インドの大作映画「RRR」、欧米で大ヒット 日本でもロングラン

A scene from RRR

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「RRR」では、インド映画界のスーパースター、N・T・ラーマ・ラオ・ジュニア(左)とラーム・チャラン(右)がダブル主演している

インドの大作映画「RRR」がインドで公開されてから、10カ月がたつ。しかし、アクションとファンタジー、歴史と人間ドラマを織り合わせて友情物語を描いたこの作品への注目は、今も各国で高まり続けている。

欧米での高評価と人気のほか、日本でも昨年10月の公開以来、上映館とファンを増やしながらロングランが続く。今月には米ゴールデングローブ賞で楽曲賞に選ばれ、アメリカ・カナダ放送映画批評家協会賞では外国語映画賞と歌曲賞を得た。

なぜこのインド映画が世界各地で大勢を魅了しているのか、BBCのメリル・セバスチャン記者が説明する(文中敬称略)。

S・S・ラージャマウリ監督は、「RRR」は主にインド人のために作った映画だと話している。インド国内と国外に住むインド人のために。しかし、公開されて以来、この映画は、さまざまな境界を越えて、次々と記録を打ち立てている。

実在した独立運動の闘士2人をモデルにした主役2人が、イギリスの植民地支配に抵抗するフィクションの物語で、インド南部で使われるテルグ語で撮影された。テルグ語映画のスター俳優、ラーム・チャランとN・T・ラーマ・ラオ・ジュニアが主演している。

世界全体でのこれまでの興行収入は120億ルピー(約192億円)に上る。アメリカのネットフリックスでは再生回数が何週間もトップ10入りし、日本では現在、インド映画の興行収入記録を更新中だ。イギリス映画協会(BFI)やアメリカ映画批評会議など、各国のさまざまな映画団体が、2022年の優秀映画リストに「RRR」を加えている。

今月10日に発表された米ゴールデングローブ賞では、劇中に登場する痛快で激しいダンスバトルナンバー「NAATU NAATU(ナートゥ ナートゥ)」が楽曲賞に選ばれた。続いて16日には、アメリカ・カナダの放送映画批評家協会賞で、外国語映画賞と歌曲賞を得た。

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主役2人が踊る「NAATU NAATU(ナートゥ ナートゥ)」の場面より

BBCカルチャーの映画評論家、ニコラス・バーバーとキャリン・ジェイムズは2人とも、それぞれの2022年映画トップ20に「RRR」を含めた。

この映画がこれほど世界各国で絶賛されて、どれだけうれしいか、どれだけ驚いているか、ラージャマウリ監督は複数のインタビューでたびたび話している。

「欧米で評価され始めたころ、私たちは『インド人の友達と一緒に見に行った人がほめてくれてるんだろう』程度に思っていた」と、監督は最近出演したアメリカの深夜トークショー、「レイト・ナイト・ウィズ・セス・マイヤーズ」で話した。

昨年3月に「RRR」がアメリカで最初に公開された時、観客の反応は大多数のインド映画に対するものと変わらなかったと、ニューヨークの映画批評家シダンド・アドラハは言う。彼が所属するニューヨーク映画批評家協会は昨年12月、ラージャマウリ監督を最優秀監督に選んでいる。

「公開直後の週末には、観客のほとんどがインド人だった。それが数週間もすると、観客の構成はがらっと変わっていた」と、アドラハは言う。

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「RRR」では目を見張る映像や度肝を抜くアクションが次々と繰り広げられる

口コミで評判が評判を呼び、大勢が映画館に足を運び、批評家はほめちぎった。ルッソ兄弟やエドガー・ライト、スコット・デリックソン、ジェイムズ・ガンといったハリウッドの大物監督が次々と絶賛した。

アメリカでの配給会社は、試写会での観客の熱意に手ごたえを感じて、公開に踏み切ったのだという。

「インド映画に対する反応として、これまでと全く違う」と、アドラハは言う。

上映会で興奮したアメリカの観客が、映像に合わせて踊りだしたり、歓声を上げる様子がソーシャルメディアに投稿された。スーパースターの出演映画で観客が大興奮して沸きに沸く光景は、インドの映画館では決して珍しくないが、アメリカではめったに見かけないものだ。

J・J・エイブラムス監督がロサンゼルスの有名な「チャイニーズ・シアター」で主催した記念上映会では、大勢がステージに上がり、「ナートゥ ナートゥ」を踊り始めた。

「アメリカの観客が、あるいはアメリカの映画関係者さえ経験したことのない、真新しい映画鑑賞体験を『RRR』は提供しているとも言える。だからこそ、ハリウッド映画の作り手さえ、この映画に引き付けられているのかもしれない」と、アドラハは言う。

