接種率75%超の日本、ワクチン忌避から一転して成功に

ルーパート・ウィングフィールド=ヘイズ、BBCニュース(東京)

A Tokyo fire brigade staff member (right) administers a dose of the Covid-19 coronavirus vaccine at Aoyama University in Tokyo on August 2, 2021

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日本の新型ウイルスワクチン接種率は数カ月で劇的に変化した。写真は東京消防庁スタッフ(右)によるワクチン接種の様子(青山学院大学、8月2日)

今となっては信じられないことだが、6月初旬、私は新型コロナウイルスワクチンを接種するために渡米することを真剣に考えていた。

東京オリンピック開幕までわずか7週間という時期に、日本では人口の3.5%しかワクチン接種を終えていなかった。イギリスの友人たちが接種時のセルフィー(自撮り写真)をうれしそうにSNSにアップする一方で、ここ日本の首都・東京にいる私たちは、クリスマスまで注射針を見ることはないかもしれないと冗談を言っている状況だった。

五輪開幕が目前に迫る中、日本政府がワクチン接種の展開でこれほど失敗したことは驚くべきことのように思えた。

それから半年たち、状況は一変した。

日本は初期の混乱を乗り越えただけでなく、地球上のほとんどの国より高い接種率を達成した。現在は日本人の約76%が接種を完了している。

そのカギとなったのが五輪だった。

7月に五輪中止を訴える大規模な街頭デモがあったことを覚えているだろうか。その頃は、五輪が感染を拡大させるスーパースプレッダー・イベントになってしまうのではないかといった怒りや不安があった。

自分たちの国で開かれるビッグイベントが台無しになるかもしれないと恐れた政治家たちは、ついに行動に出た。

ワクチン接種に自衛隊が投入され、7月初旬には1日あたり100万回分の接種が行われた。

しかし驚きだったのは、物流の改善だけではなく、日本人がどれほど進んで接種を受けているのかということだ。80歳以上の接種率は95%と、ワクチンへの忌避はみられない。

ただ、こうなるとは予測されていなかった。

恐怖とためらい

日本では歴史的に、ワクチン忌避の傾向が長らく続いてきた。1月にはある調査で、大多数の人が新たに開発された新型ウイルス感染症COVID-19ワクチンに懐疑的であることが示された。

では一体何が起こったのだろうか。

専門家の中には、初期の混乱が実際には役に立ったと考える人もいる。

東京財団政策研究所の研究主幹、渋谷健司氏は、初期段階では本当にワクチンが不足していたため、特に高齢者の間でワクチンが足りないことへの不安感が広がっていたと指摘する。

渋谷氏は、こうした恐怖心が、高齢者を中心とした非常に高い接種率につながったと考えている。ほかの国で高齢者が亡くなっているのを目の当たりにし、供給が足りなくなる前にわれ先にワクチンを接種しようとしたのだという。

また、初期のワクチン展開に時間がかかったことで、より若い世代の人々は自分の番を待つ間に、ほかの国で何億人もの人々がワクチンを接種し、劇的な副作用が起きていないと知ることができた。それが、ワクチンは安全だという安心感につながった。

アメリカや欧州とのもう1つの大きな違いは、ワクチンが政治問題化していないことだ。

渋谷氏によると、日本ではワクチンを政治問題にする動きはなく、自由や個人の権利といったレンズを通してワクチンを見ることもない。陰謀論を信じ込むようなことも、一般にはみられないという。

接種率の上昇に伴い、日本の感染者と死者は劇的に減っている。

日本では8月20日、パンデミック開始以来で最多となる約2万6000人の新規感染者が確認された。

そして先週までに、その数は1日あたり150人程度にまで減少した。死者数も同様に減っており、先週には死者が報告されなかった日が数日あった。

ワクチンは非常に重要な役割を果たしてきたが、感染者などが減少に転じた要因はそれだけではない。ワクチンが人々に届く前から、日本の死亡率はアメリカや欧州よりもはるかに低かった。

米ジョンズ・ホプキンス大学の集計によると、アメリカの死亡率は10万人あたり233.8人。日本はわずか14.52人となっている。

肥満が要因か?

東京を拠点とする福祉未来研究所の社会学者、府川哲夫氏は、日本で起きていることは実に驚くべきことだと話す。

府川氏は、日本の死者数は本当に少ないとしたうえで、2020年にはむしろ日本人の平均余命が延びたと指摘。アメリカやイギリス、ドイツ、フランスなどほかの国では平均余命が縮んでおり、日本の状況は非常に特殊だとした。

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日本の専門家は、COVID-19関連の死亡率の低さと、肥満率の低さの関連性を調査している

府川氏は日本のCOVID-19関連の死亡率の低さや平均余命の長さ、そして肥満率の低さに関連があるのではないかと考えた。

日本人の平均余命は非常に長いが、その理由を説明できる人はいない。食生活が影響しているのかもしれないと、府川氏は言う。

日本人で肥満に分類されるのはわずか3.6%と、世界的にも最も低い水準だ。

府川氏が9カ国の平均余命、肥満度、COVID-19関連の死亡率を比較した結果、肥満率が低い国ほどCOVID-19関連の死亡率が低いことがわかった。

この結果は、アメリカでCOVID-19患者を治療している医療従事者にとっては驚きではないだろう。同国では、肥満がCOVID-19の症状を悪化させる主な要因だとの見方がますます強まっている。ただ、この肥満率の低さは、日本が新型ウイルスに非常にうまく対処できていることの唯一の理由ではないと、府川氏は指摘する。

肥満は危険因子ではあるものの、人口レベルからみると最も重大な要因ではなく、ファクターX(X因子)にはなっていないという。

実際、渋谷氏は日本の状況を特別なものとはとらえていない。日本は症例数が少ないため死者数も少ない、答えはシンプルだと、同氏は言う。

渋谷氏は、日本の死亡率はよくはないが、症例数を最小限に抑えることに成功したとしている。

言い換えれば、日本で感染して死亡する確率は欧米と同じくらいだ。ただ日本では感染する確率が非常に低い。その理由は市民の行動にある。

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交通機関、ビーチ、街中など場所を問わず、マスク着用は日本ではよくある光景だ。写真は電車内で感染予防のマスクを着用する乗客

英ロンドンにいる同僚から聞いた話では、ロンドン市内では最近ほとんど誰もマスクをしていない。地下鉄のような狭い空間でもマスクをするのは珍しくなってきているという。

でも日本では違う。公園でも、ビーチにいる時でさえ、みんなマスクをしている。1人で車を運転している人がマスクをしているのも見かける。

それから、ハンドサニタイザーの使用も挙げられる。コンビニや公衆トイレ、駅、レストラン、カフェ、どこに行っても、誰かに接触したり何かを触れたりする前に消毒する。

いささか抑圧的に感じたり、時には非論理的に思うこともあるが、その効果に疑いの余地はほとんどない。

渋谷氏は、日本で人々はマスクをしたり社会的距離を確保したりして非常にうまく行動していたが、今ではそうした振る舞いがなくなってしまったと指摘する。

ワクチン接種の展開が成功し、緊急事態が解除されたことで、人々は職場に戻り、パブやレストランへ出かけるようになった。

1年半もの間、人と人を遠ざけていた恐怖感は薄れつつある。

渋谷氏は、現在の非常に低い感染率は長くは続かないとみている。日本の状況は欧州に比べて1~2カ月遅れているため、間もなく感染の新たな波がやってくるだろうとしている。