大坂なおみ選手がマスクでアピールする、米黒人犠牲者たち

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テニスの大坂なおみ選手(日本)が、米ニューヨークで開催中の全米オープンで試合のたび、異なる名前が記されたマスクを着けて登場し、注目を集めている。マスクに書かれているのは、アメリカで警察の人種差別的な暴力の被害に遭った黒人犠牲者たちの名前だ。
大坂選手は8月末に大会が開幕した時から、マスクでメッセージを伝えると宣言していた。現在、準決勝まで勝ち進んでいる(準決勝は日本時間11日朝に開始予定)。
名前が出た犠牲者の家族には、大坂選手に感謝を表明する人もいる。米スポーツ専門放送局ESPNは、そうした家族のビデオメッセージを放送している。
大坂選手は記者会見で、「とてもありがたいし(中略)恐縮している」と話した。
「泣かないようにこらえていた」、「ちょっと現実ではない感じだ。私の行為によって家族が感動するのは、非常に感動的だ。自分では大したことはしていないと思っている。私にできることのごく一部でしかない」。
これまでの5試合で、大坂選手のマスクに名前が記された人たちを紹介する。
ブリオナ・テイラーさん
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3月13日、ケンタッキー州ルイスヴィルの医療技術者ブリオナ・テイラーさん(26)の自宅アパートに、警官隊が玄関ドアを叩き壊して突入。警官隊は混乱状況の中で発砲し、武器を持っていなかったテイラーさんが死亡した。
警察はテイラーさんのアパートが、ギャングの麻薬取引に使われているとみていた。当局が疑いをかけていた1人がテイラーさんの元恋人だったため、テイラーさんの名前も捜査線上に上がっていたという。ただし、テイラーさん自身は捜査対象ではなかった。
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ブリオナ・テイラーさんは救急医療の専門技術者として表彰されていた
彼女の名前と、「ブリオナ・テイラーを殺した警官を逮捕しろ」というフレーズは、今夏の世界的な「Black Lives Matter」(黒人の命は大切)抗議行動における掛け声の1つとなった。
テイラーさんのアパートに「やみくもに」10発を撃ち込んだとされたブレット・ハンキソン警察官が6月、免職となった。
テイラーさんの遺族は、関与したとされる他の2人の警官も訴追されるよう求めている。
イライジャ・マクレインさん
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イライジャ・マクレインさん(23)は昨年8月24日、コロラド州デンヴァー郊外のオーロラで、警察に拘束された際に死亡した。
武器を持たずに歩いていたマクレインさんは、警官3人に止まるよう言われた。手配中の「不審人物」に外見が似ていたとされる。
警官が身に着けていたカメラの映像によると、武器の有無を調べる間、マクレインさんは警官に距離を置くよう要請。警官の1人が「彼は銃を狙っている」と言うと、マクレインさんは地面に押さえ付けられ、首を腕で絞められた。
検察によると、マクレインさんは意識を失ったが、首から腕が離れると再びもがいたという。
現場に駆けつけた消防の救急隊員に鎮静剤を注射された後、マクレインさんは「ソフトな拘束」状態で救急車に乗せられた。その後、呼吸や脈拍がないことに救急隊員が気づいた。マクレインさんは3日後、脳死と判定された。
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イライジャ・マクレインさんは警官に首を絞められ、救急隊員に鎮静剤を注射された後に死亡した
マクレインさんの家族は、彼が嘔吐(おうと)し、息ができないと繰り返し訴える中、警官らは約15分にわたって過度の力を行使したと主張している。
関与した警官3人は直後に有給の休職となった。3カ月後、検察は不起訴を発表し、3警官は復職した。
アマード・アーバリーさん
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ジョージア州ブルンズウィックのアマード・アーバリーさん(25)は2月23日、ジョギング中に白人男性2人に射殺された。
銃撃したのは、グレゴリー・マクマイケル被告(64)とトラヴィス被告(34)父子。拳銃とショットガンを持ち、車でアーバリーさんを追跡していた。のちに、地元で連続していた不法侵入事件の容疑者にアーバリーさんが似ていたからだと警察に話した。
当時の状況を撮影した36秒の動画が5月5日、インターネット上に流出。全国的な非難が沸き起こり、親子は殺人罪で起訴された。動画では、親子がジョギング中のアーバリーさんを待ち伏せていたように見える。
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アマード・アーバリーさんは2月23日、親子によって射殺された
親子と動画撮影者ウィリアム・ブライアン被告の計3人が起訴されたのは、アーバリーさんが殺害されてから2カ月以上たち、動画が流出してからだった。3被告は無罪を主張している。
アーバリーさんの父マーカス・アーバリー・シニアさんは、大坂選手へのメッセージで、「私の家族を支えてくれてありがとう。あなたの行動と、あなたが私の息子のことで私たち家族を支援してくれていることに、神の恵みがありますように。私の家族は本当に感謝しています。あなたに神の恵みがありますように」と述べた。
トレイヴォン・マーティンさん
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フロリダ州サンフォードで2012年にトレイヴォン・マーティンさん(17)が殺され、射殺した男性が無罪になったことが、「Black Lives Matter」抗議行動の誕生につながった。
マーティンさんはその日、近所の店に菓子やソフトドリンクを買いに出かけた。ボランティア自警団のジョージ・ジマーマンさんは、マーティンさんが悪事をたくらんでいると考え、押し倒そうとした。その後、マーティンさんを射殺。目撃者はいなかった。
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トレイヴォン・マーティンさんは2012年、17歳で殺された
ジマーマンさん側は、マーティンさんに激しく襲われたと主張。警察は事件発生から6週間たつまでジマーマンさんを逮捕せず、米国各地で抗議行動が起こった。
ジマーマンさんはのち、正当防衛の訴えが認められ無罪となった。マーティンさんの遺族や友人らは、殺人事件だったと主張した。
マーティンさんの母シブリナ・フルトンさんは、大坂選手にメッセージを寄せた。「特製マスクでトレイヴォン・マーティンと、アフマド・アーベリー、ブレオナ・テイラーのことを訴えてくれたことを、大坂なおみに感謝したい」。
「心の底から感謝している。成功し続けてほしい。全米オープンで勝ち続けてもらいたい」
ジョージ・フロイドさん
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今年、「Black Lives Matter」の抗議行動を再燃させたのが、ジョージ・フロイドさん(46)の死だった。
フロイドさんは5月25日、ミネソタ州ミネアポリスで、偽札でたばこを買った事件を捜査していた警官に呼び止められ、逮捕された。
当時の動画には、警官のデレク・チョーヴィン被告がフロイドさんを地面にうつぶせに押さえ付けている様子が記録されている。
チョーヴィン被告は膝でフロイドさんの首を9分間近くにわたって圧迫。フロイドさんは何度も「息ができない」と訴え、膝をどけるよう懇願した。
フロイドさんはその後、病院で死亡が確認された。
1人の男性の死でアメリカはどう変わった? ジョージ・フロイドさん事件から1カ月
この動画が世界中に拡散される中、ミネアポリスでは抗議行動が発生。これが「Black Lives Matter」デモとなって世界中に広がった。
フロイドさんの逮捕に関与した警官4人は免職になり、殺人罪などで起訴された。裁判は来年予定さている。
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