観客をとりこにしているのはこの映画の語り口と堂々たる演技や映像だが、それと同時に、公開のタイミングも奏功した。

「『RRR』は、大音量で派手でケレン味たっぷりの過剰な映画だ。また映画を見たいと思っていた人たちが、待ってましたと言わんばかりの映画だ。劇場で見るにしても、自宅でネットフリックスで見るにしても」と、テレビ司会者でエンターテインメント・ニュースサイト「レイニーゴシップ」の創設者、エレイン・ルイはこう言う。

インドから米アカデミー賞への正式出品作は、「RRR」ではなく、グジャラティ語の映画「Chhello Show」(邦題「エンドロールのつづき」)だ。しかし、これほど評判になり、ハリウッドの監督やスターが口々に「最高だ」と絶賛する「RRR」が、オスカー候補になる可能性は十分にある。

ハリウッド業界紙「ヴァラエティ」は、「RRR」がアカデミー賞の作品賞、監督賞、撮影賞、オリジナル歌曲賞でノミネートされる可能性があると予測している。

「RRR」の製作陣が、自分たちの映画をアカデミー賞の外国語映画部門ではなく長編映画部門にエントリーし、大胆にもハリウッドの大物たちと競う姿勢を見せたのが、「大勢の注目を集めた」と、ルイは言う。

「この業界では、『バズる』のはとても大事なこと」だとルイは言う。そして「RRR」は今や、あちこちで話題になっている。「週末やパーティーなどで人が集まると必ず、『RRR見た?』という話になる」。

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ハリウッドの大物たちが口々に「RRR」を絶賛している

アメリカの映画興行収入はここ数年、マーベル映画や「ワイルドスピード」シリーズに独占されてきた。それだけに欧米の多くの観客にとって、「RRR」は新鮮でエキサイティングな作品なのだ。

「アメリカの超大作映画は、とてもシニカルだったり、皮肉的だったり、あるいは映像そのものをあまり大切にしない量産品のように次々と送り出されたりする。それだけに、『RRR』ほど誠実に、とことん丁寧に作られた優れた外国作品が、こうしてアメリカでヒットするのは、時間の問題だったのかもしれない」と、アドラハは言う。

そして、まさにラージャマウリ監督作品らしく、「RRR」は目にも鮮やかな映像で、いくつもの大がかりで手の込んだ場面を描き出し、創造性あふれる豊かな物語を語る。ほかに比べる物がない、独自の映画体験を提供している。

主人公2人が最初に出会う場面も、そうした印象的な場面のひとつだ。1人は馬で、1人はバイクで、橋の上を疾走し、燃える川で助けを求める子供を救うために、一気に橋から飛び降りるのだ。

「アメリカの観客は一般的に、これほどすさまじい最大級のスペクタクルに慣れていない」とアドラハは言う。加えて、作品としての完成度が「あまりに高い」ため、「どういう文化背景の出身かを問わず」誰にでも響く映画になっていると。

さらに、インド以外の人がインドのボリウッド(ヒンディー語映画界)やトリウッド(テルグ語映画界)の映画とはこういうものだと思う、その期待にも応えている。刺激的な映像、大群衆、アクション満載、大胆不敵――といった要素はそろっている。しかも同時に、安易なお約束表現には決してなっていないのだと、ルイは言う。

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インドでは「RRR」に多数登場するヒンドゥー教のイメージへの批判もある

「RRR」がインドで大成功するのは、決して意外なことではなかった。映画「バーフバリ」2部作の大ヒットで、ラージャマウリ監督の名前はすでに国内に知れ渡っていたし、大スターが大勢参加する大作への期待は公開前から高かった。

しかし、インドの一部の批評家は、映画の政治性やヒンドゥー教の図像活用、さらにはインド国内の特定民族集団からの文化盗用を問題視して、中程度の評価しか与えなかった。

作家で映画評論家のソウミヤ・ラジェンドランは、インドでは映画という表現手段は、きわめて政治的なものになっているのだと説明する。そのため、民族集団の権利のために戦い、イギリスと戦った実在の闘士2人を、フィクションの主人公として描き、さらにその2人をヒンドゥー教の伝説的な英雄と重ねたことで、インドではこの映画を見る目が厳しくなったのだという。

それに対して欧米の観客は、「RRR」を主に「反植民地主義の物語として受け止めている。西側の人がすぐに気づくのが、その政治性なので」と、ラジェンドランは付け加える。

アメリカでこの問題を取り上げる記事も、多少はある。

映像に含まれる象徴性は自分たちの理解を超えていると多くの人が認めるものの、象徴性に対する批判も「RRR」をめぐる対話の一部になっていると、アドラハは言う。「自分が見て楽しんでいる映像について、より理解を深められるようになるだけでも」指摘は有用だからだ。

「RRR」に関する会話は進化を続けている。他方、ラージャマウリ監督とこの映画の関係者は、インドの映画産業の中にあった境界線も、その外の境界線も、打破してみせた。それは確かだ。

そして、これは始まりに過ぎないのかもしれない。ラージャマウリ監督の次の一歩は、ハリウッド映画になる可能性もある。それは「世界中のすべての映画関係者にとっての夢」だと、監督自身も話している