックを駆使して宇宙を股にかけた戦闘場面もない。

その代わり、ポン・ジュノ監督は私たちを、一見どうということのない2つの韓国人家族の日常のただなかへと運ぶ。そして、偶然に偶然が重なり、この2つの家族の暮らしが徐々に絡み合っていくさまを、見せてくれる。

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Image caption キム家の半地下の家とはあまりに対照的な、パク家の豪邸。

資本主義の市場原理は無情で、同じ社会の住む人間同士の関係性にも暗黙のルールを定めている。絶対に関わりあってはならないと。

ひとつの家族は、街の「良くない」側にある「良くない」一角で、みすぼらしい半地下のアパートで肩を寄せ合い、貧しい生活を送っている。

もうひとつの家族は、モダン建築の粋を凝らした豪邸で、豊かに安穏と暮らしている。建築家が設計したその邸宅は、ガラスとコンクリートに覆われた、持ち主の財力を宣言するために存在するかのような建築だ。ああした建物は、本当に最悪の現代美術が出品されたオークションと同じで、新興成金の金をひきつける。

「持たざる」方の家族の家長キム・ギテクは、ソン・ガンホが演じている。この父親の20年間の職歴は、見事なほどに常に一貫していた。何か事業を始めようとすれば、必ず失敗するのだ。

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Image caption キム・ギウ(右)は、パク家の長女ダヘの家庭教師に収まる。2人の様子を見守っているのは、ベテラン家政婦のムングァンだ

ギテクの妻チュンスク(チャン・ヘジン)、元ハンマー投げの国内チャンピオンで、今でも目線ひとつで相手をぺしゃんこにできる迫力の持ち主だが、無職なのは夫と同じだ。

そして、芸術的センスのある娘ギジョン(パク・ソダム)と、オタク風味の息子ギウ(チェ・ウシク)も、どちらも大学入試に失敗して無職だ。

このキム一家の誰も、そもそも人生にあまりたくさんのことを期待していない。それでもなお、そのわずかな期待さえ、まったく手に届かないのだ。さらにひどいことに、近所に入り浸る酔っ払いが、彼らの半地下の窓を自分の屋外便所として勝手に愛用している。

これに対して、キム家より少し年若のパク家は巨万の富を手にしたばかりで、それは素敵な暮らしを送っている。家長のパク・ドンイク(イ・ソンギュン)は優れた経営者で、失敗しか知らないギテクとあまりに対照的だ。

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Image caption キム家の娘ギジョンは、パク家の末息子の「美術の家庭教師」として入り込む

ドンイクのIT企業は倒産するどころか、グローバル企業になった! サメに追われるボンダイビーチのサーファーよりも猛スピードで、金がどんどん入ってくる。美しい妻のヨンギョ(チョ・ヨジョン)は美しい家を気ままに出たり入ったり。美しい子ども2人は、美しくアイロンされた制服に身を包んだ忠実な家政婦ムングァン(イ・ジョンウン)が世話している。

これぞ対極そのものだ。同じ人数の2つの家族が、同じ街にいながら、まったく別世界に住んでいる。住んでいた。ギウの友人がいきなりうらぶれた半地下へやってきて、自分の不在中、家庭教師のバイトを代行してくれないかと持ちかけるまでは。家庭教師の相手こそ、パク家の甘やかされたティーンの娘だ。

まさか自分を雇ってはくれないよと、ギウは最初、及び腰だった。けれども、パク夫人のすさまじい能天気ぶりをギウは知らなかったし、自分の母親の目ざとさも計算外だった。姉のギジョンがアートの才能を活用して、卒業証書を偽造できるとも、最初は思っていなかった。

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Image caption IT長者のパク夫妻

そうこうしている内にギウは気づけば、不気味に染みひとつない豪邸の2階に上がりこみ、家庭教師として学業以外のこともパク家の反抗期の長女に教えることになる。その間、姉のギジョンも巧みに、この新興成金の聖域に進入し、パク家の落ち着きのない末息子に台所で絵を教えることになる。

あらすじ紹介はここまでにしよう。物語はこのあと、とんでもなく充実していくという以外は。しかも、想像もつかないような形で。ただし、常に信じられる、現実味のある形で。

ポン・ジュノ監督が称賛され、数々の賞を総なめにしているのは、当然のことだ。ダークもダークなこの暗いコメディに見る者を引き込む脚本の力は、あまりに圧倒的だ。すえたタマネギ臭がしみついた、ギテクの汗の臭いさえ、鼻につくようになるほどだ。

この映画は、いわゆる典型的な社会派ドラマではない。「レボリューショナリー・ロード」(2008年)や「万引き家族」(2018年)といった作品のさらにその先を行き、スリラーの領域に入り込み、時にはゾンビ映画の感覚さえ取り込んでいる。これは奇妙な作品、豊かに充実した作品、そして優れた監督の手による作品だ。

カメラはしばしば、居心地が悪くなるほど、同じものを映し続ける。もつれてからみ合う、うそと偽りが、縫い目のあたりから少しずつほつれ始めているのに、その場にいる人間は、平静を保つよう強いられる。その表情を、カメラは容赦なく映し続けるのだ。

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Image caption 半地下でWiFiを探すキム家の子供たち

これは紛れもなく、韓国の映画だ。しかし、テーマや登場人物は普遍的で、時代を超える。イギリスのチャールズ・ディケンズも、ウィリアム・シェイクスピアも、この物語と人物たちを知っていた。そしてまた、あなたも。

この映画のタイトルからは、金持ちに寄生しなくては生きられない貧乏人の屈辱が伝わってくるし、金持ちを「寄生虫」と呼ぶのも同じようにふさわしい。タイトルは同時に、私たちが生活の基礎にしている、政治と経済、そして商業の考え方に、疑問をつきつける。

映画はほぼ全編を通じて、この問いかけを鋭く、かつ知的に繰り返す。ボン・ジュノ監督は登場人物を批判しない。哀れみもしないし、反発もしていない。これは決して、韓国版の「ダウントン・アビー」ではない。確立された階級制度の決まりごとありきの作品ではないのだ。

むしろこの映画は、人間がその経済状況によっていかに行動して、反応するか。その経済力によって、いかに周りに見えているか、あるいは見えていないかを描いている。もし、自分がこれほど必死だったら、自分ならどうするかを問いかける。自分があの状況にあったら、あなただって誰かのWiFi回線にただ乗りしようとするだろう。

しかし、殺虫剤散布のトラックが通過するタイミングをとらえて、地下の窓を開けて、自分の台所の防虫処理を便乗したりは? たぶんそこまではしないだろう。けれどもあなたには、ギテクほどの商売人魂が備わっていないのかもしれない。

「パラサイト」は実に美しく撮影された、思いやりぶかい語り口の親密な社会派ドラマだ。ほぼ完璧なペースで、繊細な陰影の芸術作品として展開する。それが最後の最後に、いきなりメロドラマになって破綻してしまう。古いかぶの臭いがすると言われすぎて、ついに「切れた」男みたいに。

もしかするとそれは、ポン・ジュノ監督が決まりごとに従いたくないからなのかもしれない。異なるジャンルが衝突しあうのは、社会で対極的な立場にあった2つの家族が衝突しあう、この映画の物語と呼応しているのかもしれない。異物が衝突しあうことで、お互いのリアリティーをより強く、浮き彫りにするために。

(英語記事 Parasite: Will Gompertz reviews the best picture Oscar winner ★★★★☆

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