【解説】 ロシア軍の予備役部分動員、何を意味するのか?

ローレンス・ピーター、BBCニュース

Russian troops in Kherson region, 9 Sep 22

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南部ヘルソン地域のロシア兵

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は21日、ウクライナをめぐり「部分的な動員令」の発動を宣言した。ウクライナを侵攻中のロシア軍は今月に入り、占領地を奪還されるなど大幅な後退を強いられている。

国民向けのビデオ演説でプーチン氏は、ウクライナ政府を支援する西側諸国によって、ロシアの「領土的一体性」が直接脅かされていると述べた。

また北大西洋条約機構(NATO)に対し、核保有国であるロシアはあらゆる兵器を使って、西側の「核の脅迫」に対応できると警告した。

この前日には、ウクライナ東部と南部の4州でロシアが任命した指導者らが、ロシアへの編入を問う「住民投票」と行うと発表している

ロシアは2014年にクリミア半島を併合した際も、同様の動きを見せていた。

部分動員、その実態は?

ロシアは、軍務経験のある予備役を30万人招集する計画。プーチン大統領は、招集されるのはウクライナでの紛争で必要となる特別技能を持つ人たちだと強調した。60歳以上の定年退職者も対象になる。

ロシアには2500万人の予備役がいるため、理論上はこの人数を動員することが可能だが、その予定はまだないという。プーチン大統領とセルゲイ・ショイグ国防相は共に、徴集兵を前線に送り込むことはないと強調している。

ショイグ国防相は一方で、1000キロにわたる前線を守るためには追加の部隊が必要だと述べた。

部分動員は数カ月にわたって段階的に行われる予定。プーチン氏は先に、ロシアは長期戦に備えていると話していた。ロシアの国営通信は、ロシア政府が動員令を発するのは第2次世界大戦以来だと伝えているが、実際には1980年代にアフガニスタン紛争のために、その後も北コーカサスでのチェチェン紛争のために、それぞれ数千人を招集している。

これらの紛争では十分な訓練を受けていない徴集兵らが多く殺された。そのためロシア政府は今回、反戦ムードの高まりを避けようと慎重になっているようだ。

ロシア軍はウクライナ軍より強いのか

ロシア軍は数の上ではウクライナ軍に勝っているが、ウクライナは戦場での戦術や西側の精密な武器などでその差を埋めている。

2月の侵攻開始時、ウクライナには19万人のロシア兵が投入されていた。これに、ウクライナ東部ドンバス地方の親ロシア派戦闘員が数千人いた。

ロシア政府はその後、金銭的な優遇と引き換えに大規模な兵の募集活動を行っている。そのため、シベリアやコーカサスといった貧しい地域から、チェチェン紛争を経験した戦闘員などが、追加の部隊員として投入されている。

ロシアは平時、軍隊の規模の上限を軍人100万人余り、一般職員約90万人と定めている。しかしプーチン大統領は8月、13万7000人を追加雇用する大統領令に署名した。

同国の徴兵制度では、18~27歳の男性に対し通常1年間の兵役義務を課している。ただし、健康状態や学生であることなど、さまざまな理由で免除される。

ロシア政府は当初、徴集兵をウクライナに送り込むことはないと述べていた。しかし実際には、徴集兵らに無理やりウクライナ行きの契約をさせていたことが明らかになり、当局者数人が懲戒処分を受けている。プーチン氏はその後、徴集兵は戦闘には投入されないと強調している。

侵攻以前、ウクライナ軍の規模は現役の兵士が19万6600人と、非常に小さかった。しかしウクライナ政府は大規模な動員令を発令し、兵士の数を大幅に増やした。

なぜ今なのか

西側の軍事アナリストや政治家らは、東部ハルキウでのウクライナ軍の大規模な反撃によって、ロシア政府が守勢に転じたとみている。これが、プーチン氏の最近の決断を説明している。

ショイグ国防相はさらに、これまでウクライナでロシア兵5937人が戦闘中に死亡したと発言した。しかし英国防省が7月に発表した分析では、ロシア側の死者は2万5000人と推測されており、これと比べてはるかに少ない。ウクライナは、敵側の犠牲者は5万人としている。

最近では、兵力の大きな損失を補うため、国内の刑務所で雇い兵を募集していることも明らかになっている。1979~1989年のアフガニスタン紛争では、旧ソ連軍は1万5000人の兵士を失っている。

BBCロシア語の調査では、ロシアはウクライナでパイロットや情報専門家、特別部隊など1000人以上のエリート軍人を失っている。

プーチン氏は核戦争を警告しているのか

プーチン大統領は演説の中で、ウクライナ政府を支援する西側諸国が反ロシア的な「脅威」になっていると非難。ロシアの領土的一体性が脅かされた場合、必要であればあらゆる兵器を使用すると警告した。

また、「わが国にもさまざまな大量破壊兵器があり、中にはNATO諸国が保有するものよりも近代的なものもある」、「これははったりではない」と付け加えた。

ロシアの軍規では、国土が攻撃され脅かされた場合に戦術核の使用が認められている。

ロシア軍はウクライナですでに、時速6000キロ超の長距離極超音速ミサイルを使っている。しかしアナリストらは、戦争の潮目を変えるには至っていないとみている。

ロシアが占領地域での「住民投票」を実施し、ウクライナ領土の一部がロシアに編入されたと主張した後に、ロシアの領土がNATOの攻撃を受けていると主張する可能性がある。

ウクライナ政府と西側の首脳は、この物議をかもしている「住民投票」について、ロシアによる占領の隠れみのだとみている。

アメリカの駐ウクライナ大使、ブリジット・ブリンク氏もツイッターで、「偽の住民投票や予備役動員は、弱さのしるし、ロシアの失敗のしるしだ」と書いた。

オランダのマルク・ルッテ首相も、予備役招集や住民投票の強行といったプーチン大統領の決定は「パニックの証し」だと述べた。

その上で、「プーチン氏の核兵器にまつわるレトリックは、これまでにも聞いてきたもの」で、問題視していないと語った。

その他の西側諸国の政治家も、核の脅威は高まっていないとしている。