【解説】 インドの変異株、広がるペースは従来よりどれだけ速い? 新型ウイルス

ジェイムズ・ギャラガー、健康・科学担当編集委員

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画像提供, Getty Images

イギリスではここ数カ月、新型コロナウイルスの感染者が減り続け、ワクチン接種事業は大成功していたため、朗報続きだった。しかしそれがここへ来て、雰囲気が変わってきた。

政府はこれまで6月21日にイングランドでロックダウンによる法的制限を完全解除する方針だったが、その見通しは今や危うい。加えて、国民保健サービス(NHS)が今まで以上に圧迫される懸念が高まっている。

計画の実施を妨げるかもしれないのが、インドで確認され世界各地で広がりつつある 「B.1.617.2」系統の変異株だ。

この変異株についての懸念は数週間前から高まっていたし、今週になって初めて、イギリス政府の科学顧問たちは、 「B.1.617.2」系統の伝播(でんぱ)力は従来株より高い、つまり素早く拡散しやすいと確信するようになった。

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変異株の広がり方としては、昨年後半にイングランド南東部ケント州で特定され、国内で主流となった変異株(B1.1.7)に、このインドの変異株がいずれ取って代わるものと予測されている。

私たちは今、ワクチンを武器にウイルスと競争している最中だ。イングランドで17日予定されている行動制限の緩和と、感染力の強い変異株が合わされば、ウイルスは今まで以上に素早く国内で拡散するだろう。

ただし現時点では、 「B.1.617.2」系統が実のところどれくらい効果的に広がるのか、正確なところはまだよく分かっていない。

英政府の医療責任者、イングランド主任医務官(CMO)のクリス・ウィッティー教授は、「それは本当に核心的な、大事な問題なのだが、まだ答えは得られていない」と話した。

イギリスでは今もケントの変異株「B1.1.7」が主流だ。インド型の感染力はこれをわずかに上回るだけなら、心配する必要はあまりない。

しかし、政府の新型ウイルス対策を策定する非常時科学諮問委員会(SAGE)は、インドの変異株がケントのものより感染力が最大50%高い「現実的な可能性」があるとしている。

インドの統計をもとに、感染力はさらに高い、ケント型より60%高いと推定する研究もあるが、これはウイルス標本から取り出して公表された遺伝子配列をもとに計算したもので、全体像をどれだけ反映しているのかはっきりしない。

SAGEの推定では、変異株の感染力がこれまでより40%高くなった時点で、「入院を必要とする感染者が相当増加」することになり、NHSを圧迫すると予測している。

今の不透明感は、「B1.1.7」系統の変異株がケント州で昨年特定された当時の不透明感によく似ている。変異株をどうやって制御するべきか、当時も議論になった。

ただし、イギリス国内の現状は昨年とは違う。これは大事な点だ。

すでに国内の成人人口の3割にあたる1900万人以上が、2回のワクチン接種を終えている。加えて1700万人が1回を打ち終えている。感染と重症化の因果関係をワクチンは完全に排除しないまでも、重症化のリスクはワクチンによって減っている。

加えて、国全体の感染者数も昨年後半と比べてはるかに少ない。国家統計局(ONS)の推計によると、現在感染している人は5万人未満だ。今年初めの時点では125万人だった。現在、新型コロナウイルス感染症COVID-19のため入院している人は、全国で約1000人だ。

その一方で、ワクチンは確かに素晴らしいが、完璧ではなく、感染リスクの高い全員が接種を受けたわけではないのが、懸念点として残る。そのため、行動制限の緩和と新しい変異株の組み合わせでまた感染者が急増すれば、入院を必要とする人の数もまた懸念されるレベルにまで増える可能性がある。

こうした予測はもちろん、水晶の玉をのぞきこんでしているわけではない。今年の夏にまた感染急増の波が来ると予測する数理モデルもあったが、ワクチンを受けた人がウイルスを周囲に移す確率は低いと明確になったため、夏の感染急増の確率は低いと予測が修正されたこともある。

「厳しい選択」

ロックダウン緩和や解除への計画は進んでいる。それと同時に、感染リスクの高い人がもっと素早く免疫を獲得できるよう、政府はワクチン接種事業にも修正を加えてあらためて推進し始めた。

もしも新しい変異株が問題になるなら、たとえば入院患者の増加などの危険信号をなるべく早く察知して、時間に余裕を持って対応できるようにしたいというのが、政府や保健当局の考えだ。

ボリス・ジョンソン首相は、もしインドの変異株が他の系統より「はるかに感染力が高い」ようなら、「厳しい選択」が必要になるかもしれないと話した。

しかし、ワクチン接種事業がうまくいっていない各国では、感染力の高い変異株は大問題となるし、甚大な被害をもたらす恐れがある。